冷たい雨が止まったら
その場のノリで書いてるからなにこれ 猫と人かな 怪文書寄り
「雨が嫌いなわけじゃないのよ」
君はまだまどろみの中にいるような声でそんなことを言う。
「ただね、雨が降っている時はなかなか目が覚めなくって、お布団から出られなくなってしまうの」
だから自分は悪くないのだと言いたげに君は僕の毛皮に鼻を埋める。それ自体はまあ、構わないのだけれど。君はそのまま眠り込んでしまいそうなのだった。
僕は雨ってあんまり好きじゃない。毛皮が湿ってじっとりしてくるし、すぐぼさぼさになる。そもそも濡れるのが嫌だ。晴れた日の方が温かくてお昼寝するのも気持ちいいし。だから雨はあんまり好きじゃない。
外では、雨の音がしている。しとしとと、水の音がしている。そこに、いつの間にか君の寝息が混ざっていた。思った通り、起きていられなくなったらしい。君はそういうやつだ。僕の考えなんか気にしちゃいないし、あんまり話も聞いていない。
仕方がないので、しばらく君に付き合ってあげることにする。君はもうちょっと僕に感謝した方がいい。きっと君は、僕に見捨てられたら生きていけないんだから。もっと、ちゃんと、僕のことを見て。僕の声を聞いて。僕に君の声を聞かせて。
君の声がしなくて、雨が降っているから眠たくなってきた。僕だって、雨の日は眠いんだ。いっそ眠ってしまおうか。君も眠っているのだし。僕一人で起きていても仕方がない。
目を閉じるとすぐまどろみが寄ってきた。とろとろと、意識が雨に溶けていく。僕は雨は嫌いだ。
「あわわ、何で起こしてくれなかったの?いつもなら、腕に爪立てるとかして起こしてくれるのに!」
君が何やら騒いで、走り回ってるような音が聞こえる。起きたらしい。いや、寝坊したらしい、という方が適切なのかも。
何でも何も、昨日は今日の朝、起きないと困るというようなことを言われた覚えはない。あと、今朝は君を起こそうという気分にはならなかった。それだけだ。特に深い理由があるわけではない。起きたくないのなら、眠っていればいい。
どうせ起きたら僕を置いて何処かへ行ってしまうのだし。
「…よし、走ればギリ間に合う。朝ごはんは運が良ければ道中で買える。よし、いってきます!」
慌ただしく君が扉をくぐって、大きな音を立てて扉が閉まる。騒がしいことだ。
僕はまた眠る。相変わらず雨音がしている。今日は一日中降っているのかもしれない。雨が止んだらいいのに。君の足音が、雨音にまぎれてしまうから。君が戻ってきた時に、すぐ気付けるように。
布の折り重なった暗がりの中に、鼻先を突っ込む。君がいないと、この場所は少し寒い。君はその内戻ってくるとわかっていても。君がずっと此処にいたらいいのに。
まどろみの中に、昔の欠片。あのときないていたのは、君と僕と、どっちだった?
ふと目が覚める。君はいない。雨音がしている。
日は落ちていない。水を飲む。ここに動くものは僕しかいない。君がいないから。
相変わらず眠い。雨が降っているから。雨が降っていると眠くなる。君も、僕も。君も何処かで寝こけては、いないのか。まあ、眠りは安全なところで取るものだ。扉の外は、多分安全とは言えない。
もう一度眠る。外で雨の降っている音がする。
君の足音が聞こえたから、起き上がって伸びをする。出迎えまではしないけど、君は僕を置いていった埋め合わせをする必要がある。
乱暴な音をさせて、扉が開いた。
「ただいまー!…寝てた?眠いなら寝てていいよ」
眠ろうと思えば眠れるけど、起きていられないほど眠いわけじゃない。君が、起きて居るなら僕も起きている。
外はまだ雨が降っているのか、君からも雨の匂いがする。乾かした方がいいだろう。君はおっちょこちょいだ。また転んだり僕を濡らしたりするかもしれない。
「そんな嫌そうな顔をしなくても…でも、先にシャワー浴びてきた方がいいかな…」
君がホカホカになって戻ってくるのを待つ。風邪を引いたりしたら困るし。
ホカホカで戻ってきた君は匂いも大体流しさっていた。それが気に入らなくて君に頭を擦りつける。僕のにおいがついたら少しはマシな気がして。
「なに?かまってちゃんかな」
君は僕の気も知らぬげにそんなことを言って笑う。知らぬげというか、実際わかっていないのだろう。本当に君は、もう少し思慮深く振る舞ってくれてもいいんじゃないかな。
「私も君のことは大好きだよ」
頭を撫でられる。それが悪いとは言わないけれど、それで誤魔化されるとは思わないでほしい。僕はそんなに単純な奴じゃないのだ。
君に撫でられること自体は悪くない。まあ僕の機嫌自体はちゃんと読み取って撫でてほしいけど。君は撫でるのが下手なわけじゃないし、変なことはしてこないし。
君の腰に体を預ける。君の温度で少し安心する。君が此処にいる。僕の傍に。暫くは此処にいてくれるはずだ。いつもの通りなら。
「眠くなっちゃった?…いいよ、眠っても」
君は優しく僕を撫でる。眠りたいわけじゃないけど、眠くなってくる。目を閉じて、深い呼吸をした。まどろみが歩み寄ってきている。君の手の感触が、一定のリズムで流れていく。
遠くで雨音がしている。君がここにいてくれることだけは、雨のいいところに入れてあげてもいい。僕は、雨はやっぱり好きじゃないけれど。




