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F-2無双(仮)  作者: 穀潰之熊
第二部 奥葦原

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33 酉作戦:甲「The Demon of the IFu」

央暦1969年6月27日

松後藩先湊 松後城本丸


 葦原本州最北端にして、東征軍司令部となった先湊海軍基地。

 この海軍基地の中枢は、この1000年近い歴史を持つ城にあった。


 幕府軍との戦闘で破壊された先湊には、港と飛行場以外に設備がない。

 故に、周囲で最も背の高い建築物である松後城に防空システムが配置され、今も北の夷俘島から迫る空の目標に睨みを利かせている。


 はずだった。


「司令、電波妨害を探知! 無線通信不能!」


「仕掛けてくるか……どこだ」


「それが……」


 測距員が見るレーダー・スコープを覗き込むと……

 確かに巨大な電波発信により、探知範囲の大部分がノイズによって遮られていた。


 異常なのは発信源の位置だ。


「城の敷地内っ、乱破か⁈」


「これは人間が携行できる出力ではありません。

発信源は、この城のすぐそばにある松屋隧道の坑口(でいりぐち)

それも……徐々に反応が強まっています」


「……念のため、隧道に人を送れ」


「了解しました」


 司令は背を伸ばすと、窓の外から城から望む景色へ視線をやった。

 違法建築の如く無理矢理固定した標的捜索用レーダー・アンテナの姿は、恐ろしく不釣り合いな姿だ。


 美しい葦原の城には滑稽な代物かもしれないが、先の戦闘で双方のレーダーは破壊しつくされており、西南の守りから捻出できた唯一の捜索レーダーだった。

 幕軍側の攻撃を察知できる、唯一の目。

 事実、何度かやって来た偵察機をこのレーダーで発見して撃退している。


 滑稽、といえば。


「先ほど探知した通信はどうだ?」


「続報ありません」


 この異常な妨害電波が生じる少し前。

 夷俘島から強力な通信が発せられたのだ。


 その内容は、極めて単調なもの。


『レッド・ライト!』


 異国の言葉で、赤い光。あるいは赤信号(・・・)だろうか?

 その意味を司令部の面々でも考えてみたが、結局答えは出なかった。


 この矢先に、城の敷地内から妨害電波が発せられた。

 関連性を考えない方がどうかしている。


 あるいは幕軍が混乱させるために発した欺瞞情報か。

 だとしても、妨害電波だけは看過できない。

 有線通信なら問題はないが、無線での通信が不能になっているのだ。


 それも夷俘島に通じる唯一の陸路(・・)、松屋隧道だ。

 もしや、あのトンネルで何かあったのではないか?


 司令が思考を向け始めたそのときだった。


「司令。有線で隧道の部隊が通報してきましたが……」


「なんだ?」


「空襲あり、と」


「空襲?」


 いったい何の冗談だ。お前の居る場所は隧道であり、閉鎖空間。

 空襲といえば航空機によるものであり、航空機は空を飛ぶもの。

 全幅・全高わずか20メートルの空間を飛べるような代物ではないのだ。


「どこのどいつだ、戯言を……!」


「それが、軍が敷いたものではなく、点検用有線でした。

それっきりです」


 どこかの初年兵が、悪ふざけで鉄道業務用の有線を使ったのか?

 このような空気が蔓延すると、自分のキャリアに障る。絶対に対処しなくては。


 半分現実逃避に思案していると、司令所の壁に貼り付けられたあるものに気づいた。

 幕軍の神兵。その機体のスケッチである。


 彼と対峙して生き延びた人間は多くないが、それでも少数逃げ延びた者もいる。

 絵心のある生存者が描いたものだ。見た事のないシルエットに国籍標章。

 政府も航空機の専門家に見せたが、


『こんなもの、飛ばせたとしても不安定に過ぎる。空力的に。

おおよそ、人が飛ばせるものではない』


 と評したという。

 そう、飛行機は自重を浮かせる揚力を発生させればいいというわけではない。


 安定した飛行が必要だ。

 常にパイロットが操縦桿を完璧に操作しなければ、真っ直ぐにも飛べないような機体。

 そんなものは人間には運用できないのだ。


 しかし、幕軍の神兵はそんな機体を操っているという。

 まじまじと、スケッチに併記された諸元に視線をやる。


 全幅は推定10メートル、全高は5メートルほど。


「……理論的には、可能なのか」


「司令……?」


 ほんのわずかなミスも許されないが、正確に飛べている限りは壁や天井に接触することはない。

 10数トンもの質量が音速で飛行すれば、内部では凄まじい気流が生まれてとんでもない事になるだろう。


 人など、風に吹かれた落ち葉の如く吹き飛んでしまう。

 エンジンが発する猛烈な爆音によって鼓膜は破壊され、脳髄も強く揺すられる。

 尋常でない精神力を持つ者でなければ、動くことさえままならないだろう。


 あの隧道で戦闘機が飛んでいたら、歩兵は戦うまでもなく壊滅状態。


「……いや、そんなの、不可能だ」


 額を冷や汗が滴った。

 作戦としての邪道にも程がある。


 考え付いた者がいたとしたら?


 それは従事者の命など微塵も気に留めない異常者で、指揮者に値しない。

 作戦とは一定以上の練度と装備さえあれば成功できるように考えるものだ。

 属人的な技術に頼って立案するべきではない。


 一騎当千の猛者が戦場を左右する時代は、とうに終わっているのだ。


 では、このような無茶を馬鹿正直に実行する者がいたとしたら?

 正気ではない、物狂いだ。


 それを成功させるとしたら?

 お話にならない、実現の見込みのない仮定は手慰みに行うものなのだ。

 このような場で発するべきではない。


 しかし、もし。そのような作戦を実現する能力があるとすれば?

 戦場の歴史は数百年、退行することになるだろう。


「そう。あり得ない、そんな事。あってはならない……」


 自分に言い聞かせるように、司令は呟いた。

 有線の電話が、彼を現実に引き戻した。


「歩哨より連絡! 隧道から、異常な音が……!」


「門を閉ざせ! 今すぐに!」


 報告を聞いた途端、司令は決断した。

 この程度の判断ならば、間違っていたところで大した問題はない。


 もし、推測が合っていたとすれば。

 こんな無茶を押し通す化け物が、隧道より這い出てきてしまう。

 古い時代のように、夷俘の魔物デーモン・オブ・ザ・イフが。


「ですが、開閉は数百年行われていませんっ!」


「いいからやれ! 出来る奴全員にやらせろ!」


 思わず彼は窓から松屋隧道の様子を伺った。

 松屋隧道はかつて迷宮であり、長らく魔物が這い出て来た場所だ。

 故に、木製の門が備えられていた。


 しかしこの門が閉ざされていると、中にいる人間が吸うための空気が澱む。

 過去に通行中だった一団が命を落とす事故まで起きていた。


 ましてや、鉄道での往来が主流となった現代。

 この門には、もはや史学的な価値しかない。

 当然改修などされておらず、手動で開閉する必要がある。


 もし、音速で向かって来る物体があるとしよう。

 不可能だ。この門にたどり着く直前には坂がある。

 飛行機は鋭敏に曲がれるような代物ではない。そう、不可能なのだ。


 たとえ可能だとしても、木製の門とぶつかるだけで飛行機はぺしゃんこに潰れてしまう。

 飛行機とは便利だが、封鎖空間を飛ぶものではないのだ。


 慌ただしくも、周囲の歩哨や作業員問わず門の閉鎖を始め。

 門はゆっくりと、それでいて着実に動き。

 

 そして、閉ざされた。


 安堵すると同時に、件の爆音が城の方まで聞こえて来た。

 まさか、本当に戦闘機がここまで来たとは。


「だが、残念だったな。お前の……」


 負けだ。

 そう告げようとした直後、門が爆ぜた。

 外側からの爆発、これは攻撃ではなく破壊工作だ。


 しかし……それも無駄な抵抗。

 完全破壊には至らず、周囲の人員を吹き飛ばして門に亀裂を入れたに過ぎなかった。

 その隙間は横13メートル、縦6メートルといったところ。突破は不可能だ。


「幕軍の神兵、討ち取った……⁉」


 超音速の蒼い影が、隧道から飛び出した。

 そのわずかな隙間を彼は通り抜けたのだ。


「こんなっ……⁉」


「……ははっ」


 もはや、司令には笑うしかなかった。

 こんな戦、幕府が勝とうが政府が勝とうが。

 間違いなく歴史に残ってしまう。


 もっとも、後世の人間が信じてくれるか甚だ疑問だが。


「てっ、敵襲!」


「総員対空戦闘ッ! 敵は隧道より接近!」


 隧道を突破した神兵は唖然とする政府軍人の目の前で宙返りすると、松後城に設置された防空システムのレーダーを破壊してみせた。

 そして、司令室の通信機が拾うのだ。ひときわ大きな発信を。


グリーン()ライト(信号)!」


 それは、幕府軍反抗の鏑矢(かぶらや)であった。

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― 新着の感想 ―
そのうち馬鹿でかい大砲破壊ミッションとか、僚機との一騎打ちとか発生しそう
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