30 OPERATION:ROCK BREAKER「陽動作戦」
央暦1969年6月27日
北部藩 石射飛行場
葦原政府唐津海軍航空隊『振遠隊』
岸岳“ヘイズ”茂実少佐
彼女、岸岳茂実は居住まいを正すと、飛行隊隊舎の戸を叩いた。
「おう誰か!」
「第21飛行隊振遠隊隊長、岸岳茂実少佐! 入るぞ!」
「茂実か、入れ!」
建付けの悪い戸を半ば強引に開放すると、溝のすり減った敷居をまたぐ。
「久しいな茂実、西南の様子はどうだ」
彼女を出迎えたのは、石射飛行場の主にして第9飛行隊隊長。
松影凛之助中将であった。
ふたりはかつて、肩を並べてリールランドと戦った仲だ。
現在、茂実の振遠隊は南西のマランス合衆国と睨み合いを続けているが、彼女たちは人員異動という名目でこの地に派遣されていた。
神機隊。この戦の趨勢を左右した部隊が、敵の精鋭部隊と相打ちになったのだ。
酷く残念なことに、その部隊の隊長加藤淳之介は、茂実と凛之助の3人組でリールランド遠征軍の旗艦を撃沈した旧知の仲であった。
「ここ最近、合衆国の連中は頻繁に領空付近を飛ぶようになっている。
幕府軍やら神兵やら……死に体の旧態政府とプロパガンダに構っている暇はない」
「報道ばかり見ていると、そういう感想になるよな」
「それは、どういう意味だ?」
茂実の親族には報道関係者がいる。
その話を知らないほど、凛之助とは薄い関係ではない。
苛立ちを込めた言葉を投げつけたその時、電話が着信音を響かせた。
無視して自分と向き合え。そう言えるほど、茂美は若くない。
「どうした?」
「住民から苦情が入っています。高出力で低空飛行している戦闘機がいると。
管制隊に連絡して、危険飛行をやめさせてください」
「……危険飛行だぁ?」
凛之助と茂実は同時に、壁に貼られた石射飛行場周辺の地図に視線をやった。
「苦情が入った地点を頼む。太郎、電探の配置図を持ってこい!」
「了解っ!」
配置図を持ってこさせる間に、凛之助は壁から地図を剥がして卓上に広げる。
そこに電探の配置図が並べられた。
「ええと、最初の通報は東健町1丁目……」
そこは石射渓谷に続く町だ。
長い渓谷の先には果ての海があり、時折流れてくるはぐれ雲のせいで海沿いにレーダーを設置出来ていない。
通報元を照会していくと、東から西へ。
蛇行しているが、間違いなく石射飛行場に近づいていた。
それも、レーダーの索敵範囲を綺麗に避けることが出来るルートであった。
この情報の断片を繋ぎ合わせれば何が浮かび上がるのか。
凛之助は受話器を手に取った。
「全機、武装して出撃準備! 完了次第空に上がれ! 高射隊は臨戦態勢!」
空襲だ。
幕府軍は果ての海を南下し、最前線基地である先湊ではなく、少し後方に位置する石射飛行場を狙ったのだ。
「あの電探も、元は幕府が築いたもの……想定しておくべきだったな」
「待て。だとしても……そんなのは不可能だ。淳之介以外には」
どこか達観したようにうなずく凛之助に、茂実は反論した。
確かに隙間は存在するが、低空のわずか50メートルほどの空間しかない。
レーダー網を避けるために渓谷を低空飛行で突破し、その先でもレーダー網を正確に把握し続ける。
そんな真似ができる人間は、こちら側にいた。
幕軍になどいるはずがないのだ。
「いいや、可能な奴がいる……幕軍の神兵だ」
「バカな、神兵など幕府のプロパガンダだ」
「そう。政府はそういう事にしている……だがな、俺は聞いたんだ。
信頼できる筋から」
「誰だ?」
その時、電話が鳴り響いた。
基地司令となれば私語より電話。即座に受話器を取った。
「今度はなんだ!」
「着陸態勢に入った輸送機より通報! 敵機後方、通信にてここへ向かうよう
要求されているとのことです!」
「くそっ、あいつら輸送機を盾にして迎撃を封じる気だ」
高射隊、地対空ミサイルや対空機関砲は味方だけを都合よく素通りなどしない。
ミサイルは味方機に誤誘導し、砲弾も容易くボディを破壊する。
目前の戦果をこらえ、基地攻撃に全力を尽くしているのだ。
「卑怯な連中め!」
「へっ、ここで言って治るものかよ。茂実、機体は動くか?」
「機体は不調だが、代替機があれば助かる」
「俺の蒼鷹なら……やれるか?」
「陸で刀を振り回すよりはな」
「伝えておく、頼むぞ!」
想定外の事態だが、軍人として全力を尽くすしかない。
踵を返して、電話の鳴り響く隊舎の敷居をまたぐ。
「はぁ⁈ 誰だ、あの機を動かしたのは!」
この言葉を聞いて、関連性を感じた茂実は足を止めた。
今回連投です




