表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~  作者: 穀潰之熊
第四部 東国地方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

145/148

139 天下分け目の戦い 12日朝「BATTLE of ASHIHARA」

央暦1970年4月12日

真田藩 真田空軍基地

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉


 幸いにして何事もなく、チェイスは真田藩の空軍基地にたどり着くことが出来た。

 ATCから着陸の許可を貰い、滑走路へと進入する。


 すると、哨戒中の地上部隊らしき交信が耳に入って来た。


「見えるか? あのBT-4、主翼に紅の一つ星だ!」


「蒼穹の魔王⁈ なんで海軍の機体に⁉」


「尾翼に八咫烏は見えるか?」


「いや……違う印だ、見た事がないぞ」


 このガルーダはチェイスが搭乗するに際して、尾翼に114飛行隊のマークこそ描く余裕はなかったが、主翼に日の丸を描くことは出来た。

 尾翼に描かれているのは、空母タナト艦載機部隊のサーベル隊のものだ。


 どうやらその影響で地上にちょっとした混乱が起きているらしい。


 とはいえ、彼らに違うと言っても通じるはずがない。

 彼らの知るチェイスと志村良介はイコールで結びつかないのだから。


 少々懸念こそあったが、チェイスはガルーダを滑走路に降ろし───

 駐機場へと歩かせた。


 山間部に位置する真田空軍基地には、心地よい風が吹いていた。

 その風に乗るかのように、人の駆け寄る気配が複数。


 そちらへ視線をやると───


「良介さんっ!」


 残念ながら、女の子ではない。

 オメガ2と3、秀彦と敬一であった。


「よう、ふたりとも」


「無事に戻ってきたんだな」


「ああ。合衆国の空母で休暇を……

ついでに、幸彦の艦隊を使えなくしてきた」


「ひゃーっ、休暇ってレベルじゃないですよっ!」


 どうやら、出迎えは彼らだけらしい。

 ペンギン隊の面々や、新選組の顔ぶれは見当たらなかった。


 良介はタラップを降りると、ふたりに尋ねた。


「他のみんなは?」


「ペンギン隊のふたりは哨戒中、新選組は民間機の護衛だ」


 今この時も、航路の安定化作戦は継続中だ。

 そろそろ、今日の分が終わるといったところだろうか。


 幸彦の艦隊が出張って来た事を除けば、民間機の離脱は安全に終わりそうだ。


「ボスは、まだ戻ってない?」


「実はこれから……ほら!」


 敬一の指し示す方向を見やると───

 滑走路にアプローチする機影。


 蒼いラインの入った、単発の五式打撃戦闘機。

 ボスの機体、P-20ドゥンだ。


 滑走路にタッチした時に見えた、尾翼のペンギンが良介にそう確信させた。


「いいタイミングだ」


 滑走路から駐機場に向かって来る機体を出迎えると───

 間もなくして、BOSSと書かれたヘルメットが機内から姿を見せた。


「おうしむすけ。お前も今帰りか?」


「うん。ちょっと合衆国の空母から出て、幸彦の艦隊ぶっ飛ばしてきた」


 ボスは良介と、日の丸の描かれたBT-4を交互に見た。


「……話は聞いてる。またF-2ぶっ壊したんだってな?」


「説教は勘弁してくれよ。他に手段がなかったんだ」


「わかってる……お前は変わらねえなって、そう思っただけだ」


 説教を覚悟していた良介は、少しだけ肩透かしを食らった気分になった。

 あのF-2は最後の日本なのだから、もう少し理不尽な感じで来ると思ったのだが───


 ともあれ、余計な説教はない方がいい。


「秀彦、敬一。お前らは待機中か?」


「いえっ。本日は休養を命じられています」


「昨日の戦闘で、僕ら被弾したので!」


 しかし見たところ、ふたりに怪我はなさそうだった。

 彼らは新米だ、至近弾と機体損傷による精神的な負担を鑑みての措置なのだろう。

 もっとも、その辺りの心配も見受けられないが。


「お前らも平気そうだな。よかったよ」


「俺の心配はないのかよ?」


「お前が死んだら、どこにいても聞こえるぐらいのニュースになるだろうからな」


 ははは。

 良介以外の面々は笑い出した。

 笑い事ではないが?


「まったく。俺様は死に掛けたってのに、とんでもない上司だ……

F-2はこの戦闘が落ち着いたら送るってさ」


「損傷の具合は?」


「確実なのは、左主翼破損とアレスティングフック脱落。

中身も衝撃でやっちゃったかも」


「……1ヶ月は固いな。どうにかなるか?」


「予備機のナーガでどうにかしてみるよ」


 ナーガは移送中で、今日中にはこの基地に到着するという話だった。

 明日の戦闘までには準備も間に合うだろう。


「よし。明日の戦闘からは俺達も復帰する」


「本当ですかっ⁈」


「ボスさんと、遂に戦えるんだ……!」


「あのなぁ。お前らのボスは俺じゃなくて……」


 空軍基地の滑走路付近を車が走る機会は珍しくない。

 航空機が離着陸するための空間は、人間が自身の脚である国は優しくない広さがあるためだ。


 しかし、近くで荒っぽくブレーキを踏まれては意識せざるを得ない。

 一行は爆音を振り返ると───

 武装した兵士が複数、鼻息荒く歩み寄っていた。


「なんだ、こいつら……」


「空軍の基地警備だ」


 物々しい雰囲気の一団に警戒していると、彼らが抱える銃口が良介たちに向けられた。

 冗談ではない、一体何の真似だ?


「どういうつもりだ!」


「黙れ、偽物めっ!」


 先頭で拳銃を持つ将校が、秀彦の言葉を一蹴した。

 その気になるワードに、良介は反応せざるを得なかった。


「偽物?」


「そうだ! 蒼穹の魔王チェイスを騙る偽物め!

紅の一つ星は真似できても、尾翼の八咫烏を忘れたな!」


───そういうことか。


 納得している場合か!

 情報の行き違いで撃ち殺されては、シャレにならんぞ!


「顔は似ていても、あの方の高貴な雰囲気は真似出来んかったな!」


「ぶふっ、高貴……」


 ボス、あんたもツボっている場合ではないぞ。

 どうやら彼らの標的は、この場にいる良介の周囲らしいのだから。


「俺達は姫様と戦うあの方を、この目で見ていた!

あの方の機体はこんな機体ではないし、尾翼には八咫烏があった!」


 真田藩の空軍基地ならば、真田藩解放戦で戦っていた兵士でも不思議ではない。

 実物を見ているという事実が、彼らから確認するという工程をスキップさせてしまったらしい。


 さて、義憤を前に興奮している人々にはどのような言葉を掛けるべきか。

 下手な言葉はかえって炎を強くするだけだぞ。


───一応、事実は伝えてみるか。


 言葉は慎重に選べよ。


「うーん、顔が似てるっていうか……俺がチェイスなんだけど」


「嘘をつけ! 新聞に写ってた顔は、もっと色が薄かった!」


「そりゃ印刷の問題だろーが」


「なんだとぉ……!」


 だから、刺激するんじゃないっ!

 状況が好転するまで、今は時間を稼ぐべきだ。


 お前はATCに身分を確認され、着陸を許可された。

 基地司令クラスがお前の身分を彼らに証明すれば、問題なく解決する。


「待て待て待てぇっ! そこの者っ、その者は本物だっ!

本物の、蒼穹の魔王殿だっ!」


 どうやら早速、その時が来たらしい。

 事情を知っている歩兵と将校が、車に乗って大慌てで駆けつけてくれた。

 将校は飛び降りると、仲裁に入ってくれた。


大尉(だいい)殿っ、惑わされてはなりませんっ!

新聞に写っていたあの方と、多分違います!」


「違わないっ。彼は先の戦闘で機体が損傷したが、

着艦した先の空母艦載機で出撃して幸彦藩の海軍と交戦後、

その足でここに帰還してきたのだ!」


出鱈目(でたらめ)だ! そんな話、あり得ないでしょう!

……あなたも、賊軍の間者(かんじゃ)なのかっ?」


「うーん、正論だ……」


「頷いてる場合ですかっ⁈」


 確かに良介自身も事情を知らずにこの顛末を聞いたら───

 真に受けないだろう。

 とはいえ、この状況は過剰反応甚だしいが。


 しばし、互いの動向を伺う睨み合いが続くと───

 着陸してきた機体のエンジン音が迫っていた。


 状況を把握していないのか、あるいは───

 良介が横目にその機体を見やると、確信出来た。


 数十キロの猛スピードで滑走する大型戦闘機は、良介たちのいる場所に突っ込んできていた。


「う、うわっ! ぶつかる!」


 興奮する真田藩の兵のひとりが気づくと、みな蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 そうして生じた空白の間に、その機体はギアブレーキから甲高い声を上げながら静止した。


「だ、誰だぁっ⁈ また賊軍の侵入者かあっ⁈」


 興奮に任せるまま、兵が機体のコクピットに銃口を向けた。

 危機的状況だというのに前席のパイロットは風防を開くと、立ち上がった。


「まあ待て、曹長。少し話を聞いて欲しい」


「ぞ、賊軍相手に問答無用っ!」


「曹長殿っ! この機体、尾翼を!」


 兵の叫びに、下士官は大型戦闘機の尾翼に視線をやった。


 オメガ隊のマーク。

 そのマークには、ある意匠が含まれていた。


 大和将軍家。

 大和幕府、かつての葦原連邦指導者一族。

 オメガ隊隊長である松平吉宗の生家、その家紋であった。


「大和家の家紋……! では、あなたはっ!」


「控えおろうっ! この方を、どなたと心得る!」


 後席の赫助は立ち上がると、その名を興奮した兵たちに知らしめた。


「かつての大和幕府将軍、その兄!

松平宗治郎大佐殿であるぞ! 控えおろうっ!」


「は、ははーっ!」


 葦原人の面々は流れるように跪くと、頭を伏せた。

 実に前時代的な光景だが───


 いずれこういった習慣からは脱却しなくてはならないのは明白。

 しかし一方で、慣れ親しんだ権威主義(しゅだん)が確実な場合もある。


 そういう事なのだろう。


「ま、松平公っ。では、そこのお方は……!」


「うむ。本物のチェイス……蒼穹の魔王だ」


 血気に逸っていた兵たちは、一斉に小銃を捨てて平伏した。


 手段はともかく、助けられたことになるのだろう。

 良介は吉宗を見上げた。


「助かったよ」


「貴官が気に入らないやり口なのはわかっている。

だが、許してくれ。他に安全な手段がなかった」


「俺だってそこまでガキじゃない、わかってるよ」


 良介が笑みを浮かべると、吉宗も同じく笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ