4: 公爵家御訪問
宰相が王城に上がって少し経った頃、公爵家の近くの森に一匹と一人の影があった。まるで誰かを待つように、何をするでも無くその場を動かなかった。
話し合いも終わり、今日は家に帰るという宰相に魔法拘束具を外した(物理的に)アウラはウィルデンスについて行った。帰りはウィルデンスと騎士団長の三人で馬車に乗った。
「貴女はこれからの寝食はどうします? 公爵家の部屋を使います?」
「貴方が良いと言うのなら。……あっ、この事は言っておいた方が良いのか」
ふと何か思い出したアウラは小さく呟いた。
「気づかなかったとおもうけれど、同行者が一人とその護衛が一匹居るの」
騎士団長はアウラのその言葉に驚いた。長年公爵家の為に鍛えた観察力、気配の察知を持ってしても、彼女の近くには誰も居なかった。
「……気配は全く感じなかったぞ」
「当たり前よ。違う所にいたから。だから、その子達の寝食出来る場所だけは欲しいわ」
「使用人用の部屋だけですけど」
「何処でも良いわ。あるだけまだマシだから。まあ、食料は私が森から取ってくるから、おやつとかの盗み食いくらいは許してあげて」
アウラの言動からウィルデンスは推測した。
アウラより歳下の者一人とその子に従う魔獣一匹。
「まあ、ほとんど正解に近いわね」
夕日が沈んで行き暗闇が広がる中、騒がしかった街は夜の騒がしさを出し初め、日中の騒がしさは少なくなって行くように広がった。
「……あのさ、貴方その敬語止めて」
少しの間があり、アウラはウィルデンスに言った。
「……協力関係なのでこれくらいだと思ったのですが。不服でしたか?」
「そういうのはあの皇帝に使いな」
「……そうだな。これくらいで良いか?」
「十分」
公爵家までそう遠くない為、馬車の中から既に屋敷が見えていた。帝国貴族で高位の権力を持つ四大公爵家の一つと言える程の立派な屋敷だ。出る時も少し見たが、やはり広大だと思った。
馬車が門を潜り、レインバーン公爵家に再び足を踏み入れた。屋敷の入口の前には数人の執事とメイドが立っていて、この家の主の息子を迎え入れた。
「おかえりなさいませ、ウィルデンス様」
「嗚呼、ただいま。父上と母上は?」
「既に中におります」
執事と一番先に降りたウィルデンスは屋敷の中に入った。
「あ、ウィルデンス様。また見合い話が来ています」
「はあ、またか。私はまだ結婚するつもりなど無いのに。父上も母上も頑固ですね」
コソコソと人に聞こえない程の声で二人は話した。
すると、テンションの高い声が中から聞こえた。それと同時に、二人の人影が出て来た。
「おかえりなさいウィルデンス!!」
「ただいま戻りました。父上、母上」
「この数日間もご苦労だったな。ゆっくり休め」
「はい」
ウィルデンスと公爵夫妻は屋敷の玄関で談笑していた。すると、馬車から出て来たアウラに夫妻は釘付けになった。ウィルデンスもその事に気づいたらしく、アウラの方を向いた。
「ウィルデンス、そちらのお嬢さんは?」
「今日陛下のもとに連れて行った暗奴マスターですよ」
「暗奴マスター?!」
「ほう、彼女が」
二人も暗奴マスターをこの目で見るのは初めてのようだ。
「何よもう、貴方の想い人かと思ったわ。見合い話を受けちゃったのよ。断りづらくなる所だったわ」
やはり見合い話は母が元凶だった。公爵はそんな公爵夫人の隣からアウラに話しかけた。
「君が「闇夜」のアウラだね。初めまして、レインバーン公爵だ。それと、公爵夫人だ」
「よろしく」
「……どうも」
「息子が連れて来た人物だ。一応信頼はしている。屋敷の者にも普通に接してもらって構わない」
「これから息子を宜しくね」
「……はい」
まだ彼等からは子供に見えるのだろう。公爵夫人に頭を撫でられ、少し驚いた。
「それで、同行者が居るんだったな。何処に?」
「……あまり驚かないでよ。騎士達も剣を抜かないで」
そこまで言う程なのかと三人は思った。アウラは屋敷の裏にある森に向かって指笛を吹いた。どんな人物なのか三人や騎士、使用人達はそれぞれの想像を膨らませた。
程なくして急に風が強くなったと思った次の瞬間、一匹の聖獣が舞い降りた。馬車の離れた所に降り、ゆっくりとアウラの方へ歩いた。
まさか聖獣だとは思わず、その場に居た皆が息を飲み唖然としていた。また、その毛並みや立ち振る舞いにうっとりとしている者も居た。
が、次の瞬間更なる驚きが広がった。
「ママ!!」
ひょっこりと聖獣の背中から出て来た身綺麗とは言わない服装、身なりをした小さい子供が姿を現したかと思うとアウラの方に向かって走り出し、叫んだ。
ぴょんという効果音が出てきそうな程身軽に嬉しそうに母である彼女の体に飛び付いた。
「おかえり! ビャクとちゃんと待ってたよ!」
「ただいま。ありがとう、いつも偉いね」
歩いてきた子供を抱きかかえ、後から歩いてきた聖獣の頭を撫でた。
子供は母親と同じ黒髪と真っ白な肌を持ち、瞳の色は母とは違う赤色の大きい目で視界いっぱいに母を映している。
目の前の聖獣は真っ白な白銀の様な毛並みを持ち、威厳のある顔つきをし、何百年と生きて世界や人類を見てきたサファイアの瞳を持っている。
子供の頭を撫で、頬を擦り合わせながらアウラはその光景を呆然と見ていたウィルデンス等三人の方に行った。
「……この子が同行者、後ろの聖獣がこの子の護衛です。公爵、公爵夫人、空いている使用人の部屋をこの子達に使わせて下さい」
「……」
「……。っええ!! 勿論よ! こんな可愛い子大歓迎よ!」
「……私も構いませんよ。父上が良いのでしたら」
「まあ、私も特に文句は無いな。しかし、そちらの聖獣はどうするんだ? 屋敷に入れるのか?」
アウラは公爵にそう問われ聖獣の方を一度向いて、一つ頷いた。すると次の瞬間、大の大人より大きかった聖獣が子犬サイズに小さくなった。
「おお!! 流石聖獣様! 小さくもなれるのか」
「……二人共、挨拶。今日からお世話になる人達よ」
「……エルウィレナ、です。四歳です。こっちは、白虎のビャクです。……よ、ろしく……」
母以外の人間とは交流が初めてな為、大勢の前に出ることに緊張している様子だった。自分と聖獣の紹介をしてからまた母の肩に顔を埋めてしまった。
「はあ~、一度に娘と孫が出来たみたいね」
「だから違いますって。私はまだ独り身ですよ」
公爵夫人は自分の息子を見ながらまた二人を見てそう呟き、ウィルデンスは否定した。
「ほら、立ち話もなんだ。中に入ろう。食事も今からなら一人分も増やせるだろう」
「あら、貴方この子が来る事を知っていたの?」
「当然さ。さ、中に」
公爵夫妻が入り、ウィルデンスの後ろから息子と聖獣を抱えたアウラが続いて中に入った。
流石貴族の公爵家と言った所だとアウラは思った。入って直ぐが既に広く、外から見た大きさと広さに納得がいく程だった。
三人について行っている間、途中で使用人を何人も見たが数が異常だった。
ウィルデンスは一度自分の部屋へ戻り、アウラ達は使用人に案内され手等を綺麗にしに行った。
………
「聖獣様は何をお召し上がりになりますか?」
「……基本は何でも。人間の食事も出来るので、肉料理で」
広い部屋の真ん中には十人程が座れる長机と椅子があり、その机には様々な料理が並べられていた。
公爵を中心に、片側には公爵夫人とウィルデンス、反対にはアウラとエルウィレナと子犬サイズ姿の聖獣ビャクが座った。
公爵邸の使用人達は公爵に近い程気前が良い者達が多く、滅多に公爵に会わない者達からはあまり良い目をされなかった。
今この部屋に居る使用人は皆、公爵家に長年仕えている者ばかりだ。公爵が配慮したのだろうとアウラは思った。
「ほう……暗奴になって長いのか。まだ若い様に見えるが、いつからだ?」
「……予備期間が8年、暗奴が1年、マスターが4年」
「あら、じゃあ今何歳なのかしら?」
「……21」
「なんだ、ウィルデンスより若いじゃないか。」
「私も、貴方を産んだのは20になってからよ。エル君は今4歳よね。そう考えると…」
「……お二人共、その先は少しデリケートな内容になるかもしれないです。子供や本人の目の前で話さないでください」
流石貴族と言った所だ。食べ方やテーブルマナーが人が見惚れる程綺麗だった。エルウィレナもその食べ方が綺麗でとても気になったのだろう。ひたすら、アウラと話す三人の手元を見て、真似して、見て、を繰り返している。
「予備期間とは何の期間ですか?」
「……暗奴や暗奴マスターになる為の修行期間。私は前マスターの一人に暗奴になる前から才能を認めて貰ってたから」
エルウィレナと聖獣は食事後、公爵家騎士団の所に使用人と行った。矢張り、男の子は騎士に憧れるものだ。とても嬉しそうに騎士団の元に歩いていった。
アウラは公爵夫妻とウィルデンスの四人で食後のティータイムを一緒にしていた。
こう見えて一番の好物はマカロンだ。毎度色んな屋敷に忍び込んだ際に必ずバレない程度にマカロンをかっさらっている。
それが分かった公爵家三人は余程好物なんだなと微笑ましくアウラを見ていた。




