そういうところも、可愛いんだけどね / さっさと服を着なさい
クラリスは、クラーラの上から飛びのくまで気づいていませんでしたが、跳躍中にふと後ろを見て初めて、クラーラの戦闘が終わっていたことに気づきました。
クラーラもヨシツネもたいした傷を負ってなかったことから、戦闘の最中に和解でもしたのかもしれないと思っています。
なので、クラリスとベンケイも戦う必要はもうないのですが……。
「走り出したら止まれない! それがあたしよ!」
残念ながら、欲望に流されたクラリスはお馬鹿。
今のクラリスには、目の前のオスとの初体験しか頭にありません。
なので、クラリスは飛んだ勢いのまま右拳を引いて、左手は逆に開いて前へと突き出して……。
「心意六道、流星乱雨!」
敵の頭上から手当たり次第に、拳に乗せた魔力を打ち出す対乱戦用の技の一つ。流星乱雨を放ちました。
ただしこの技、射程は大して長くありまし、繰り出した拳の数に応じた量の魔力を放出してしまうので消耗も激しいです。
魔力量ではアリシアに匹敵するクォンでさえ、一度の戦闘で一回、百発くらいまでしか打てません。
ですが、クラーラにかなりの量の魔力を使われてなお、クォンよりもはるかに多い魔力を持つクラリスなら……。
「1000発だって余裕!」
なのですが、ベンケイは例のギフトで1000発の魔力弾に耐えました。
それでも今の一合……手数を考えたら一合と言って良いかは微妙ですが、クラリスはベンケイのギフトの攻略法を思い付きました。
「大きなため息ついちゃってどうしたの? もしかして、ギフトを使ってる間は息も止めてるんじゃない?」
「……気のせいでござる」
「あら、愛するあたしに、嘘をつくの?」
「いやいや、拙僧と貴女は、まだそういう仲では……」
「照れちゃって可~愛い♪ でも、手加減はしないからね!」
お馬鹿なことを口走っている馬鹿は置いといて、本人に言った通り、ギフトを使い終わった途端に、ベンケイは大きく息を吐いて同じくらい大きく吸い込んでいました。
なので、ギフト使用中は呼吸してない可能性が濃厚だとクラリスは予想したのでございます。
まあ実際は、呼吸どころか心臓すら止めているのですが、そこまではさすがに気づけなかったクラリスは……。
「息もつかせぬコンボで、限界までギフトを使わせ……きゃあ! ちょっと! 今考え中!」
「戦闘中に、呑気に考え事をしてる貴女が悪い!」
ベンケイの言った通り、クラーラのように全自動戦闘ができるわけでもないのに、考え事をする方が悪い。
なのにクラリスは、「薙刀で何度も斬りつけるばかりか、木槌で殴ろうとするなんて酷いんじゃない? あ、もしかして優しいのは人前でだけで、家ではちょっと気に食わないことがあるとキレて暴力をふるう人なのかしら」などと言いながら憤って……
「でもおあいにく様! あたしは亭主の暴力には暴力で対抗するたくましい女房よ!」
「何の話でござるか!?」
「二人の将来の話よ! 心意六道! 局所金剛法!」
薙刀による突きを右に体をかわしてやり過ごしたクラリスは、追撃の木槌を魔力を一転に集中して防御力を爆上げさせる局所金剛法で頭を強化し、受け止めるついでに砕きました。
ちなみにこの技、使い方としては今のでも正しいのですが、本来は男性特有のウィークポイントを守るために考えられた技です。
「とんでもない石頭でござるな!」
「他は柔らかくてモチモチしてるから心配しない……でっと!」
「他も固いでござるが!?」
まあ、今はゴールデン・クラリスを使っていますからね。
クラリスは意外とスキンケアなどに力を入れていますので、使ってない時はさっき自己申告した通り、モチモチのスベスベでしょう。は、置いといて。
クラリスはどう攻めようと悩んでいます。
ベンケイの攻撃はクラリスの防御を貫けません。
クラリスの攻撃も、ベンケイのギフトに阻まれます。
さっき思い付いた通り、息もつかせぬコンボでギフトの使用限界時間まで殴り続けるのが、現状で最も有効かつ唯一の方法。
でも、ベンケイがそうさせてくれません。
今も要所要所でギフトを使ってクラリスの攻撃を防ぎつつ、背中に背負った武器を駆使してコンボを繋げるのを妨害しています。
別の手で、ギフトの使用を阻止する必要があるので……。
「じゃあ、こういうのはどう?」
「ちょっ……! どうして服を……!」
「どうして服を脱ぐのか。それは、ダーリンを興奮させるためよ!」
「は、はしたないからやめるでござる!」
クラリスは、下着だけを残して他を全て脱ぎ捨てました。
なので、問題ありません。
クラリスの下着は、ブリタニカ王国で流行ってたビキニって水着と同じくらいの面積しかありませんが、海辺なので水着と言い張れば問題ありませんし……。
「童貞のダーリンには、効果覿面みたいね」
ベンケイには効果抜群。
顔は今までで最も赤くなっていますし、戦闘中なのに両手で顔をおおってまでクラリスを見ないようにしています。
それプラス、腰が引けている。
そんな状態では、ギフトなんて使えるはずもないですし、クラリスの接近も防げません。
「真意六道、奥伝の一……」
ここで余談ですが、クォンが創始した心意六道拳の技は、六つの理念で成り立っています。
一つ、力を鍛えて強くなる力道。
二つ、技を磨いて強くなる技道。
三つ、気を操って強くなる気道。
その三つが、基本三道。
そして四つ、誰かを守るために力を振るう活人道。
五つ、強者との戦いを常に求める求強道。
そして最後は、必要とあらば命を奪うことを躊躇わない奪命道。
この三つが、心得三道。
総じて、心意六道とクォンは名付けました。
クラリスがこれから繰り出す技は、相手を抱擁して自分ごと魔力で包み、圧縮し、自分か相手のどちらかが降参、または死ぬまで続ける、心意六道の理念を形にした技の一つ。
その名も……。
「抱愛之信」
「こ、これはまさか、自爆技では……!」
「あたしも痛いから、自爆技と問われればそうだと答えるわ」
クラリスはこの技を使うなと、クォンに厳命されています。
その理由は簡単。
クラリスが女で、しかも小柄で腕力も弱いからです。
なので抱きついたところで、魔力の圧縮によるダメージしか相手に与えられません。
腕力で締め上げて追加ダメージを与えることができないのです。
つまり、クラリスとベンケイが負っているダメージは同じ。だから当然、体が丈夫な方が耐えられます。
「は、離すでござる! このままでは、拙僧よりも貴女の方が先に……!」
「そんなこと、百も承知よ!」
すでに、クラリスの皮膚はあちこち裂け、骨も何本か折れています。
対してベンケイは、服や皮膚は裂けていますが骨はまだ大丈夫そうです。
このままだと、ベンケイが言った通りクラリスの方が先にダウンしてしまうでしょう。
それでも、クラリスはやめません。
服が破けてあらわになったベンケイの胸筋と腹筋に頬ずりしているだけで、痛みを忘れるほど興奮しているからでございます。
「わ、わかった! 拙僧の負けでござる!」
「え? もう降参するの?」
「するでござる! だから、早く技を解いて手当を!」
匙に根負けしたのはベンケイでした。
ベンケイからすれば、クラリスは大勢の部下の命を奪った仇敵なのに、このまま放っておけば勝手に自滅するのに、クラリスの身を按じてく降参しました。
それがわかったクラリスは、たった一度の体だけの関係で終わらせるのが惜しくなり、技を解いて体を一度離したのですが……ベンケイは首が折れそうなほど上に頭を傾けて、鼻血まで流して固まってしまいました。
それに加え、固いけど微妙に柔らかい棒のようなモノが、クラリスのお腹を突き上げています。
「は、早く手当とその……服を……」
「あ~、そういうことか……って! ダーリン!? え? これってまさか、立ったまま気絶してる?」
ベンケイの服がズタズタになったように、クラリスの下着もズタズタになっていて、大事なところが丸見えになっていました。
下着だけでも動けなくなるくらい女慣れしてないベンケイですから、全裸を直視してしまったら気絶くらいするでしょう。
その反応を見たクラリスは……。
「そういうところも、可愛いんだけどね
と、頬を赤く染めて気絶したベンケイに抱き着きました。
そこに、ヨシツネとの戦闘を終えたクラーラが着て……。
「お馬鹿なことを言ってないで、さっさと服を着なさい」
と、言いながら、ベンケイに抱き着いたクラリスを引きはがして、投げ捨ててあったクラリスの服を投げつけました。
「あら、クラーラじゃない。そっちはもう良いの?」
「こっちは、とっくの昔に終わっていましたよ」
それは知ってた。
と、思いながら、クラリスはクラーラから渡された服を着て、ついでに治癒魔術をかけてもらっていると、ヨシツネが呆れ顔のまま近づいてきました。
「まったく、我が側近ながら情けない……」
「そう言わないであげてよ。あなたが女を根こそぎ取っちゃうから、ダーリンは童貞なんでしょ?」
「取ってはおらぬ。ただまあ、某に仕えているせいでベンケイが女日照りなのは……否定できん」
「あ、モテてる自覚はあるんだ」
「あからさまに言い寄られれば、ラブコメの主人公でもない限り気づくさ」
「ラブコメの主人公って何? タムマロにしてもそうだけど、転生者ってたまに訳わかんないことを言うわよね」
そういう決まりでもあるんじゃない?……は、置いといて。
クラーラはクラリスを無視して……。
「ではヨシツネさん。約束は、守っていただきますよ」
「わかっている。某らは、このまま引き上げる」
ヨシツネに念押しをしました。
その話を知らないクラリスは、「引き上げるとな? それってつまり、帰るってこと?」と、疑問を口にしましたが、ヨシツネが開けた空間の穴の先に船の甲板が広がり、兵士の皆さんが気絶したベンケイをかついで運ぼうとしている光景が、その疑問の答えになりました。
その答えが、自分とベンケイを引き離すことになることにも気づいたクラリスは……。
「ちょっと待って! あたしの戦利品を持っていかないでよ!」
「……戦利品? いえ、言わなくてもい結構。だいたい想像がつきました。さあヨシツネさん、この変態がその殿方に襲い掛かる前に、早くお行きください」
「絶対に駄目! あたしとダーリンの仲を引き裂こうってんなら、クラーラだって容赦しないよ!」
「容赦してくれなくて結構。ささ、お早く」
ベンケイを奪い返そうとしました。
クラリスにしてみれば、理解はできませんが超タイプの男を相手に初体験を迎えられるかどうかの瀬戸際。なので、ここにいる全員をぶっ倒してでも、ベンケイを連れて行かせないつもりです。
なのに、体が重いし魔力も出せません。
それは、クラリスの行動を見越していたクラーラが……。
「こんなこともあろうかと、治療の際にヒミコから頂いた護符を背中に張っておきました。それと傷は治しましたが、体力は回復していません」
「そん……な」
対策をしていたから。
さすがにこの状態では、クラーラやヨシツネを相手にベンケイを奪い返すのは不可能です。
「按ずるな娘。そのうち、今度は侵略ではなく別の形でオオヤシマを訪れる。その時に、ベンケイと逢瀬を重ねるがよい」
クラリスを少しでも落ち着かせようと、ヨシツネはそう言いましたが、クラリスは今、現在進行形で猛っています。今まで経験したことないほど発情しています。今すぐ、人目を避けるのも省略したいくらいヤリたいのでございます!
なのに、ヨシツネはベンケイと一緒に、空間の裂けめの奥へと消えてしまいました。
クラリスとベンケイが二度と会えないことになるとは、夢にも思わずに。
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