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あ、ダーリンごめーん!/なぁにがダーリンで……ぐぅえ!

 現在、クラーラはヨシツネと戦闘中。

 なのにクラーラが見ている景色は、王様との謁見に使われるような薄暗い大広間。その全体を見下ろせる場所、玉座とも言える場所からの景色を見ています。

 

「随分と、騒がしくなってきたわね」


 クラーラが、自分に起きている現象を考察していると、自分と同じ景色を見ている何者かが喋りました。

 そのおかげで、自分が見ている光景も音も、声を発した人物の記憶だと確信できました。

 さらに、以前クラリスの魔力を大量に長時間吸い続けた時と感覚が似ていることから、これはクラリスの記憶かと一瞬疑いましたが、すぐに違うと否定しました。

 それらを総合してクラーラが導き出した仮説は、今はクラリスの内にあるマナの壺の前の所有者である、魔王の記憶。

 その仮説にたどり着くなり、魔王とは女性、しかも声の感じから老婆と言っても良い歳の人だったのかと、驚きました。


「ウィロウ、いる?」

「はい、ここに」


 魔王が呼ぶと、目の前に白いロングドレスを着た青髪の女性が現れて、膝を突きました。

 彼女は魔幽軍軍団長にして、四天王最後の一人となった『白い衣のウィロウ』。

 彼女は実体を持った幽霊で、攻撃力は人並みですが、ほぼ全ての攻撃が通じない反則レベルの能力を持っていました。

 その最後は、タムマロのパーティーメンバーの一人で、大僧正の位階にあった僧侶。ソフィア・フランがその身へと彼女を封じ、自身の命を絶って倒しました。


「戦況は?」

「現在、勇者一行を筆頭に、連合軍が門から場内へと突入を開始したところです。シルバーバインとエイトゥスが、手勢を率いて迎撃しています」


 どうやらこれは、タムマロが西側諸国の連合軍とともに、魔王城へ突入した時の記憶のようです。

 それを二人の会話から察したクラーラは、突入したは良いものの、先に名前が出た二人猛攻によって連合軍はその三割を失い、ラーサーがシルバーバインと相討ちになったことを思い出しました。

 

「そう、じゃあここも、もうじき落ちるわね」

「……はい」

 

 魔王は、この時点で勝つのを諦めていました。

ですが、それを知らないクラーラは 話に聞く魔王の力をもってすれば、この状況からでも逆転は可能なはずなのにと不思議がっています。


「フローリストの仇、とらせてあげられなくてごめんね」

「魔王様がお気になさることではありません。わっちも、今は亡き姉も、|こうなるとわかっていて《・・・・・・・・・・・》、魔王様についてきたのですから」

「そう……だったね」


 二人の会話は、クラーラからすればちんぷんかんぷん。

 それでも、勇者による魔王討伐が誰かによって仕組まれたものなのではないか……と、疑うくらいはしましたが、疑った途端に場面が変わりました。

 クラーラの意識が入っている魔王は変わらず玉座に腰かけているようですが、目の前にいる人物が変わっています。

 その人物は、以前同じ状況になった時に見た鎧武者。

 彼が現れたことで、鎧武者がタムマロと同一人物だと気づき、あの時の記憶はクラリスのものではなく、魔王のものだったのだと確信しました。しましたが……。


「戦闘中に、考え事か?」

「……!?」


 あの時の、タムマロに斬られたと思われるシスターは誰?

 と、新たな疑問が湧いたと思ったら、目の前の光景が急に変わり……いえ、戻りました。

 クラーラを斜めに切り裂こうとしたヨシツネの斬撃は、リメンバー・ラーサーに埋め込んであるラーサーの疑似人格が回避してくれましたが、意識が魔王の記憶を見ていたせいか、回避による急加速で一瞬意識が途切れかけました。

 ですが、すぐに戦闘へと集中し直し、急加速時に意識が途切れないよう、加速度緩和魔術(ショックアブソーバー)を強化するか、痛みなどで無理矢理意識を維持させる術式を組み込んだ方が良いかもしれません。と、改善点を洗い出しました。


「余裕だな。いや、その余裕を確保するための、全自動戦闘か」

「ええ、わたくしは魔術師。頭を使えない魔術師など、魔術師ではありませんから。それにあなたこそ、余裕がありすぎでは? 完全とは言えませんが、この魔術はラーサー様の戦闘能力をほぼ再現しているのですよ?」


 ラーサーとアリシアの家に伝わるペンテレイア流剣術は、剣術とは思えないほど変幻自在。

 その起源は、ペンテレイア家の初代当主が領地へと迫る敵から領民を守るため、領地から集めたありとあらゆる刃物(・・・・・・・・・)を敵の進路上に突き立て、得物をとっかえひっかえしながら振るったのが始まりです。

 その最大の特徴は、武装具現化魔術(ブラックスミス)によって得られる様々な形状、大きさの武器を、淀みも違和感もなく振るうこと。

 動きは大して変わらず、得物の形状が振るたびに、時には振っている最中に変化するのに、ヨシツネは軽々とかわしています。


「もし本物の剣聖が相手だったら、(それがし)でも数合しかもたなかっただろう。だが、その程度なら問題ない」

「言ってくれますね。この魔術は、かの黒死龍を葬った魔術ですよ?」

「それは重畳(ちょうじょう)。なら某は、黒死龍以上と言うわけだ」


 ヨシツネは、まだ勝ったわけでもないのに随分と満足気ですね。

 ですが、クラーラが押されているのは事実。

 リメンバー・ラーサーによる斬撃も、隙を見て放つ攻撃魔術や拘束魔術も避けられる。はた目にはクラーラの方が優勢に見えているでしょうが、じり貧なのはクラーラの方……。


「と、あなたも思っていますよね?」

「……どういう、意味だ?」

こういうこと(・・・・・・)です。リメンバー・ラーサー、多重発動」


 クラーラの声に従って、ヨシツネを囲むように10体の鎧騎士が顕現しました。

 これがクラーラの本命。

 クラーラはクラリスから吸い取った魔力をストックし、リメンバー・ラーサーとほぼ同じ術式を組み、隙を見て地面に埋め込んでいたのです。


「これは……分身? いや、違うな。全て、貴女が使っているそれと同質のモノか」

「ご明察です。名づけるなら、ラーサー騎士団でしょうか」


 違いがあるとすれば、鎧騎士という形を与えていることくらいですね。

 ですが、その戦闘能力はリメンバー・ラーサーを使ったクラーラとほぼ同等。

 1対1なら余裕があっても、11対1ではさすがのヨシツネでも打つ手ないしです。 

 

「たしかに、これは参った。だが某にも、複数の敵を同時に倒すための技くらい……」

「あるのは知っています(・・・・・)。ですが、使えませんよね? 使えば、クラリスと戦っているオッサンはともかく、他の部下たちはただではすみません。それは、この度の侵攻が完全に失敗で終わるのとイコール」


 故に、ヨシツネはその技を使えません。 

 何故なら、クラーラがタムマロから聞かされたヨシツネの奥の手は広範囲の空間を圧縮し、さらに解放した時に、爆発的に元に戻ろうとする空間の膨張そのものを攻撃の手段としたもの。

 その威力は凄まじく、圧縮の段階でこの浜辺程度の面積なら無に帰し、解放時は、ツシマくらいの大きさの島であれば地盤ごと消滅させるほどです。

 ですが、その技自体が脅威として戦略的価値を持つ半面、細かな調整がききません。

 高々、半径200メートル程度の小さいバトルフィールドに対して使えるほど、都合の良いモノではないのです。


「その情報、ヒミコ殿から?」

「いいえ、タムマロ様からです」

「タムマロだと? 貴女は、ヒミコ殿が差し向けた刺客ではなかったのか?」

「それは間違いありません。ですが、わたくしにあなたの情報を与えたのは、ヒミコではなくタムマロ様です」


 クラーラはバラしても問題ないと考え、タムマロの名前を出しましたが、ヨシツネはクラーラの予想を裏切って大きく動揺しました。

 まあ、それもそうでしょう。

 何故なら此度の侵攻は、タムマロがヨシツネに助言をしたのが切っ掛けなのですから。 


「あの小僧、某を(たばか)ったな」

「どういうことですか?」

此度(こたび)の侵攻そのものが、あやつの(はかりごと)だったと言うことだ。某ともあろう者が、なんと情けない……」

 

 よほど悔しいのか、ヨシツネは戦闘どころではないといった感じですね。

 剣は抜いたままですが、戦意はないようです。

 クラーラも、ゲン軍侵攻にタムマロが関わっていると知って問い質したいと考えていますが、それよりも先に……。


「事情が変わったようですので、もう終わりでよろしいですか?」

「ああ、こちらの負けだ。生き残った者たちを連れて本国へ帰る」

「そうですか。ならばこちらも、これ以上は何もしないとお約束します」

「かたじけない」


 終わらせることにしました。

 それは質問したかったからというだけでなく、単純に限界だったからです。

 クラーラは、あのまま戦闘が続いていたらラーサー騎士団を制御し続けなければなりませんでした。

 それはクラーラからすれば、苦行の一言に尽きます。

 リメンバー・ラーサーだけでも激しい頭痛に襲われるくらい脳を酷使するのに、それプラス10体ですから、もしあのまま戦闘が続いていれば、クラーラの頭の血管は切れていたかもしれません。

 おや?  

 急に、クラーラに影が差しましたね。

 その影はどんどん大きくなり、リメンバー・ラーサーを解除したクラーラが上を向いて確認しようとする頃には……。


「……んひゃあ!」

「あ、ごめん。跳びすぎちゃった」 


 クラリスが降ってきて、クラーラの上に尻もちをつきました。

 もしマジカルパッケージまで解除していたら、クラリスのお尻に潰されたクラーラの口からは内蔵の一つも飛び出ていたかもしれません。

 なのにクラリスは……。


「……クラーラって、クッションの才能があるよね。座り心地が最高」

「ぶっ殺しますよ!? と言うかどいて! どいてください!」


 全く悪びれず、お尻だけで軽く跳ねたりグリグリと押し付けたりして、クラーラの感触を堪能しています。


「もうちょっとだけダメ? お尻が肉に埋もれる感じが気持ちいいんだよねぇ」

「ダメです! そもそも、あなたの尻が埋もれるほどわたくしは太っていません! それにほら、あなたがご執心のオッサンが、攻撃して良いのかどうか悩んでますよ!」

「あ、本当だ。ダーリンごめーん! 今戻るからー!」

「なぁにがダーリンで……ぐぅえ!」


 クラーラがオッサン……もといベンケイにクラリスの意識を誘導すると、クラリスはクラーラを下敷きにしているのを忘れたかのように、オナラでもするようにお尻から魔力放出して飛んで行きました。

 おかげでクラーラは地面にめり込み、それで生じた怒りでヨシツネに聞きたかったことを忘れてしまい、敵であるヨシツネに、「貴女も、大変だな」と、同情までされてしまいました。

読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

ぜひよろしくお願いします!

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