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第8話 それは愛?

皆さん、お越しいただきありがとうございます。少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 浴槽一杯に溜めた湯に身を沈めながらシリウスは思わず感嘆の声を放つ。


「ふう……いい湯加減だ」


 サリアはシリウスに背を向けるように髪を洗っている。

 

「気持ちいい?」


 サリアは髪を洗いながらシリウスに声をかける。


「ああ、気持ちいいぞ」

「よかった」


 サリアの勧めでシリウスは一番風呂というものを味わっていた。

 別に普通に風呂に入るのと変わらないと思ったのだが、サリアがあまりに進めるものだから仕方なくシリウスは先に浴槽に入ったのだが……。


「なるほど、中々この一番風呂って言うのも悪くない」

「うん、お父さんは一番風呂って決まってる」

「お前さんなぁ、さっきも親子とか言ってたが俺はまだ二十代だぞ? お父さんと言うよりはお兄さんだろ」

「でも、シリウス老けて見えるよ」

「お、お前……少しはオブラートに包め、俺だってショックを受けるときもあるぞ」

「ご、ごめんね」

「まあ、冗談だが――」

 

 その瞬間、シリウスの顔面目掛けてお湯が飛んでくる。


「隙あり」


 シリウスが顔を拭くと、目の前には桶を構えたサリア。


「よくもやったな!」


 シリウスも負けじと浴槽の湯をサリアに向けて飛ばす。

 サリアは桶で顔を守りながら、それを避け続ける。


「しまったな……調子に乗りすぎてずいぶんと湯が減ってしまった」


 シリウスの言葉通り、すでに湯は全体の7割程度になっていた。


「こうすれば大丈夫」


 そう言いながらサリアはシリウスの上に乗るようにして浴槽に入る。


「お、おい。窮屈だろ」

「そんなことないよ」

「俺が窮屈なんだ、俺は出るぞ」


 シリウスはサリアを退けて、浴槽からあがろうとするが……。


「もう、少しだけこうさせて……」


 サリアの寂しそうな声に、大人しく元通りに浴槽に身を沈める。

 二人は何も話すこともなく、静かに時間が過ぎていく。


「聞いてもいいか?」


 シリウスが口を開く。


「なに?」


 サリアは振り向く事無く、返事を返す。


「サリアの背中の傷は――」


 シリウスがそう口にしたとき、見て分かるほどサリアの体が強張り、小刻みに震えている。

 

「言いたくないなら、言わなくてもいいぞ」


 サリアはシリウスの両腕を掴んで自身の前へと持ってくる。

 まるでシリウスに抱きしめて欲しいとねだるように。


「この傷は、あの男……私の父だった人が付けたもの」


 サリアはゆっくりと語り始める。


「全ては母がいなくなってから始まった。母が伯父さんと大恋愛の末に家を飛び出してから……あの時、私は五歳くらいだったと思う。それから全部がおかしくなった。あの男は私と妹を目の敵にし始めた、事ある毎に競わせて負けたほうに酷い事を沢山した。狭い場所に閉じ込めたり、食事を抜いたり、殴ったり、切ったり、焼いたり……でも、私は我慢できたからいつも妹に勝ってもらってた」


 サリアは大きく深呼吸すると同時に更に強くシリウスの腕を掴む。

 シリウスはそれに応えて、サリアを抱きしめる。


「ある時、急にあの男が私にだけ優しくなった。理由は分からない、でもそのせいで今まで私が受けていたひどいことは全部妹に向けられるようになって……だから私はあの男に反発することにした。あの男の言う事を全部無視して、母の真似をするようにした……そしたら、標的は私に戻ったの」


 少しだけ、サリアの掴む力が弱くなる。


「それからはずっと我慢してた。でも沢山時間があったから母の事を考えてた。母はいなくなる前に私に――」


 『「ねえ、サリア……どんなに家柄が良くて、才能があって、顔が美しくても、愛が無ければ何もないのと同じ。真実の愛こそ、何にも変えがたいものなのよ」』

 

「って言ってたから、きっとその真実の愛を伯父さんの中に見つけたのかな、って考えたりとか私もその真実の愛を見つけられるのかなとか、色々考えてた」


 また、サリアの掴む力が強くなる。


「問題はその後、あの男が私を家から追い出そうと色々な男の人を家に呼んで私を値踏みさせ始めた……色んな人が来た、どこかの貴族とか権力者とか有名な司祭様とか……でも、どの人も違った。母の言う真実の愛を持ってなさそうな人しかいなかった。だから全員断ったら、最後に国の王子が来て、それも断って……気付いたら、私は王子の命を狙ったって話になってて……」


 サリアはそこでハッとした顔で振り返り、シリウスの顔を見る。


「ごめんなさい……聞かれたこと以外も……」

「気にするな。俺は話を聞くのが好きでな。話したいことがあれば沢山話すといい」

「……のぼせたから先に出る」


 サリアはそう言うと先に浴室から出て行ってしまう。


「ふむ……何か不味い事でも言ったか?」


 シリウスは自問自答しながらも全身を洗う。



 温まった体を冷ますために、サリアは服も着ずにベッドに寝転ぶ。

 この熱が湯で温まったことによるものなのか、それともシリウスのせいなのか。

 サリアの心はざわついていた。

 このままの格好のままシリウスに迫れば、彼は応えてくれるのだろうか……いや、きっと馬鹿な事言うなと一蹴されてしまうのだろうと言う事は分かっている。

 それでも自分の気持ちを確かめるためにはそれぐらいしか、方法が思いつかなかった。


「はぁ……」


 サリアは悩んでいた。

 自分がシリウスに抱く感情が――。

 ――恩義なのか。

 ――父性なのか。


 それとも、もしかして……。


「これが……愛なのかな……」


 浴室の扉が開く音がするとサリアはなぜか掛け布団を被り、その中に隠れる。


「サリア……どこだ?」


 シリウスは体を拭きながら、部屋の中を見回す。

 しかし、サリアの姿はない。


「どこへ行ったんだ……まさか外か?」


 そう言いながらシリウスはベッドに視線を向ける、すると不自然な盛り上がりに気付く。


「なるほど」


 シリウスは気配を消して、ベッドに近づくと一気に掛け布団を引っぺがす。


「なっ……」


 そこには一糸まとわぬ姿のサリアが現れ、予想外のことにシリウスも固まる。


「シ、シリウス……私を抱いて欲しい」


 サリアは恥ずかしさを感じながらも、自分の気持ちを確かめるために言葉を搾り出す。


「はぁ……そう言う馬鹿げたことは、もっと大きくなってから、相手を選んでやるといい」


 そう言うとシリウスは持っていたタオルをサリアに投げつけ、服を着始める。


「私は……私は本気……」


 サリアは気持ちを確かめるために立ち上がり、シリウスがはぐらかして逃げないように後ろから強く抱きしめる。


「何度も言うが俺は子供抱く趣味はない」


 シリウスは抱きつくサリアを優しく引き離す。


「うん。分かってる」


 サリアは、残念そうに俯きベッドの縁に座る。


「だが――」


 サリアはシリウスの言葉に顔を上げる。


「お前さんがもう少し大人になった時、それでも俺に抱かれたいなら、その時は抱いてやる。だから大人になるまで我慢しろ」

「いつからが大人なの?」

「成人するまでだから……十五か、サリアは今いくつだ?」

「私は十二歳」

「なら、後三年だな。あっという間だ……それまでにやるべきことを終わらせろ」

「うん、分かった」

「よし、分かってくれたか――」


 シリウスはサリアの服をサリアに向けて投げつける。


「じゃあ、さっさと服を着ろ!」


 

 


 エリダノスの街中を兵士が巡回している。

 二十四時間体制での魔物の警戒もそうだが、この街の治安維持も兼ねていた。

 しかし、非常に残念なことにこの街では後者のほうでの仕事が大半を占めている。


「うおおおおおおお」


 人通りのない街道の真ん中で一人の男が巨大な斧を振り回している。


「ちっ……」


 斧を振る男と対峙するように、別の男がその斧を間一髪で避ける。


「どうしたライル! 動きが鈍ってるぞ!」


 先ほどから斧を避け続けている細身の男……ライル。

 両手にもったナイフと身軽な装備で、先ほどから強烈な斧の攻撃をナイフで受け流し、最小限の動きで回避している。

 

「うるせえぞ、ガンド! てめえの無尽蔵の体力と一緒にすんじゃねえ」


 先ほどから周りの被害など考えずに巨大な斧を振り回す巨体の男……ガンド。

 振り回す斧は、全長ニメートルほどあり、かなりの重さもあるがガンドはそれを簡単に振り回している。

 

「おいおいおい、一体こいつはなんだ!?」


 騒ぎを聞きつけた衛兵が近くの野次馬に声を掛ける。


「おう、兵隊さん。いやー丁度今、世紀の一戦をみんなで見届けているところだぜ。エリダノスに所属する二大クラン、『烈風の旋風スピーディースピーダー』と『剛腕の巨人達(グレータータイタンズ)』のリーダー同士の戦いだからな、こりゃ荒れるぜぇ」


 野次馬の話を聞いた衛兵は血相を変えてどこかへ走り出す。


「そろそろ終いにしてやる……『強撃斧技(グレートアックス)』!」


 ガンドが斧を勢い良く振り下ろすと同時に光の衝撃波が放たれ、地面を抉りながらライルへと向かっていく。


「ふざけんな! こんなん俺が回避したら街が吹き飛ぶだろうが……『無限残照シャドウインフィニティ!」


 ライルが叫ぶと、彼の姿をした分身が複数人現れ、ガンドが放った衝撃波を全員で受け止める。


「器用なやろうだな」


 ガンドはそう吐き捨てると、背を向けて酒場へと戻っていく。

 それに少し遅れて、ライルは衝撃波を掻き消した。


「ふぅー……しんどかったぜ。っておい! どこに行くんだ」

「お前の勝ちで構わん。後のことは任せた」

「お、おい!」


 突然起こった激しい喧騒は、また突然にして静まり返り、野次馬は蜘蛛の子を散らすように消え、その後、遅れてやってきた衛兵達が喧騒の後片付けをする。

 それがここでの日常……。

 

 しかし、問題が起こるのは次の日の朝。

 サリア達が目覚めた時だった。

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