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1 :〝天災〟

 〝子供よりも、大人の言うことの方が正しい〟

  人生経験の多い大人の方が、正しいことを述べれるのも事実であるが、その反面、時に理不尽な猛威を振るう言葉である。

 それを完膚無きまでに打ち破ったのが、全ての始まりであった。

 天才少女であったり少年であったりと幼少期に賞賛される子供は、例年テレビやニュースで報道される。

 しかし、それはあくまで子供の範囲内で飛び抜けているだけであり、大人という定規に当てられてはその才能は溶け込んでしまう。

 それでも尚称えられるのは

 〝自分が同じ年だった時にはこんな事出来なかった〟

 からであろう。

 ──ならば少し思考を変えてみう。

 〝今の自分でもこんな事は出来ない〟

 このような場合も珍しくはない。

 ピアノを弾けない人が弾ける子供を見て思うように。

 だがその道に長けている人にとっては所詮、前述の通り、その当時に出来なかっただけ。

 と、思われてしまうだろう。

 もしくは、その人自身が幼少期に賞賛されていたか。

 いくら少年野球で将来を有望に思われても、プロの世界で活躍している野球選手と対決したとして、プロが勝つのは試合を通さなくても分かることである。

 そう、幼少期の天才には限度がある。

  ──けれども。

 もし、もしだ。

 〝子供がプロを通り越し、圧倒的実力差で大人をねじ伏せたのなら〟

 これが二十五年前の出来事。

 世界は、どう変わったのであろうか。



 ■■■


 ヒト、ヒト、ヒト……

 少女は階段を一段一段、音を殺し噛み締めるように登っていく。

 少し首を回し、右方を見れば目が回りそうな程の人、人、人。

 これだけの人が集まれば、小言が群をなし、収集がつかないレベルで肥大化するというのに、会場内は不気味なほど静けさに満ちていた。

 席をひとつひとつ見れば確かに人が存在しているというのに、会場内の全員が衣類の擦れる音すら発さず、少女の向かう公演台を見ている。

 少女の向かっていく所は照らされる照明により光で満ちているが、それとは対象に観衆側は暗い。

 登壇へと行く少女は、見た目からしてアジア系の人種だと判別ができる。

 しかしどこかの国の時期女王というわけでもなく、日本という小さき極東の国のごく普通の家庭に生まれ、そして齢十歳まで普通の生活で、普通に育ってきた。

 そんな普通の彼女と観客を比べると、それこそ場違いな気がしてならない。

 なにせ、一人一人の顔を見ていくと、新聞やテレビでも報道される国のトップの面が並ぶ。

 例え見たことない顔にしても、それはどこかの国の有権者、有力者なのだろう。

 普段ライトを浴びるような人材ばかりのこの空間で、先ほども言ったとおり、寄せられているのはこの少女。

 わざわざ各国の首脳や専門家を招き入れ、少女の言葉を聞くため集まりそして、彼らの目線が一つに絞られる。

 今回の主役に。

 すぅ……。

 小さく息を吸い込んだ。その音は静寂な空間内にマイクを通して、全員の耳に通る程目立つ音となった。

 プレッシャーの重圧だけでも肉体が潰れてしまいそうなこの空間の中で、少しの行動のミスがそのままたった十歳の少女の威厳に関わっているであろう。

 気の抜けた様は見せることが出来ない。

 ──息を吐くのではなく、少女は言葉を吐いた。



「私は、私たちは、いったい何なのでしょうか」



 ■■■


「──という訳でまぁ、お前らも中学で習ったところではあるだろうが、テストにも出やすいとこだ。覚えておくよーに」

「「はーい」」


 教師が言うや否や、クラスの数人が週明け最初の挨拶のように、力の篭っていない声を出す。

 それもそのはずで、教科書に記載されているこの少女──(ハジメ) 春美(ハルミ)の世界に向けての演説は、今世を生きてる人間にとって、知らない方が非常識なレベルで知り渡っている一般常識である。

 小学校低学年で習うような計算の問題を、中学三年の受験シーズンに復習するようなもので、生徒が興味なさげに受け答えするのも頷ける。

 それは先生も理解しているようで、活気のない教室に何か言うわけでもなく、授業を進める。


「皆も知ってるだろうが、そう二十五年前、先生がまだ皆とそう変わらない年の時の事だ。この東 春美のように〝天災〟と呼ばれる子供が出てきたのは……」


『天災』

 東 晴美を筆頭として、天才と呼ばれる枠組みから逸脱した人間のことを指す。

 天災と呼ばれる子には、成人するまでの二十年間のうちに何か大きな偉業を成し遂げている。

 それはこの少女も例外ではない。『論述の天災』と呼ばれ、自身を含めた〝天災〟について、齢十歳にして述べた。

 これは有名な話であるが、彼女の公演を聞いて一切拍手は起こらなかったという。

 あまりの考え方の違いに、世界の違いに、自分達がみすぼらしく見えたのか、それとも完璧過ぎたゆえに何も言うことが出来なかったのかは定かではないが、一つ言えるのは、十歳の幼い少女の言葉は世界に通用した。

 適用され、常識の下に敷かれ、土台となり、今の現代社会を作り上げた。

 これが『天災』

 世界を歪めてしまう程の才能を持った子供。

 何故急にそのような子供が生まれたのか、今でも原因は分かっていないらしい。噂によればその当時に堕ちてきた隕石によるものだとか違うだとか。

 その噂が広まった理由としては、日本海の近くに堕ちたのと、日本の〝天災〟の数が他国に比べて非常に多いことが結び付いて生まれた噂である。

 日本の〝天災〟の数が多い。それに伴い、表沙汰にはなっていないものの、暗黙の了解に近い形で日本の力は大きくなっていた。

 隕石が堕ちた正真正銘の天災の見返りは、皮肉にも大きかったのだ。

 約二十分間、幼少期から淡々と復習され続けられた内容を、先生は語った。

 かといって熱弁した訳でもなく、それどころか教室の中で一番やる気のないような態度で、教科書に書かれた文章を機械のように、なぞるように声に出すだけである。


「──これで期末のテスト範囲は終わりだ。じゃ、次の時間は自習を取るから、各自勉強したい教科を持ってこい。……それでっと」


 使い慣れた色合いのスーツの袖をめくり、そこそこ値段の高げな時計に目をやった。


「まだ五分あるな。よしっ、じゃあ三影が皆に話したい事があるらしいから、よーく聞くように」


 教師の数秒足らずの言葉で、クラス四十人が、一人の青年へと視線を寄せる。それが彼、三影(ミカゲ) (ライ)。見た目ごく普通の男子中学生である。

 ガカッ。

 床と椅子を覆うコーティング樹脂の摩擦音が、話しを待つべく静かになった教室に響く。一人に注意がいくというのは、これほどまでに他の行動が制限されるのか、そう思うほどの静けさ。

 椅子を引き、収め、クラス全員の顔を見渡せる教壇へと歩く。三影の一つ一つの行動がクラス全員の耳に入るが、そんな静寂に包まれた時間はものの数秒であった。

 授業が終わったこともあり、席の近いもの同士で喋り始めた。一組が喋り始めれば、それは灯油に灯した火のように広がり、部屋全体に若い声が行き通る。


「あー、こほん、皆静かに!三影が話すから!!」


 教壇に立つも、騒がしさの無くならないクラスに戸惑っている三影を察したようで、先生は声を荒らげた。一声によってクラス全体の意思が統一される。


(…………)


 二度目。

 誰に向いても目が合う。

 皆の視線が自分に向いている。

 それを視認し、異様な威圧感に鼓動が早まる。


「えーっと……この度、俺、三影 頼は」

「おっ、どーした?お土産でも買ってきたのかー?」


 言いかけたところで、クラスの中心であるお調子者が割り込んでくる。

 それが灯火となり、


「まじで!?」「どこ旅行に行ったのー?」「あ、もしかして東京!?」「皆!三影君が困ってるでしょ!」「もしかして転校するの!?」「ええ!?それなら早く言えよ!」


 クラスに活気が満ちる。

 そんな現状に変な緊張が和らぎ、胸をなで下ろす。赤点のことを親に言うか言わないか悩んでいた時に、親の気分がいい事を知れたように。安心が身を包む。

 言ったことに返される言葉や態度が怖い。そんな思惑は消え去るのではなく、ゆっくりと沈んでいった。


「あー、違う、違う、いいから聞けって」


 馬を、どーどー、と手懐けるように、両手でストップの意思表示をする。

 静かになるものの、さっきまでの妙な空気は流れず、コソコソと話す声が混じる。


「じゃあ改めて。この度、三影 頼は──」










「〝天災〟の称号を得ました。」


 返しを怖がる必要はなかった。

 何故って、教室から音が消失したから。

 返答など、なかったのだから。

気長に付き合って頂けましたら幸いです。

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