プロローグ:それは偶然にも不思議な出会い
古びた屋敷の前で、見慣れない少女がいた。
何故か大事そうにバケツを抱えており、目線を下へ向けたまま、歩いてきていた。
その館は幽霊屋敷と称されており、居住人も居ないはずなので、不思議に思い少女を見つめる。
少女の目を見る。
少女の瞳に、自分の姿が映る。
数刻の空白。少女は目を見開き、小さな口をポカーンと開けていた。
空白に終止符を打ったのは彼女が両手で抱えていたバケツだ。
落としたことにすら気づいていないような、そんな軽さでバケツを落としたのだ。
春を迎えたばかりの空に、カランと乾いた音がなる。
驚いたのは彼女の次の行動。
記憶上、彼女と出会ったのはその時が初めてで、お互いに面識は無いはずなのに、
「うぐ……ひぐっ……。よかった……!出会えて、本当によかった……!!」
ポロポロと大粒の涙を零し、充血した眼を小さな両手で擦りながら繰り返す。零れ落ちた涙は、バケツを鳴らしていた。
自分はひたすら困惑していたのを今でも思い出せる。ただその少女の表情は、思い出すまでもなく、忘れない。
忘れられない。
幾億にも重ね、複雑に絡み合った感情のダムに穴を開けたような、その表情を。
初めてだからこそ、印象は強い。
自分はただただ彼女の涙に呼応するように、駆け寄り、そっと抱きしめ肩を叩いた。
これが二人の初めて会った日。
彼女の世界に、色が戻った日。




