第5話
夜遅くになって、クリスは王宮を訪れた。
バーのママ(男性)に言われたことが気になって、そのまま家に帰る気分にはなれなかったのだ。
普通ならこの時間に王宮の中に入ることはできないが、運よく見張りの兵士が顔見知りだったので、バーナード王子の寝所まで通してくれた。
寝間着姿の王子が眠そうに目をこすりながら現れる。
「どうしたんだ? クリス。こんな時間に」
「ううん。王子は今ごろ何してるかなって思って」
「寝てたよ。ていうか普通の人間は、みんなこの時間寝てるんだよ」
「このまま家に帰っても眠れそうになくて」
「だからって、他人を起こしちゃダメでしょうが」
「さみしいっていうか、ちょっとセンチな気分になっちゃって」
「いや、人の話聞いてないよね」
眠そうなためか、王子の突っ込みにいつものキレがない。
「それに、ちょっと話したいことがあって……」
「相変わらずマイペースだね。こんな夜遅くにやって来て。人が寝てても気にしない、自己中心的だ」
怒ってるような口ぶりだが、王子の顔は穏やかだった。優しい目をこちらに向ける。
「で? 何? 話したいことって」
優しい声で言われると、胸に言葉があふれてくる。こぼれ落ちそうなほどに。
「私、あなたに婚約破棄されて、その後さらに謝れって言われて、だけど謝る気はなかった。だって私、悪いことしてないんだもの。でも、それから考えたの。私にもちょっとは悪いところがあったんじゃないかって」
「ちょっとかい。でも君にしたら大した進歩だね」
「でも、私やっぱり謝りたくない」
「じゃあ、婚約破棄のままでいいのかい?」
「それはかまわないわ。婚約破棄されても仕方ないと思うもの」
真剣な目で王子を見た。目と目が合う。
「ねえ、バーナード?」
「何だい?」
「私のこと好き?」
「何でこの流れでそうなるの? あなた婚約破棄されてるのよ?」
「でも、謝れば婚約破棄は撤回するんでしょ。正直に答えて。私のこと好き?」
王子は黙った。少し間を置いてから答える。
「好きだよ。クリス。いつもマイペースだけど、そんな君を愛してる」
「私もよ。バーナード。愛してるわ」
王子にそっと抱き寄せられた。その身を王子に預ける。しばらく抱き合った。
「私、謝らない。婚約破棄されたままでいい。今のままの私を愛してちょうだい。バーナード」
「分かったよ。クリス」
王子は、優しくキスしてくれた。
結局、婚約破棄はしたままだ。でも、クリスとバーナード王子。2人の関係は今も続いている。
クリスは幸せそうに笑った。
「うふふ。婚約破棄されたけど私、自分のペースで生きるわ」
そして、1年後に2人は正式に結婚したのだった……
〜Fin〜
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
ブクマや評価、感想をもらえると作者が泣いて喜びます。




