第6話 肉ダンジョンのミノタウロス
共に旅した連中と別れ、俺とリュミは町の近くのダンジョンへ向かう。街道から逸れ、遠くに見える一本杉……かどうかは知らないが、それっぽい背の高い木を目指す。それがダンジョン入口の目印らしい。
10分も歩けば、木の根元近くに石造りの祠のような建物があり、その周辺に結構な人がいるのが見えてきた。あれがダンジョンの入口か。
入口に近付くと、様々な格好の人がいる。いかにも冒険者ってな連中や、露店を開いている人、入口の傍で出入りする者を見ている人。結構賑やかだ。
ふと、路傍の大石に腰掛けている人が目に付く。格好に違和感があった。周りの人々は、敢えて言えば、西洋風な格好をしていた。だが、そこに座る者は、着流しというのか、時代劇で浪人が着ていそうな格好をしている。
頭には笠をかぶっており、顔は見えないが、長槍を担いでいる。穂先は鞘がついており、見えないため、はっきりとはしないが、その形状は長く、西洋のものや、足軽が持っている突くための槍ではなく、戦国武将が馬上で振るっているイメージの、突くだけでなく斬る事にも長けた、大きな槍だ。俺はあまりくわしくないんだが、大身槍とかいうんだっけか?
……俺の持つ刀といい、あの日本風の槍といい、この世界には和風な文化も息づいているのか? 興味深いな。なら、和食がある可能性も出てきたぞ。
と思っていたら、そいつがこちらを意識したのがわかった。笠で顔は見えないが、視線を感じる。ちょっとジロジロ見過ぎたか。俺は慌てて目を逸らし、前を歩くリュミを見る。
我が相棒殿は、露店で俺に買わせた、焼き肉の串をご満悦で齧っている。これで何本目だ?
この肉は、ダンジョンで出る魔物の肉らしく、ここはそれがウリらしい。俺も一本食べたが、なかなかの味だった。リュミならずとも攻略が楽しみになるな。
入口にいた人に聞くと、ダンジョンに入るには、一人大銅貨3枚だそうだ。金取るのか? と思ったが、このダンジョンの所有権はここの領主にあり、管理費という名の税だそうだ。まぁ、それほど高くも無いし、いいか。
、
簡単な注意事項を聞かされた後、さっそく中に入る。
入口を入ったすぐ先にある階段を下り、しばらく行くと道が三つに別れている。どの道を通っても最終的には同じ階段に辿り着くらしいので、一番険しく、魔物が多く出るという、右の道を選ぶ。いや、俺が選ぶ前に、リュミが当然とばかりにそちらに進んでいた。理由は、(魔物の匂いがするから) だそうだ。まぁ、そうだろうな。
ああそれと、俺は先代魔王から、餞別としてスキル[ジョブ追加D]を貰っている。これは自分のジョブを増やすスキルだが、俺と主従契約を結び、さらにPTを組んだ者にも恩恵を齎す優れモノだ。つまり、俺とリュミは、もう一つジョブを増やせるわけだ。
リュミは迷わず[探索者]を選んだ。これはダンジョン探索をした者が覚えるジョブで、ダンジョンに潜るのに有用なスキルを多く身に付けられる優良ジョブだ。そもそも[超嗅覚]というダンジョン探索には持ってこいのスキルを持つリュミが、さらに探索スキルを身に付ければ、[狼に翼]だろう。そんな慣用句あったっけ? て、今俺が作ったんだよ。
リュミが選ばなければ、俺が取得するつもりだったんだがな。さて、俺は何にしようかな。いろいろ悩んだ挙句、[戦士]にした。リュミの[騎士]が羨ましかったわけじゃないが、戦闘系の上位職を会得するためには、[戦士]は上げておきたい。[探索者]は冒険者やるには必要なスキルが多いから、リュミと交代で会得する事にしよう。
あと、旅立ちの為に身に付けた[鑑定偽装]もちゃんと使っている。偽装結果はこうだ。
名前:ラングリード 種族:人間 性別:男 年齢:30歳 ジョブ:[剣聖Lv.20][錬金術師Lv.15] スキル:[I・ストレージ][錬金術][剣聖術A] 魔法:[火C][水C][風C][土C][光C][闇C][雷撃C][治癒C][生活]
名前:リュミネリア 種族:狼獣人 性別:女 年齢:13歳 ジョブ:[下級騎士Lv.1][探索者Lv.1] スキル:[超嗅覚][夜目][警戒B][剣術S][刺突B] 魔法:[銀月B][生活]
てな感じだ。余計な能力は知られないほうがいいだろうし、このジョブであまり魔法レベルが高過ぎるのも不自然だからな。
30歳ってところは突っ込むなよ! 今の自分の姿を見た時の素直な感想だ。……実は25歳ってしようとして、やめた。さすがに20代と言い張るほど図々しくはなれなかったよ。リュミはもう見た目17、8歳くらいに見えるが、獣人なら13歳で問題ないらしいから、偽装する必要はなかった。さすがに[幻狼賊]ってのはまずいから、ただの[狼獣人]にしておいたけどな。
ちなみに、生活魔法ってのは、[ファイア]とか「ウォッシュ]なんかの、日頃の生活で使う魔法だ。本来は[火」や[水]に含まれるんだが、ややこしいからまとめたいなぁ、って想ったら生活魔法にまとまった。サンドラに聞くと、それで特に問題ないらしい。理屈はよくわからんが、先生がいいっていうんだから、いいんだよ!
とか何とか考えていると、前でリュミが剣を抜いた。思わず腰の刀に手を伸ばしながら確認すると、前方から魔物が3体向かって来ていた。
全身黒光りする筋肉質な身体に腰蓑だけを身に付けた、凶悪な白い角に厳つい猛牛の顔の魔物。両刃のハンドアックスをもった……。
「小っちゃいけど、倒しちゃっていいんだよね?」
……そう、小っちゃい牛男だった。身長は150cmくらいか。造詣が小さいのではなく、いわゆる三頭身……昔懐かしの[SD]ってやつか?
ミノたん:HP60/60 肉は美味 ……みっミノたん! 何だその名前。誰のセンスだよ! クリエーターがチョケ過ぎたゲームじゃないんだぞ。それに今時[SD]って。顔がリアルな猛牛顔で真顔なだけに、余計滑稽だ。
「ミノたんだとよ。肉はうまいらしいぞ。たぶんさっき食ってた串の肉だろう」
リュミにはそれで充分だった。俺の言葉が終わらないうちに、ダッシュをかましている。3体倒すのに、5秒かからなかった。瞬殺ですか?
「いっぱい倒そうね。そして焼き肉いっぱい♡」
「……そうですね」
◇ ◇ ◇
現在、地下5を探索中。リュミの宣言通り、いっぱい倒した。そりゃもう、肉屋が開けるほどに。
出てきた魔物は、[ミノたん]と[ビッグピッグ]の二種類。
ビッグピッグ:HP80/80 [突進] 肉は美味 牛並みにでかい……ただのブタだった。見た目はもう、貯金箱か蚊取り線香置きにしか見えない。いや、これがそう見えたら、おっさん確定なのか? [突進]はやや厄介だったが、俺とリュミにとっては、何という事のない攻撃だ。つまり、ザコである。倒してもお金も蚊も落としたりはしなかった、そりゃそうか。
収納には、牛肉と豚肉が溜まっていく。リュミの笑顔が止まらないね。
そして、最奥のやや広い空間で、周囲の空気が変わる。奥の暗がりからゆっくり現れたのは、MLBのボブるヘッドみたいな[ミノたん]ではなく、ガチでムキムキの牛男だった。身長は2.5mくらいはあり、両刃の大斧を持っている。そんなのが2体、ゆっくりとこちらに向かって来る。
ミノタウロス:HP500/500 [咆哮][怪力] 見たまんまだった。いきなりマジもんが現れやがったな。ここってネタダンジョンじゃなかったのか?
「かなり強いぞ、気を付けろよ! 左の奴は任せる」
「うん。お肉、おいしいかな?」
「あれ、食う気か? まあいい、かなりの怪力みたいだから、攻撃は真正面から受け止めるなよ!」
あれを食おうとか、さすがは狼獣人。俺、食われたりしないよね? ちゃんとご飯作るから食べないでね。
左の一体はリュミに任せ、俺は右の牛に向かう。まずは小手調べの[紫電]を放つ。
牛頭の大男は、電撃を受けた胸を軽く抑えながらも、歩みを止める事なく、大斧を振るってくる。それをステップで左に躱し、ガラ空きの右腹に横凪の一撃を入れる。
『グモォォォ』 大声を上げたミノタウロスの右腹からは、ドス黒い血が噴き出す。よし、刀が通じる相手のようだ。なら倒せる。
俺は体勢を立て直した牛男の背後に回り込み、袈裟懸けに斬り付ける。だが、その斬撃は、厚過ぎる背筋により、途中で止められる。
一瞬、動きを止めた俺に対し、奴は振り向きざまに斧の横凪を振るう。
躱しきれないと踏んだ俺は、咄嗟に同田貫で受け止めるが、そのまま数m後方へ吹き飛ばされた。
「クッ、何て力だ! ノックバックってレベルじゃないぞ」
未だ痺れる腕で刀を構えながら、俺は[ファイアボール]を放つ。ミノタウロスは巨大な火の玉を抱え込むように受けるも、胸を少し焼いた程度で火は消えた。動きは止めたが、たいしたダメージは入ってないか。魔法防御も高いようだ。
……強いな。4m程の間合いを空け、睨み合う俺と牛。その時、背後で『ブモオオォォォ‼』 という咆哮が聞こえた。
リュミ! 振り向いた俺の目には、全身から血を流しながらも雄々しく立つミノタウロスと、その前で全身を震わせているリュミが映った。
しまった、スキル[咆哮]を受けて、硬直状態に陥っているようだ。
そんなリュミに向け、斧を振り下ろすミノタウロス。俺は[パルスショット]を放ち、そいつの動きを止めながら、リュミの元に走り寄る。そのまま彼女を小脇に抱えて、2体の敵から距離を取る。
背後を追って来た1体には、[ダストデビル]をぶつけておく。顔を覆った砂塵に動きは完全に止まったようだ。
敵の状態を確認し、未だ硬直しているリュミに[メンタルキュア]を唱え、正気に戻させる。どうも、リュミは精神攻撃への耐性が、ちと低いようだな。
「ごめんなさい。吠えられたら、身体が動かなくなった」
「ああ、[咆哮]ってすきるだ。ああいう時は、気をしっかり持て。狼が牛に吠えられて怯えてどうする」
「うん! もうやられない! 牛はちゃんと食べる。狼だもん」
いや、別に食べんでも……。まぁ、怯えるよりは余程いいか。
リュミは自分に[ルナティックブースト]を掛け、アイボリーのエストックを構え、ミノタウロスの1体に襲い掛かって行った。
俺はもう1体に向け、[サンダーボルト]を放ち、同田貫を下段に構え、間合いを詰める。そして、奴の斧の振り下ろしを、バックステップで躱し、右凪ぎにその太い肘を斬り飛ばす。そして、絶叫を上げるミノタウロスの喉に向け、渾身の刺突を繰り出す。
刀の切っ先が、確実に頸椎を砕いた感触が伝わってくる。俺は間髪入れず、その腹部に蹴りを入れ、その反動で刀を喉から抜き、数歩下がる。
ミノタウロスは、2、3歩後退さり、そのまま背後に倒れ、絶命した。
その直後、俺の足元に、牛の首が転がって来た。見ると、リュミがエストックを振り抜いた姿勢で、首の無くなった巨体を睨みつけていた。
「お前のせいで、ラングリード様にダメな子って置いて行かれたらどうしてくれるの! これでお肉がおいしくなかったらゆるさないんだからね!」
……いや、そんな事で、置いて行ったりしないけど。おいしかったら許すのか? ブレないな、お前は!
とりあえず、ミノタウロス戦は終了だ。結構強かったな。このダンジョンの他の魔物とはレベルが違い過ぎる。中ボス扱いか?
ミノタウロス2体を収納すると、そこにはダガーとナイフが落ちていた。さらには部屋の奥に宝箱が見える。
ミノタウロスの短剣:[自己修復D] 牛角の短刀:[自己修復C] 短刀のほうはかなり細身で、まるで黒鞘の脇差みたいだ。どちらもそこそこいい物みたいだな。
宝箱には、いつの時代の物かよくわからない、金貨や銀貨が入っている。直接は使えないかもしれないが、かなりの価値はありそうだ。王都なら換金してくれる店もあるだろう。
さて、先を目指すか。この部屋には先がない。というか、途中で下りる階段は見つけてある。どうもミノタウロスは無理して倒す必要のない魔物みたいだ。まぁ、かなり強かったしな。
数階下った安全地帯で少し休憩し、さらに下を目指す。
「ねぇ、まだ着いて来るけど、いいの?」
「……。ああ、もう少し様子を見よう。とりあえずはほっとけ」
実はこのダンジョンに入って間もなくから、何者かに跡を付けられている。かなり巧妙に気配は消しているが、リュミの鼻と俺の気配察知は誤魔化せてはいない。ダンジョン内での強盗か何かかと思い、わざと隙を見せたりもしたんだが、特に何を仕掛けてくる様子もない。どういうつもりかは知らんが、特に悪意は感じないってのが、俺とリュミの共通の結論なので、一応放置していたのだが……。いい加減ウザくなってきたな。
さて、どうしたものか。ちょっぴりシャイな俺の隠れファンってなら、美少女限定で許してやるんだがなぁ。




