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他はわからないが、この学院は授業と授業の間に儲けられた休憩時間は、前世では考えられないほど長い。
単なるトイレ休憩ではなく、生徒達にとっては大事な社交の時間でもあるからだ。
昼休憩は使用人達もやってくるので、あまり暇がない場合が多いのだが、この休憩時間は低位子息子女にとって、高位の子息子女に話しかけられる絶好のチャンスなのだ。
人脈を広げられるし、もしかすると将来の伴侶を見つけられる切っ掛けが転がっているかもしれない。
他にも理由はある。
アンネッタはしないが、他の令嬢達の中には、休憩時間毎に控室の使用人を呼び出し、化粧直しをさせる者も居る為、ゆったりとした時間がとられていた。
その為、少し話を聞く時間もあるだろうとやってきたのだが……。
人影が見えた途端、1年S組の空気がヒリつく。
直ぐに気付いたフィーが、ひょこっと顔を覗かせると一気に教室内の緊張が緩んだ。
こんなにS組の生徒全員をヒリつかせるくらいに、ドニカは襲撃を繰り返していたと言う事だろうか……と思うと、フィーは思わず蟀谷を押さえ揉んだ。
「フィー!」
紺の上着を羽織っているので、他の生徒達は職員だったか…と気を緩ませたのに、アンネッタが喜色満面に立ち上がったので、別の意味で騒つく。
そんなアンネッタに、フィーが眉尻を下げるが、もう手遅れだ。
「あら、フィーったら本当に学院職員になったのね」
アンネッタとお喋りでもしていたのか、ネルローネまでフィーに顔を向ける。
ミリリカも、満面の笑みでフィーを迎え入れた。
「とても似合ってい……らっしゃいます、わ…?」
ミリリカの心遣いに心苦しくはなるが、同時に感謝もする。
現在のフィーは、オファーロ家のメイドである事に変わりはないし、彼女達より年下である事も変わりない。しかし、学院の職員側と言う立場が加わってしまった。
そのせいで言葉遣いに、気を回してくれたのだろう。
小さく礼をとりながらも、フィーはネルローネに視線を移した。
「王女殿下、少々宜しいでしょうか?」
自分に用があったと思っていなかったのか、ネルローネは一瞬きょとんとするが、直ぐに頷く。
「わたし?
あら、珍しい。
勿論構わないわ」
そう言ってネルローネは、フィーを先導する様に教室の外へと足を向けた。
途端にアンネッタがむぅと頬を膨らませる。
「わたくしに会いに来たのではなかったの?
それにもう行っちゃうなんて…」
拗ねるアンネッタを、ミリリカが困り顔で宥めているのを見て、フィーは一旦足を止めて振り返る。
「御一緒下さって、問題はございません」
アンネッタがパァッと顔を輝かせるが早いか、直ぐに近くまで駆け寄ってきた。
変わり身の早さに、ミリリカの方が呆然としている。
「ミリリカもいらっしゃいな。
アンネッタが来ていいなら、ミリリカだって構わないわよね?」
ミリリカに声を掛けてから、ネルローネはフィーに確認する。
「はい」
そうして4人が移動した先は、教室を出て少しの所にあるテラスだ。
学院内には、至る所にテラスだのガゼボだのがある為、話をする場所に窮する事はない。
「それでどうしたの?」
足を止めると、直ぐにフィーを振り返って、ネルローネが問いかけてきた。
「はい、少しばかりお伺いしたい事がありまして」
「なんでもどうぞ」
ネルローネは二コッと…王女と言うより年齢相応の少女と言った感じの笑みを浮かべる。
対外的には優秀な王女殿下で、小淑女としても名高い彼女だが、気の置けない面子の前では、まだまだ稚い…とても可愛らしい少女の面を隠さない。
そんなネルローネの言葉に、フィーは早速エネオットの事を尋ねる。
すると……。
「あぁ、あのボケ兄?
なんかねぇ、ずぅっと引き籠っちゃってるのよ。
でもほら、アレが居ない方が平穏でしょう?
アンネッタにも、勿論フィーにも。
だから別に問題ないかなぁ……って」
あっけらかんと言い放つネルローネに、フィーは当然として、アンネッタもあの光景が蘇ったのか、フィーの方を不安気に見つめた。
だが…有耶無耶にしておく訳にはいかない。
意を決して問いかけた。
「もしかして…過日の一本背負いが原因で、寝たきりになったとか…でしょうか?」
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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