215 狭間の物語 ◇◇◇ 羈旅終演―5―
【リエ様の願いは、アナタ達がしっかり寿命まで生きてくれることよ。
わかったら、ワタシ達の事は放っておいて。お仕事が終わればすぐ居なくなるから。
あ、サーズは先に戻りたかったら戻ってていいわよ。
ワタシとノーエは、まだお仕事が終わってないから残るけど】
【っけ!
残らざるを得ないだろーがっ!
俺だけ戻ったらガヴォー様にどやしあげられちまう…】
思考が止まってしまったらしいセルを横に、やっと脳細胞が働きだしたのか、シャフが前のめりに聞いてきた。
「ま、待ってくださいっ!
それは……もう死が遠くなった…そう言う理解でいいのでしょうか?
あと、鍵じゃないというのは…」
【あ~もう、面倒くさいわね。はぁぁ……。
仕方ないなぁ。
ボロボロだった魂を修復してるから、そのせいで死んじゃうって事はなくなったって事。ちゃぁんと寿命までは生きられるんじゃない?
ま、事故とか色々…そう言うのに運悪くぶちあたっちゃったら、それはどうしようもないけど。
鍵じゃないって言うのは、そのまんまの意味よ。
あれはガヴォ様の同行者がリエ様じゃなかったときの為の保険みたいね。
リエ様が同行するから不要なの。
どのみちシャフィロンさんの発動回路…というか継承魔法そのものを、ワタシが消しちゃったし、セルフィウスさんのはさっきノーエが切断し終えてるから、発動しないの。
だから諸々忘れて、人生楽しく生きてってね。
じゃ!】
少しばかり強引に話を切り上げたアミーナだが、その後はシャフやルルがどんなに問いかけても反応しない。
ただ、さっき聞いた話だけでも分かる事は、もうセル達は本当にお役御免となったという事だ。
ルルことルギルについては、もう継承魔法に寿命を左右されない。
シャフことシャフィロンについても、残すは魂の修復のみで、それが終わればルギル同様、寿命を脅かされる事がなくなる。
セルことセルフィウスも、もう自らを犠牲にする手法は切断されていて発動できない状態。3人の中で一番酷い状態だったようだが、それもノーエが何とかしてくれるという事だ。
呆然としたまま動かないセルの肩を、シャフが掴んで揺さぶる。
「セル様!
しっかりしてください!」
「……ぁ」
セルはのろのろと、まだ焦点の定まらない…虚ろな目を上げた。
「どうしますか?」
「……ぇ?」
「だから、どうしますか!?
追えます……貴方はもう彼女を…フィーさんを追えるんです!」
セルの瞳に光が戻る。
「報告なんて、わたしかルルだけでもどうにかなります。
鍵としてじゃない…生きた、貴方自身として共にある事が可能になったんですよ!」
何度か目を瞬かせると、やっとセルの顔に表情が戻った。
「追える…フィーを……?
僕は…僕はもう諦めなくて…良いんだ?」
目線の先にあるシャフの顔が、大きく縦に揺れる。
「そうです。
もう常に死を覚悟しなくて良いんです。
貴方は将来を諦める事無く、夢見る事が可能になったんです。
どうしたいですか?
セル様の望むままにして良くなったんですよ?」
「僕は……」
思案に暮れる事暫く……だが。何かを決意した様にセルは立ち上がった。
「追う…フィーを追いかける」
シャフ、ルル…と、セルは順に見つめる。
「僕は彼女と共にありたい」
それから胸元に視線を移した。
そっと手を添えて問いかける。
「案内を頼めるだろうか…?」
応えはない。
けれど諦める必要はない。フィーに直ぐにたどり着けなくても、向かう方向はわかっている。
セルは荷車から自分の荷を持ち、西へと歩き出す。
シャフはそれを見て、ルルの背を押した。
「ルル、セル様を頼みます。
わたしも報告が終わったら、直ぐに後を追いますので」
「え?
俺?
いや……まぁ、そうなるか…俺に報告の方が無理だもんな…」
駆けだすルルの背を見送ったシャフは、荷車と共にイボルボンを目指す。
少し足早になったのは仕方ない。
彼等の…いや、先に向かっているフィー達も含め、立ち開かるモノを乗り越えるのは容易ではないとわかっている。
だが…諦める必要のなくなったセルの足取りは軽い。
背後から追いかけてくるルルの声にも、薄く笑みが浮かぶ。
「フィー…すぐに追いついて見せる」
セルは歩調を少し早め、ただ只管に西を目指した。
これにて終幕となります。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。
皆様がお読み下さる事で、ここまで書き続け、終幕に至る言事が出来ました。
本当に…本当にありがとうございました。
次回作でも、またお目に掛かれましたら嬉しいです。
重ねて、本当にありがとうございました<(_ _)>




