暗闇と、雪の降る町
今日も変わらず、雪と一緒に雪灯が降る。
町の明かりと温もりになる大事な雪灯。
普段はほんわりとオレンジ色をしているが、いつもと違い薄い水色の『太雪』と呼ばれる、年末年始特有の色をしている。
「はあーっ!今日も寒いなあ。」
ここは降ってきた雪灯が、衛兵によって集められている作業場だ。
特製のランタンに雪灯だけを集めながら、白い息を吐く。
「だな。でももうすぐ次の王様が決まるし、そうすれば少しマシな春もすぐそこだぜ。」
隣で同じくランタンに雪灯を集めている友人が返事をした。
「またお前が選ばれたりしてな!イシシっ。」
そして茶化すように僕を小突いてきた。
僕は王様だった日々を思い返しながら、少しうんざりした表情で返す。
「どうだろうね。もう2度王様のお役目を果たしたんだし、もうないでしょ?」
家族から離れて1人城で過ごさないといけない日々を、そう何度も経験したくはない。あれは結構心に来たなあ。
王様を経験したことのない友人は軽く言う。
「昂雪は歴代の王様の中でも特に優秀だったって、町の人からの評判も良かったからな!ありえなくもない話だぜ。」
そして雪灯を集め終わった友人は「またあとでな!」と言って、ランタンの入ったカゴをもって家へと帰っていった。
手を振って見送った僕も雪灯をつめるランタンは最後の一個だった。
このくらいでいいかな、とランタンの蓋を閉める。
「はあ。寒い寒い。僕も早く家に帰ろう。」
雪の積もった地面を踏み、家へと向かう。周りにはまだ作業している子どもたちがちらほら見える。
今日はなんだかぼうっとしていて、いつもより時間がかかっていた。
「お母さんに怒られるかな。早く帰ろう。」
今日もいつも通りに雪が降っている。薄水色の灯りとともに。
この色を見られるのも、年が変わるまでのあと数時間だ。
「昂雪、そろそろ戻っておいで。もうすぐ年も明ける。」
母の呼ぶ声がして、後ろを振り返る。僕は、少し足りなかった雪灯を補充するため外で集めていた。
もこもこと着こんだ母と目が合い、手を振ってくれた。
「わかった。このランタンをいっぱいにしたら戻るよ。」
「オーケー。急ぎなね。」
ぱたんと扉の閉まる音を聞きながら、ランタンをぶんぶんと振り回す。
ふわふわと落ちてくる雪火を空中でかき集めて、ようやく満杯になった。
「ふう、これで明日も灯りが使える。」
僕はくるりとまわって玄関へと駆け出した。
あと数時間で年が明ける。
年が明ければ、新しい王様に会える。