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*雪火  作者: 月下
祈りの町
2/2

再開、そして

仄かに光る雪が降る森に囲まれた町。

年が明けたばかりの深い夜に、すべての住民は温めた布団にもぐり皆夢の中にいた。彼らの夢に出てきたのは一人の少女。シルバーのようにも見える薄灰色をした長い髪の少女が、城にある王の間の豪奢な椅子にちょこんと座っていた。しかしこの少女のことを知る者はいなかった。———たった一人の少年を除いて。


夜明けの時間とともに起きた城の伝達係が、町一番の大きな鐘を鳴らす。リーンゴーンと町中に響く鐘の音は、太陽の上らない薄暗いこの町にとって、一日のうちどの時間が来たのか知るための大切な音だ。この「朝日の時間」の音が鳴れば、城の使いたちが、町の決まったところへ火を付けて行ってくれる。太陽の上らないこの町では、松明と「雪火」がなければ外を出歩くことは難しい。

「おはよう、お母さん。朝だよ」

昂雪は朝の弱い母を起こすため、分厚い布団をはぎながら声をかけた。

「…うう、さむう…!もう朝かあ…」

寒さにもぞもぞと抵抗しながらも、母・雪乃は大人しく起き上がった。

母の目が覚めたことを確認した昂雪は、蝋燭の入ってない空のランプをいくつかとカーキ色の上着を羽織る。

「うん。ご飯テーブルに置いてるから食べてね。僕は今日の分の雪火を取りに行ってくるよ」

「寒いのに朝からありがとう。気を付けていってらっしゃいね。…そういえば…」

玄関のドアノブに手をかけたが、そういえば、と言葉を切った母のほうを見ると、戸惑った表情で言っていいものかと呟き、続けた。

「新しい王様、…あなた知ってる?」

昂雪には母の言わんとしていることがなんだか分かっていた。

「…ううん、僕も見たことない子だったよ」

首を振って否定した。

空のランプがカランと音を立てて揺れる。

「そっか」

母もそれで話を終わらせて、外へ出るよう促す。

「ま、気を付けて行きな」

「うん、行ってきます」

ドアノブをまわすと、キイという音とともに扉が開く。一歩踏み出せばザクっと雪の音がした。目の前には、暗闇に浮かぶ銀世界だ。

いつもと同じ景色。いつもと同じ日常。

いつものように、雪火が集めやすい場所まで歩いていく。

一つだけ違うのは、新しい王様のことだけだった。

「灰音…」

彼は知っていた。夢の中の少女のことを。

「会いたかった」

自分をぎゅうっと抱きしめる。彼女に会いたくてたまらなかった。

どこにいたんだろう。何を見てきたんだろう。どうやって、この町にきたんだろう。

きっと、お城へ行けば会える。

ざくざくと雪を踏みしめ歩きながら、彼女のことばかりが頭に浮かぶ。

やがて仕事場に着いた彼は準備を始めた。

「…でも、先に仕事をしないと、だな」

はやる気持ちを押さえつけ、手に持ったランタンをひとつずつ振り回して、雪火を集めていく。


いつもより急いだせいで、動きが雑になってしまったので、時間がかかってしまった。が、自由時間を少し過ぎたところで、なんとか集め終えた。

朝来た道を早足で家へ戻りながら、彼女のことを思う。

「ただいまお母さん!」

荒っぽくドアを開けて家に入ると、音に驚いた母が「ドアは優しく開けな!」と注意してくるが、聞き流しながらばたばたとランタンを置き足早に家を出た。

うちはお城から近いほうで、三つほど角をまがると、お城への一本道に出る。

息が切れるほど全力で走った。

やがて坂を上りきると、城門の前へたどり着いた。お城の衛兵は顔見知りのメィリーだった。

「こんにちは!」

思ったよりも大きな声が出て、メィリーが獣耳をパタパタと動かした。

「こんにちは、いつかの王様。中に用?」

無表情な顔で、でも返事をしてくれたのは、狼と狐の混血で亜獣人のメィリー。

「ご、ごめん。声大きくて…。そう、用があるんだ」

ふう、とため息をつきながらも、僕の用事が何かわかっている彼はすんなりと門を開けてくれた。

「…別にいいよ。あと、お姫様は王の間にいるよ」

「…!ありがとう!」

彼女がここにいる。そう決定づけられて、嬉しさのあまりまた声が大きくなってしまった。

メィリーは耳をかきながら、ふいっとそっぽを向いている。

「いいから。お姫様も待ってるんだから」

「うん、行ってくるよ」

もう一度ありがとうと言い、僕は開かれた城門を走って通り抜けた。



お城に入ってからは足音が響いてしまうので、歩きながら王の間を目指した。

それでもカツカツと響いているが、同じくらい心臓の音も耳の奥で響いていた。

灰音…。彼女は僕の初恋の女の子だ。銀色に輝く髪に、白い肌、透き通った青色の瞳を持つ、儚げな少女。

今の母に引き取られる前、真っ暗な森の中で出会ったのが初めてだった。

当時10歳だった僕も、今年で18になる。

「僕のこと、憶えてるかな…」

8年もたっていたが、夢の中の彼女は、成長して大人っぽくなっていたが、まぎれもなく灰音だと一目でわかった。

彼女のことばかり考えていると、いつの間にか王の間へとたどり着いた。

この城で城門の次に大きくて重厚な木の扉は、人一人通れるくらい開いていた。

そっと手にかけてみるが、緊張しすぎて中々動けなかった。

「…どうぞ」

固まっていると中から声をかけられた。

少し低くなっているけど、灰音の声だった。

「っ、お邪魔…します…!」

心臓は相も変わらず、ドクンドクンとうるさかったが、思い切って中に入った。

「…灰音…」

彼女の名をこぼす僕に、窓際に座っていた彼女はこちらを振り返り、ふわりと笑った。

「っつ…!」

「昂雪…、貴方だったの」

僕の名前を呼ぶ彼女。光に反射して銀髪が輝く。

「う、うん。驚かせてごめん。…僕のこと、憶えててくれたんだね」

「もちろん、憶えてたわ。来てくれてありがとう」

「ううん、こちらこそ」

灰音は手招きをしながら、こっちに来てくれる?と聞いてきた。

「うん!すぐ行くよ」

会えてうれしい!胸の中は喜びでいっぱいだった。

すぐに駆け付けた僕にありがとうと言い、灰音の顔はうっすら影を落とした。

「まずは謝らせて。ごめんなさい…」

唐突に謝られて僕は動揺する。

「あなたが過ごしてきたこの町を巻き込んでしまった。…数日後の戴冠式に、雪火が…」

悲しそうな声音に、大きな瞳には涙がたまっていた。

僕はおろおろして何も言えないまま、涙が一筋こぼれたところで、彼女は続きを振り絞った。


「…雪火が、止んでしまうのっ…」


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