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こんなところでたった一人で、どうしろって言うの?
プリンセスハートは途方にくれていました。
ここに導いてくださったはずのお父様はあれから声すら聞かせてくれません。
窓から見下ろす景色は清々しく素晴らしいものでしたが、どうしたわけか一人の人影も見当たりません。
風に乗って、あんなに朗らかな舟歌が聞こえてくるのに?この国の人々は一体どこにいると言うのでしょう。
街に降りてみようか。しかし見知らぬ国の見知らぬ街。心細さになんとなく躊躇してしまいます。
プリンセスハートは自分で決定することが苦手でした。望まれたことを望まれた通りこなせないことが、間違ってしまうことが何よりおそろしいのです。
こんなとき誰かが……お父様が、まずはこうしなさいと示してくださったなら——。
ごうごうと遠くで唸る風の音と、途切れ途切れの微かな歌声だけが耳に届きます。
完璧に一人。これからどうしたらいいのか、誰かに相談することさえ出来ないままで、時間は少しずつ確実に過ぎてゆきます。
しかし、もしかすると、無闇に急ぐ必要もないのでは。プリンセスハートは不意にそう思い当たりました。
学校の友達が口癖のように、大丈夫、なるようになる、その時が来たら考える、などと言っていたことをふと思い出したのです。
その度にプリンセスハートは、そんなに適当でどうするの?と怒りもしました。
しかし今ではその適当さに励まされたい思いがします。
噛み合わないようでいてふしぎと互いに補い合う、素敵な友達でした。
「みるくちゃん……」
どうしてるかな。あなたならどうするかな。
天真爛漫でちょっと変わり者な彼女の名がつい口をついてこぼれました。
会いたいけど、元いた場所に帰りたいようでいて、ずっとここに居たい不思議な気持ちでした。
こんなに心細いのに?
ああ、わたしはきっと来てほしいんだ。
彼女に、この国に。
「歌っているのはあなたね。どこにいるの?」
誰もいないはずの部屋でプリンセスハートは問いかけます。
途端にふつりと歌は止み、風の音のむこうから、微かに、くすぐるような笑い声が聞こえました。
くすくす、くすくす。
それは次第に近くなり、はっきりと聞こえて来ます。
あれはそう、何度も聞いた、面白いことを企んだ時のすこしいたずらな笑い声……
「バレちゃったミル。一人でなにしてるミル?」
「別に……何もしてないよ。」
「何もしてない訳ないミル! 歩いてたし息してたミルよ! 考え事もしてたかもしれないミル。ミルキーエンジェルはお見通しミル!」
プリンセスハートの口を使って、誰かが呆れたように彼女に問いかけます。
「なあに、その喋り方。今度はどういう遊び?」
そう、こんな風だった。こんな風に突飛で訳が分からなくて、だけど憎めない。
「ミルキーは天使様ミル! 愛と救済のエンジェルなんだミル! さあ◼︎◼︎◼︎ちゃん、ミルキーエンジェルに願い事を言ってミル? なんでも叶えてあげるミルよー!」
「ねがいごと……」
わたしは。
そうだ、わたしは国を作らなくてはいけないの。
それも、たった一人で。無茶だと思うでしょう? だけど、お父様がやれとおっしゃるのよ。お城の図書館に行けばきっと資料はあると思うの。政治の本がいいかしら? それとも伝記? お金の仕組みだってきちんと理解しなくてはいけないわ。すごく広くて立派な図書館だから探すのも大変よ。ああ、お城の外の街も見ておかないと。窓から森も海も見えるから、きっとあそこもずっと国の土地なの。行ってみないといけないし。まず地図がいるかしら? そうそう、下の方の街には住んでいる人もいるはずなのだけど、まだ誰の姿も見えないのよ。もう街があるの。ずっとここで暮らしているのだとしたら、彼らの話も聞かずに突然勝手を始めるわけにはいかないわ。やることは本当にたくさんあって、だけどまだどこから手をつけたら良いかわからなくて。でも、やらなくてはならないの。お父様に任されたから。だからもし相談できる相手がいたら。……あなたがいてくれたらいいと思っていたわ。そう、わたしはお友達を探していたのよ。
ちょうど良いところに来てくれたね。だからみるくちゃん、いっしょにやろうよ。いっしょにやってくれる?
わたしの願いはね、
「……塾に行きたくない……」




