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桜の木の下で……(19)

照明変化


[春美]:「き、杏花?」

[あやめ]:「あ、み、見える。春美、私たちにも見えるよ」

[洋介]:「本当だ、春美の前に女の子の姿が」

[百合]:「あなたが、杏花ちゃん?」

[杏花]:「初めましてみなさん、春美お兄ちゃんのいとこの杏花です。そして、本当にありがとうございました。見ず知らずの私のために、ここまで力を尽くしてくれて」

[あやめ]:「そんな、お礼なんて……」

[洋介]:「そうだ。俺たちは当然のことをしたまでだよ」

[百合]:「そうそう」

[杏花]:「良いお友達をもったんだね、お兄ちゃんは」

[春美]:「ああ、俺は幸せ者だよ。それに、お前のようないとこを持てたことも」

[杏花]:「えへへ、やだ、恥ずかしいよ」

[春美]:「そんなお前に、この木の桜を見せたかったんだが……すまない、杏花」

[杏花]:「お兄ちゃん、私が言ったこと忘れたの? 結果がどうなっても、この桜の木を守ろうとしたって事実はずっと残るって」

[春美]:「いや、忘れたわけじゃないけど……」

[杏花]:「なら、それでいいの。それだけで、私は十分に満足してるよ。だって、お兄ちゃんは、みんなと最後まで自分の意志を貫いたじゃない? 意志を貫くって、そう簡単にできるようなことじゃないよ? きっと、この桜の木だって、お兄ちゃんたちがしてくれたことにとっても感謝してると思うよ」

[春美]:「そうかな?」

[杏花]:「本当にお疲れ様。そして、私のために、ここまでしてくれてありがとう」

[春美]:「急に、どうしたんだ? まるで……別れの言葉みたいなことを言いだして。……まさか、お前」

[杏花]:「言ってなかったっけ? 私、本当はもう、元の世界に戻る予定だったんだ」

[春美]:「き、聞いてないぞそんなこと」

[杏花]:「前に、私がお兄ちゃんの前に現れた理由を話したよね。お兄ちゃんを、元のお兄ちゃんに戻すためにきたんだって。あの話をした日、もう私の役目は終わってたんだ。お兄ちゃんは、私の望み通りのお兄ちゃんになったから。でも、お兄ちゃんは言ってくれた……私の望みを叶えてあげたいって。私、それが嬉しくって、つい自分のわがままを通しちゃったんだ。だから、もうリミットが来ちゃってるんだ」

[春美]:「そんな……お前、この桜の花が咲くところを見ないで行くのか? まだ一日残ってるんだ。まだ、咲かないって決まったわけじゃないぞ?」

[杏花]:「私もそれは思ってるよ。この桜の木は、絶対に咲けるって思ってる。でも、もう少し時間が必要だったんだよ。この子にだって、それなりの事情があるはずだから」

[春美]:「だったら、もう少し待ってくれよ。俺は、お前に何かしてやりたいんだ」

[杏花]:「お兄ちゃんは本当に鈍感だね。さっき言ったでしょう? お兄ちゃんが私のために尽くしてくれた事実が、私は嬉しいって。それだけで、私は十分満足してるよ」

[春美]:「でも、今のままじゃ、前と同じ……」

[杏花]:「同じじゃないよ、お兄ちゃん」

[春美]:「…………」


 春美、杏花を見つめる。


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