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Webデザイナーのわたしと、ハッカーの彼!  作者: おんもんしげる


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1-1 新たな仕事、新たな世界(1)

 ある水曜日の夜、午後7時。


 わたしは、いつものこの時刻と同じように、会社でHTMLとCSSのコードを秒速で打ちまくっていた。

 クライアントからの度重なる仕様変更依頼で、一度作ったものが二転三転し、修正、修正、修正……。

 いったいあたしらWebデザイナーをなんだと思うてるんや、まったく。


 隣の席から、後輩の牧野くんが尋ねてくる。


「あの、織宮(おりみや)さん、ここのボックスレイアウト、こんな感じで合ってますか?」


 わたしは彼がチャットワークで送ってきたHTMLとCSSのファイルを開き、コードを順々に見ていく。


「あ、ここがちょっと崩れてるね。

 こういう場合は、こんなふうにコードを打つときれいに……」


 わたしがその場でコードを打っていくと、牧野くんがそれを真剣なまなざしで見ながら、自分のPC上で打って修正をかけていった。


「あ、確かに。

 ありがとうございます、織宮さん!」


 牧野くんは入社してまだ半年くらいの、フレッシュな新人くん。

 見た目のとおり、まじめな優等生タイプ。

 一生懸命に仕事に取り組んでいる。

 成長も早いほうなのではないだろうか。


 あ、わたしが名乗るのを忘れてたね。

 わたしは織宮理乃(おりみやまさの)、25歳。

 この大阪にあるITシステム会社の社員で、Webデザイナー。

 UI/UXセクションのサブリーダーを任されてる。

 え、若いのに責任ある役職についてて、すごいね、って?

 あー、そう言われればそうかもしれないんやけどな。

 これには、わけがあってな……。


 というのも、UI/UXセクションのリーダーが三ヶ月前に過労で倒れちゃって。

 症状がかなり悪いみたい。 

 それでこのセクション、リーダー不在になっちゃった。

 

 というわけで、リーダーのもとで事実上いちばん仕事を多くこなしていたわたしが、なりゆきでサブリーダーにされてしまった、ってわけ。

 わたしより会社で在籍年数が多いWebデザイナーは何人かいるんやけど、まあ自分で言うのもなんやけど、正直言って仕事がいちばんできるのはわたしやしな。


 とはいえ、サブリーダーに任ぜられたときは、やったー!出世やー!!とか無邪気に思うてたわたしやけど、あのときより多少は賢くなったいまでは、こんな中途半端な役職なら受けんほうがよかった、と思う。

 責任は50%増量、給料は5%アップ。

 ペーペー平社員時代とちがい、部下が3人できた。

 彼ら彼女らを常に教えたり面倒を見なきゃならない。

 担当する仕事もめんどくさい内容のものが多く、すべてを部下に任せるわけにもいかない。

 必然的に、わたし自身の仕事量も爆上がりする。


 割に合わんやろ……。


 そもそも、うちの会社は大企業からの案件が多く、またシステム開発案件が中心ということもあって、Webデザイナー活躍の機会は少ないんや。

 わたしたちのところに来るデザイン案件も、システム上ガチガチに制約のある話が多くて、正直やりがいはいまいち。


 はぁー。

 そんなわけで、わたしらUI/UXセクション、日々の仕事は忙しいけど、モチベーションはいまひとつ上がらず、といったところ。

 それにわたし、いまはギリギリなんとかやってるけど、こんなスケジュール管理とか、人に教えるとか、本来ぜんぜん向いてないんよ。

 っていうのはさ……あ、これについては話すとややこしくて長くなるんで、あとで話すわ。

 

 そやから内心ひそかに、転職したいなー、とは考えてる。

 けど、あてがあるわけではなし……。


 でも、もっとやりがいを感じられる仕事をしたいな、ってのは正直なところ……。


 夜9時過ぎ。

 遅くなったので、牧野くんを帰らせ、残りの仕事はわたしが引き取った。

 もうUI/UXセクションに残っている社員は、わたしのほかにはいない。 


 いつもなら、向こうのシマにあるシステム関連部署の社員さんが、この時間でもけっこう残っているはずなんやけど、きょうはもうみんな帰ったんか?

 社内は、わたしたったひとりらしい。


 あいかわらず、わたしはカチカチとキーボードを打ち続ける。

 孤独なコーディング作業。

 でも、正直言うと仕事はひとりでやるほうが集中できてはかどったりする。

 

 そうしていると、デスクの上に置いているわたしの携帯が、


 ブッ!

 

 と鳴った。

 いつもなら、どうせSNSやお店アプリの宣伝といった告知やろ、と思ってほっとくのだが、そのときはなんか気になって、携帯をのぞき込んだ。


 LINEの通知に表示されていたのは、ひさしぶりにみる名前だった。

 千坂兵輔(ちさかひょうすけ)


 わたしはうれしくなって、すぐにLINEトークを確認した。

 千坂先輩からのメッセージは、こうあった。


 <織宮さん、ひさしぶり!

  元気にしてる?

  ひさびさにいっしょに飲まないか?

  話したいこともあるんで。

  次の金曜の夜、空いてるかな>


 いやいやいや!

 願ってもないタイミングだ。

 千坂先輩からのお誘いが来るとは!


 あ、千坂先輩は、前にこのうちの会社にいたプログラマーさん。

 Webシステム開発セクションの若きリーダーだった人だ。

 千坂先輩はコードを打つのが早かったし、作ったプログラムは非常に信頼性が高かった。

 だから当然、この会社で将来を嘱望されていたのだけど、独立して自分の会社を興したいって理由で、一年近く前に退職した。

 そしてその後、会社を立ち上げ、順調に行ってるらしいことはうわさに聞いてはいたけれど……。


 わたしもこの会社にいたときの千坂先輩には、すごくお世話になったんだ。

 新人でまだ知らないことばかりやったわたしに、すごくいろんなことをていねいにやさしく教えてくれたし、それに先輩はめちゃくちゃ仕事ができるし、性格いいし、まあまあイケメンやし……。

 まあ、言ってみれば、わたしにとってあこがれの先輩やった、千坂先輩は。


 そやから、先輩が会社を辞めるって話を最初に聞いたときは、びっくりしたし動揺したよ。

 でもな、千坂先輩が前からの夢だった、自分の会社を立ち上げてやりたい仕事をやりたいというのを実現する、そのタイミングがいまだと思った、って話をして、さらに、


「織宮さん。

 これは自分の会社がある程度軌道に乗ったら、の話になるんだが、いつかオレの会社に来ないか?

 織宮さんは能力も高いし、こんな会社で埋もれてるのはもったいなさ過ぎる。

 オレの会社でなら、もっと好きな仕事もできるし、力を十分発揮できると思う。

 もしきみが望むなら、の話だが……。

 そんときが来たら、声かけるよ。

 だからLINEのオレのアカウント、削除しないでくれよな」

 

 そう言って笑ったとき、わたしはマジで気持ちが上がった。

 先輩が声をかけてくれるのを本気で待とうと思った。


 だからきょうまで待っていたわけだ。

 そしてやっと、そのときがやって来たのか!


 わたしは、うれしさで顔がニンマリするのを自分で感じながら、それを止めることができずに千坂先輩への返事を打った。


 <千坂先輩、

  こちらこそ、おひさしぶりです!

  次の金曜日、OKです!

  なんとしてでも空けて行きますんで。

  あ、ただですね、わたしアルコールNGになっちゃたんですよ。

  薬飲んでまして。

  なのでノンアル参加となります。

  理由はそのときに。

  あ、重い病気とかじゃないですから、ご心配なく。

  場所はいつもの「ミルトン」ですか?>


 返事を送信して、わたしは仕事に戻った。

 通販サイトの商品ページ、コード上のあちこちに埋め込まれたプログラムのタグの間をぬってHTMLを組んでいかなければならない、複雑な作業だ。


 10分くらい経っただろうか、ふたたび携帯が鳴った。

 千坂先輩からの返事だ。


 はやる心を抑えながら、携帯を取った。

 返事はこうあった。


 <織宮さん、

  そのとおり、場所はいつもの「ミルトン」で20:00でどうだろう。

  これでよければフィックスということで。

  身体壊したりしてないか?心配してる。

  きみはがんばり過ぎるくらい、がんばり屋なところがあるからな。

  無理し過ぎないように。

  じゃ、金曜日楽しみにしてる!>

 

 やった、先輩に会えるー!

 

「このときを、待ってたんだよー!!」


 わたしはひとり、そう叫ぶと、大急ぎで仕事を終わらせにかかった。

 そして小一時間、やっとコーディングを終えアップすると、ふと窓の外を見た。

 今夜は三日月だった。


 そう、これから少しずつ、月は満ちていくんだよな……。

 そう考えて、わたしはうれしくなった。

 そして、ふっ、と鼻で喜びの息をもらした。


 月もわたしも、これから満ちていく……。 

 そう、そのときのわたしはまだ、そんな無邪気な希望だけを抱いていたのだった。

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