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異世界転生してエルフのお姉さんにお世話になったら激重感情抱かれてた  作者: 火海坂猫
一章 純愛編

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六十七話 想定外は大抵最悪の結果になる

「ちっ、嫌になるわね」


 魔族の頑丈さはこれまで戦ってきた私が一番よく知っている。あの規模の魔術の直撃を受けて生き延びるのもおかしいが、常人であれば生き延びてもまず傷の回復と状況の立て直しを選択する…………しかし迷わず魔族はこちらへと向かっているのがわかる。

 恐らく治癒魔術と並行して飛行魔術で跳んできているのだろうけど、正気の沙汰じゃない。けれどその正気の沙汰でないのがほとんどの魔族であり、それが私たち人種が苦戦してきた理由だ。


「もう一発ぶちこむ余裕はありそうだけど…………」


 固定しておいた術式のストックはまだある。しかし仮に同じ魔術を行使したところで警戒されている今度は魔術の発動そのものを防がれる可能性が高い…………魔族はそういう手管てくだに長けているのだ。だから彼らに魔術をぶつけるには近しい距離でそうする余裕を奪いながら出なくてはいけない。


 とはいえ、何もせずにただ座して待つのも優位を捨てるようなものだ。


「なら、この手ね」


 私は強化魔術を発動させると同時に神様の加護で周囲の空気を特定の形に固定する。固定したところでそれは目に見えるようになるわけじゃないけれど、固定されたそれらはもはや実体のない気体ではなく何ものにも砕かれない頑丈な固体だ。

 それを最大限に強化した膂力で複数同時に叩いて撃ち出す。魔族の姿はまだ見えないが魔力感知で位置は掴めているしそこまで間違いなく届くだろう。


 あちらがこちらに近づくまでひたすらにこれを繰り返す。


 複数の魔術を同時に起動し続けるのは難しい。一般的な魔術師なら一度に使える魔術は一つだけで、熟練の魔術師でも二つが限度。

 仮に魔族がこの不可視の攻撃を防ぐために防御魔術を使用するなら治癒か飛行のどちらかを諦めるしかなくなる…………まあ、魔術を三つ同時に使える実力者の可能性もあるけど、その時はその時。

 

 私が戦った魔族の幹部連中でも三つ同時に使える奴は少なかったし、使えても負荷は大きい。


「もう一発!」


 距離的にそろそろ限度というところで私は最後の一発を叩き撃つのではなく手に掴んでぶん投げる。これまでで最高最大の渾身の力…………防御魔術ごとぶち抜く勢いの一撃だ。


 これで死んでくれれば楽に終わる。


                ◇


 飛行魔術は便利ではあるが欠点も多い。障害物のない空を高速で移動できるのが利点なのだがその利点自体が欠点でもある。障害物のない空は下から狙い放題であるし、高速で移動している間は視界が狭まり自身にぶつかる風で音も拾えない。つまるところ相当に無防備な状態で移動することになるのだ。


 ゆえにその欠点は魔力感知で補うのが基本だ。それであれば五感が制限された状態であっても相手の位置や放たれた魔術などは感知できる。例えあの女がもう一度空間爆裂の魔術を仕掛けて来ても我であればそれを防ぐことは出来た。


「ぐっ!?」


 しかし我はそれが肩口に突き刺さるまで気づくことができなかった。飛行する体勢の都合上風圧を最小限にするため空に寝そべるように進んでいくから頭に突き刺さらなかったのは幸運でしかない。痛みをこらえながら咄嗟に頭を庇うとその腕にさらに数本何かが突き刺さる衝撃を覚える。


「あの女ぁ!」


 我は思わず悪態を吐くがそれで状況が改善するわけでもない。その女ならずとも転生者と呼ばれる者どもは邪神から与えられたという魔術とは違う力を使う。

 確かあの女は物体を固定する力を持っていたから、恐らく空気を剣のような形に固めて魔術を使わずにこちらへと飛ばしてきたのだ…………それであれば魔力感知は反応しない。


 あれは魔力を使用せずに魔術以上に世界へと大きな変化を加える不条理すぎる力だ。そのせいで力に気付くことができずに敗北していった魔族は数多い。


「くそっ!」


 飛びながらでは避けることも防ぐことも難しい。最良は防御魔術を展開することだが我の技量では魔術の多重起動は二つが限度、飛行か治癒のどちらかを諦める必要がある。

 しかし飛行をやめて地面に下りるのはこちらの動きが止まる。あちらの魔術を妨害することは可能だとはいえ実際のところこちらの方が消耗は大きい。一方的に魔術を行使され続ければ先に我の方が力尽きるのは認めたくないが事実だ…………ゆえに座標を高速でずらしつつ奴に接近できる飛行魔術は諦められん。


「ぐうっ」


 治癒魔術を切り苦痛を堪え、防御魔術で周囲を覆うように障壁を展開する。その瞬間にいくつもの衝撃が障壁へと走る…………あの女め、やはり抜け目なく追撃を仕掛けていたか。恐らくは私が十分な距離に近づくまではこの攻撃を繰り返すつもりだろう。

 しかし障壁さえ展開してしまえばそれを貫くほどの威力のある攻撃ではない。これであれば耐え切って距離を詰めることは可能だ。


「後、少しだ」


 それからも執拗に続けられた攻撃を全て防いで我はもうすぐで直接あの女を見ることのできる距離まで近づけた。あと少し近づくことができればこちらからカウンターを仕掛けてやることもできる…………これまでのような一方的な攻撃は。


「っ!?」


 気を抜いたつもりはなかった、しかし最悪の想定も怠っていた。そのことを自覚したのは障壁を貫いた何かに肩口から腹部にかけてと左の二の腕を大きく切り裂かれてからだった…………これまでとは明らかに威力の違う投擲物とうてきぶつ

 しかもそれはただの剣ではなく枝葉のように刀身が何本も広がったものだったのだろう。だから衝撃を貫いた際に機動がずれても我の体を大きく損傷させた。


「がっ!?」


 そのダメージのショックで全ての魔術が一旦解除され、不意に推力を失った我の体が地面へと向かって落下を始める…………飛行術式の再起動をする余裕はない。受けたダメージは即座に治癒魔術が必要なものだし、止めを刺されることを防ぐためにも防御魔術の再展開は必須だった。


 ゆえに、我はそのままこの世界の重力に従って地面へと落下した。


                ◇


「よし」


 本命の一撃が命中したことは魔族が落下を始めたことで確認できた。しかしまだ魔術の反応があることから即死していないことも確かだ…………すぐさま追撃を仕掛けに、って。


「いけない!?」


 私は慌ててその場から走り出す。魔族を撃ち落としたのはいいがその場所を完全に失敗していた。魔力感知に集中しすぎていたせいで私は魔族との彼我の距離しか見ていなかったのだ。


 魔族が落下するのは…………町の中だ。


                ◇


 集会場の横には町が所有する倉庫がある。そこにはいわゆる公共用の資材などが収められていて町長さんによって管理されている。つまりは町民は簡単に立ち入れない場所でありなおかつ避難場所である集会場に最も近い建物…………つまり僕が待機するにはちょうどいい場所だった。


「意外と綺麗だよね」


 倉庫といっても丁寧に管理されているのか、物は綺麗に収納されているし定期的な清掃もされているのか埃がかぶっている様子もない。

 相変わらず窓はないので灯りがなければ完全に真っ暗なのが難点だけれど、幸いにして昼間に覚えた炎魔術で光源は作れる…………燃えやすいものが多そうだから火事が怖いけれど、指先に灯せる程度の火なので問題ないだろう。


「マナカ、大丈夫かな」


 僕にも感じ取れるような大規模な魔術の反応はあの合図以降はない。だからマナカと魔族の戦況がどうなっているのか僕には全くわからなかった…………大丈夫、マナカは他の転生者たちが全滅した魔王との戦いからも生還した実力者だ。相手が強い魔族だったとしても負けることなどないはずだ。


「それにもしもの時にはきっと」


 ノワールさんが助けてくれるはず…………多分、いや、きっと。魔族を倒すのは駄目でもマナカの命を助けるだけなら制限には引っかからないはず。ノワールさんがマナカに何かしらの利用価値を見出しているなら僕を悲しませないためにも彼女を助ける…………と、思う。


「…………はあ」


 ただ待つというだけはやっぱりつらい。


 しかしその不安を、不意の騒音が打ち破った。


 お読み頂きありがとうございます。

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