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【両想いの魔法陣】 SWEET★FIL ~ 火力最強の非戦闘員!? ~  作者: 三色アイス
第1章 エルドの町
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焼きたてフィナンシェ

 翌日は4人で一緒に帰り、昼食後、2人が店の手伝いにきてくれた。


 ラフィ―は素早くエプロンをつけ、すぐに売り子を交代してくれる。ルインもレブロとトトルのところで準備を終えたらしく、私が工房に入るとすぐに目が合った。


「ステラちゃん、準備終わったよ!」


「よーし! じゃあ、今日で完成させよー!」


 いくつも試作品を作り上げたころには、だいぶ日が傾いていた。


「ふぅ~、出来た! これで明日の朝から1番美味しかったレシピで作るから、みんな明日どれが美味しかったか教えてね!」


「さっき食べた感じだと、どれも美味しかったけどな」


「冷めると、また味や触感が変わってくるから、どっちでも美味しいものを作りたいんです!」


「そうか。じゃあ、明日こそ完成だな」


 私は焼き上がったフィナンシェに数字の焼き印をつけ、帰りにルインとラフィ―にも渡す。


 よし! 明日完成させて、町長に持っていこう!


 翌日は、ラフィ―が少し遅れるということだったので、売り子をしながら待っていると、走ってきたのだろう、息切れしながら、掛けてあるエプロンを身に着け、私の元に足早にやってきた。


「ステラちゃん、遅れてごめんね!」


「全然! こっちこそ、用事があるのに、手伝ってもらってありがとう!」


「あ、そうそう! もらったフィナンシェだけど、3番が1番美味しかったよ!」


「ありがとう、参考にするね!」


 ラフィーと交代し、工房に入る。工房内でもどれが美味しかったかを言い合っていたようで、レブロとルインは3番、クルトとトトルは4番だった。まさか、属性によって味覚まで!? と思ったが、検証していないので、なんともいえない。ちなみに私が選んだのは3番だった。再度言い合いが始まったので、みんなに向かって片手を上げて宣言する。


「厳正なる集計の結果、3番に決まりましたッ!」


「ほーらな! 3番だったろ?」


「4番が味が良かったよ!」


「どっちも美味しかったんだし、いいんじゃないか? それよりトトル、手が止まってるぞ」


 トトルはムスッとした顔をしていたが、多数決の結果だ。私は3番のレシピで町長に渡す用のフィナンシェを完成させた。すぐに持って行きたかったのだが、店が忙しいこともあり、閉店後にレブロと持っていくことになった。


 町長の家は、魔法店よりももっと先にある少し大きめの赤い屋根をした一軒家だ。雰囲気は、街並みと同じ感じだが、なぜだか屋根の上に男の石像が飾ってある。細部まではみえないが、そんなものを飾る人は、間違いなく火精人だろう。


 チャイムを鳴らすと、中年の優しそうな女性が出てきて、部屋に案内される。部屋に入ると私の考えは、確信に変わった。部屋の至るところに屋根にあるものと同じような男の石像が飾られている。


 広いリビングのような部屋に通されると、町長が真っ赤なソファーに座っていた。

 

「やぁやぁ、待ってたよ~レブロ君。それにステラちゃん」


 私とレブロは勧められたソファーに座って、町長にフィナンシェが入った箱を渡す。町長は、箱を受け取ると、フィナンシェを1つ手に取り、観察しながら、匂いを嗅ぎはじめた。


 その時、案内してくれた女性がお茶を出してくれたので、お礼を言いながら、鼠色の湯呑みを受け取る。なんだか手にごつごつしたものが当たり、湯飲みを確認する。


「うわぁっ!」


「静かにしなさい」


「おやおや、驚かせてしまったかな。新作なんだ。うまく掘れてるだろ?」


 私はあまり見たくなかったが、再度、湯飲みを確認すると、そこかしこにある男の石像が彫られている。


 なんかこれを見てると、気持ち悪し、ムカムカしてくる…って、今はそんな場合じゃないか。


「町長、これは町の特産のタトルを入れて作ったフィナンシェというものです」


「ほほぉ~、これにタトルが! どれどれ…ほほぉ~これはなかなか」


 町長は、あっという間に1つ食べ終え、2つ目を手にとり、「これなら、領主様もお気に召すだろう」といいながら食べ出した。そして、誰が作るのか、販売方法やパッケージなどの細かいことは、町内会の会議で決めるといわれ、私たちはそのまま帰宅することになった。


 数日後、クルトとレブロが町内会の集まりに出て行き、しばらくして帰ってくると、バツの悪そうな顔で私を見てくる。


「あのさ、ステラ。悪いんだが火祭りの朝からエルドの町内会の出店を手伝ってくれないかな? うちで作ったものだし、誰か出して欲しいと言われてね…」


「俺たちもこっちの店の準備があるから、手伝えそうにない。朝から頼めないか?」


「……」


 私は返事をせず下を向く。なぜなら火祭りで行われる子供の『エスプロヴェート』に参加したいからだ。


 領土の祭りは、年ごとの持ち回り制になっているので、次にあるのは、おそらく4年後だ。子供たちだけで、太鼓や笛を乗せて、大きな山車を担ぎながら、町を回る。私は周囲で火を配るだけだが、せっかく同い年の子供と仲良くできるチャンスなのに、失いたくない。


 でも、トトルはたった1人の火の精霊役で、私はその他大勢。私が参加しなくてもなんの問題ない。


 …仕方ない。フィナンシェは私が作ったもんね。どの位売れるのかも気になるし!


 「わかった! 私がいくよ」とクルトとレブロに伝え、部屋に戻った。


 …うぅ、私の出会いのチャンスが!

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