第52話 [双子3]この麦茶、甘いね
ざっくり言えば、私の背後には私の双子の兄の彼女がいる。
そして、私はその兄、ミーくんの胸の中にいる。
この状況が不味いのは、赤点ばかりの私でもわかる。
「ねぇ、どうして二人は抱き合ってるの?」
ミーくんの彼女の茉莉花ちゃんが、当然の疑問を投げかける。
可愛い花の名前の女の子。
可愛らしいポニーテールが不安げに揺れる。
厳密に言えば、私が抱きついてるだけで、ミーくんは立ってるだけなんだけど、彼女からしたらどうでもいいよね。
ここで私の悪い癖が出る。
よし、ミーくんに投げちゃおう。
私はニコッと彼女の方を振り返り、ミーくんの隣に並んだ。
説明する気はありませんよという態度。
別に彼女に対する対抗意識とか、嫉妬とかそう言う話ではない。
ただ、この状況でいつもクールなミーくんがどのくらい慌てて弁解するのか見てみたかっただけだ。
私、性格悪いなぁ。
でも、色んなミーくんが見たいんだよなぁ。
ミーくんは一歩茉莉花ちゃんに近づき、あくまでも毅然とした態度で話し合おうとする。
「聞いて、茉莉花。これは俺の双子の妹だよ。前に話しただろ?」
茉莉花ちゃんはもう涙ぐみ始めている。
「何で、双子で抱き合ってるの?」
もっともな疑問だ。
カップラーメンぐらいしか料理出来ない私でもわかる。
私はミーくんの顔をチラリと覗き見る。
あまり表情は変わっていないが、困っているのはわかる。
「虫がいたんだ。それに恵が驚いちゃって抱きついてきたんだ」
ミーくんはここでなんとか言い訳を絞り出した。
なるほど、虫か。
良い言い訳だね。
機転が利いてる。流石ミーくんだ。
しかし、その言葉に茉莉花ちゃんはピシャリと言い放つ。
「いや、言い訳はやめて、始めのほうから見てたよ。普通にハグしてた」
おっと、これは面倒なことになったね。
流石にすぐに誤解も解けるかと思ったけど、これは流石に責任を感じるよ。
ミーくんも流石に困り顔になって、頬をかく。
「一旦落ち着こうか。今、親いないんだ。うち来なよ」
ミーくんは茉莉花ちゃんを家に招く。
パパとママが町内会の温泉旅行に出かけていて本当に良かったね。
二人がリビングで向かいあって座っていた。
「粗茶です」
私は茉莉花ちゃんの前に冷えた麦茶を出したら、二人に軽く睨まれた。
えっ、ふざけたつもりじゃないのに。
「恵、ちょっと自分の部屋に行ってて」
「はーい」
私は素直に従う。
どうやら、私がいても話がこじれると判断したのか、リビングから追い出されてしまった。
それから一時間くらい経っただろうか、最初はリビングの会話を盗み聞きしようと、二階の自室から聞き耳をたてていたが、二人とも思ったより冷静だったみたいで話し声があまり聞こえてこない。
私は途中で飽きてスマホゲームをしていたのだが、リビングのドアが開く音がする。
結構激し目だ。
私は自室からこっそりと顔を出して玄関を覗くと、茉莉花ちゃんが涙ぐんでる。
そして、ミーくんが見送るように立っているが、そちらに顔も合わせない。
そのまま軽くお辞儀をして茉莉花ちゃんは出て行ってしまった。
ひと段落したものだと思い、私は階段を降り、ご機嫌とりにミーくんの肩を揉んだ。
「ミーくんお疲れ様ー、ごめんね、結局どうなったの?」
ミーくんは疲れからか、長めの溜息をつく。
「別れたよ」
それは意外だった。まさか、あれぐらいのことでミーくんを手放すなんて、原因を作っといてなんだけど、勿体無いなぁ。
でも、潔癖な子ってどうしてもいるし、一度けちがつくと面白くなかったのかもしれないな。
私は珍しく真剣な声色で謝る。
「ごめんね、ミーくん」
「反省してね」
流石にもっと怒られるかと思ったけど、ミーくんはそれだけ言ってリビングに戻っていった。
私もそれについていく。
リビングには茉莉花ちゃんに出した麦茶が一度も口をつけた様子がなく置かれていた。
私が言うのもなんだけど、ミーくんはもっと私に厳しくないと駄目だと思う。
私は勿体無いので麦茶に手を伸ばす。
もう麦茶はすっかり温くなって全く冷えていない。
それを私は口に含む。
「甘いなぁ」
「それ、麦茶だよ」
「あはは、そうだった」
ミーくんは私にツッコム。
私は心の中でミーくんにツッコム。
甘いのはミーくんだよ。




