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第46話 ファイナルアンサー

好きな男子が好きな髪型はツインテールだと言っていた。


もう小学校の頃の話だ。


しかし、私はまだ高校生になってもツインテールを続けている。

正直、高校生にもなってツインテールをしているのは少し恥ずかしい。

 どこかでやめなければいけないのはわかっているのだが、未練がましくも今の今まで続けてしまっている。


 いつか、どこかで、もしかしたら、そんな言葉ばかりが頭をよぎり、消えていく。

 

 好きな人と言葉を交わすだけでも心臓の鼓動が早くなる私に勝機なんてない事は頭では分かっている。


 好きなら、好きと言葉にすればいい。

 たった二文字だ。


 でも、その二文字が言えなくて、今日まで苦しんでいる。


 臆病な私の必死のアピール、君は気が付いてくれないよね。


 廊下ですれ違えば、その背中を好きだと言う気持ちを込めた視線を送る。


 席が近くになっただけでも笑顔になる。


 共通の話題があれば、心の中では飛び上がっている。


 でも、気が付いてくれてないよね。

 私の精一杯。

 



 放課後。

 窓の外は、しとしとと雨を降らせ、気分を憂鬱にさせる。


 私は日直と言うこともあり、最後まで教室に残っていた。

 すると、彼が教室に飛び込んできた。


「おぉ、菊池! まだ残ってたんだな」


 彼が私の好きな人。

 その好きな人の快活な笑顔を見るだけで、外は雨だと言うことを忘れさせる。


「うん、今日日直だから、田中君部活は?」


「あっ? 聞いてくれよ、それがさぁ今日雨で部活急に休みになったんだよ! ラッキーだろ?」


「へぇ、室内練習じゃなかったんだ」


 田中君はサッカー部に入っている。

 雨の日は基本的に室内で基礎トレーニングみたいで田中君はあまり好きじゃないみたい。


「そうなんだよ! で、ラッキーと思って帰ろうと思ったら、俺今日傘忘れてたの思い出してさ、教室に折り畳み傘置いてた気がしたんだけどなぁ」


 そう言って、田中君は教室の後ろの自分のロッカーに目を向けるが、どうやら置いてなさそうだ。


「ないみたいだね」


「うーん、どうしよっかなぁ」


 この時、私の心臓は破裂しそうなほど活発に動いていた。

 何故なら、邪な事を考えていたからだ。


 傘がないなら、実は職員室に行けば、他の生徒が置いて行った傘を貸してくれる。


 でも、この様子だと田中君はそれを知らない。


 ここで私が教えてあげれば、喜んで感謝もしてくれるだろう。


 しかし、私は邪な事を考えた。


 私の傘に入ってく?


 この禁断のワード。


 言えるか? 言えるのか、私? 

 

 断られたら、今週はへこみっぱなしになるぞ。


 言えるのか?


 私が心臓をバクバクにさせながら、自問自答していると田中君が名案を思い付いたようで、声をあげる。


「あっ、そうか! 菊池、お前今日傘持ってきてるよな?」


「う、うん。あるよ」


 なんだろう、その質問は。

 私の思い違いでなければ、その続きは私の理想とする答えのはずだが。


「お前、家近いし、傘に入れてくんない? 日直も手伝うからさ」


 田中君は両手を合わせ、頭を下げた。

 頭を下げてお願いしたいのは私なのだが、なんなら土下座してでも頼みたいのだが。


 私は冷静にこの奇跡的な奇跡に感謝し、二つ返事でオッケーした。


「う、うん、いいよそれくらい」


 私にとってはそれくらいどころが、天地を揺るがす事態だが。


「それに日直の仕事ももう終わってるし、帰ろっか」


 素早く終わらせていた十五分前の私に感謝した。




 私の傘はあまり大きいものではなかったので、二人の肩がピタリとくっつく形になった。


 私はこの傘を買ってきた母に感謝した。


 雨はしとしとと降っているが、先ほどと比べると少し弱くなってきたように思われる。

 私は後十分だけもってくれと空を睨みつつ、傘の中の幸せを噛みしめた。


 しかし、幸せを満喫し過ぎて無言になってしまうのもいけないなと思っていると、丁度いいタイミングで田中君が話しかけてくれた。


「そう言えば、菊池って小学校の頃からずっと同じ髪型だよな、どうして?」


「えっ、だってー」


私はその出し掛けた言葉を息と一緒に飲みこんだ。


だって田中君の好きな髪型だって言ってたから


その答えは実質告白ではないか?


そもそも、そんな小学校時代のことをずっと覚えているなんて気持ち悪いと思われないか?


私は答えを迷っていると田中君が緊張した面持ちで、私の方を見ずに声を発した。


「おっ、俺さ、菊池はどんな髪型も似合うと思うよ!」


私の小さな脳みそは必死にその言葉を処理してみた。


「……それって 、ツインテールやめろって事?」


「いや、なんでそうなんの!」


「いや、遠回しにツインテールやめろって言われてるのかと」


田中君はぎゅーっと口を一の字に結ぶと、覚悟を決めたように大きく口を開いた。


「だから!お前は可愛いって言ってんの! 俺と付き合って下さい!」


私たちは狭い傘の中で瞬きも忘れ見つめ合った。

 

「……何か明日の髪型リクエストありますか?」


「……ツインテールで」

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