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スキルダイバー~追放された深淵の鑑定士は最強レギオンを作り上げる~  作者: 国木田。
動乱のレッドアイズ

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第64話:追放された上位鑑定士

大迷宮『黄昏の巨石回廊』の第4層を踏破し、地上へ凱旋した俺たち。

待っていたのは、王都の群衆の割れんばかりの歓声だった。


「おおおっ! 戻られたぞ! 大迷宮の生存者たちだ!」

「騎士団や貴族様方を率いて、悪魔の結界を打ち破ったのは『レッドアイズ』らしいぞ!」

「おい見ろ! 白銀の聖剣のジュリアス様が、平民クランに頭を下げているぞ!?」


 昇降口の広場では、ジュリアスが深々と頭を下げていた。


「……ギルド長、騎士団長。今回の事態を収拾し、全軍を壊滅の危機から救ったのは、レッドアイズと指揮官マルク殿です」


「彼らの知略と武勇がなければ、我らは全員あの迷宮の底で骨を晒していました」


 名門貴族の体面をかなぐり捨て、真実の功績を堂々と証言するジュリアス。


 一方、味方を盾にして逃亡を図った元専属鑑定士のネロは、騎士団にその場で拘束されていた。


「離しなさいよ! ボクは国家公認の上位鑑定士なんだよ! あんな化け物から逃げて何が悪いんだよぉぉっ!」


「見苦しいぞ。専属契約解除、国家鑑定士資格の剥奪、ギルドからの永久追放は決定事項だ。連れて行け」


「嘘よ……! 嘘よ嘘よ嘘よぉぉぉっ!!」


 喚き散らしながら引きずられていくネロを、俺とセリアは冷たく見送った。


◇


 地上の歓喜とは対照的に、迷宮の暗渠の底には腐敗臭と冷気が淀んでいた。


「大司教様、『巨石の広間』の実験部隊より、緊急の報告が入りました!」


 黒い儀式装束の男が祭壇の前へ滑り込み、濡れた石畳に額を擦り付けた。壇上に立つ男――狂信結社『原初の使徒』の大司教バロンは、静かに袖を払った。


「分かっている。……まさか、あれほど死傷者を少なく抑え込まれるとはな」


「は、はい……! 本来ならば、騎士団や各クランを一人残らず檻に閉じ込め、魂を吸い尽くすはずでしたのに……!」


「まあよい。迷宮の演習など、我らには序章にすぎん。本当の仕掛けはここからだ」


 バロンが低く喉を鳴らして笑うと、背後の暗闇から不気味な脈動音が響いた。ドクン、ドクンと鼓動を刻むのは、地上から吸い上げた地脈の力を蓄えた巨大な魔力核だった。


 紫黒の核が拍動するたび、熱気と焦げた鉄のような異臭が漂い出す。


「この王都レ・ルミナス全体が、我が主『V.O.L.P.S』様の贄となる日が楽しみだな」


「ははっ! 主の復活こそ、我ら同胞の悲願にございます!」


 狂気を含んだ礼拝の言葉を聞きながら、大司教は祭壇の水晶板へ視線を落とした。映し出されているのは、中ボス部屋で記録された戦闘の記憶影だった。


「……しかし、解せぬな。不可解なのは、あの平民クランを率いていた男だ」


「あの、教会のしがない下級鑑定士ですか?」


「そうだ。あの男が肩に触れた瞬間、黒装束の娘の身のこなしと魔力の巡りが跳ね上がった」


「エンシェント・ゴーレムの装甲を易々と貫くなど、並の速度ではない」


 大司教は顎をなで、冷徹な目を細めた。


「それだけではない。男が陣頭に立って以降、烏合の衆の能力が一律で引き上げられていた」


「傷の手当ても陣形の立て直しも、異常な手際だ」


 この世界で、他者の能力を引き上げるスキルは珍しくない。しかし通常は、個別の肉体強化や属性補助にとどまる。男が見せた全体への干渉は、人智を超えた領域だった。


「潜在する力を無理やり引き出すあの手管……まるで、我が教団の『あやつ』と瓜二つではないか」


「な……!? ま、まさか……『あの方』と同じ技を操る者が、教会の末端に紛れ込んでいると!?」


 平伏していた部下が、息を呑んで顔を上げた。教団の『研究者』が実験の果てに生み出した、魂を歪めて限界を突破させる秘術。それと酷似した現象を、名もなき平民鑑定士が平然と使いこなしていた。背筋の凍る事実だった。


「ふむ……真偽はいずれ確かめればよい。それと、あの広間で資格取り消しを言い渡された鑑定士の女がいただろう」


「は、はい。味方を盾にして逃げ惑い、拘束されたネロという女にございますね」


「そうだ。頃合いを見て、あの女に接触しろ」


「あの女に、でございますか?」


 訝しむ部下に、バロンは薄く笑いかけた。


「誇りをへし折られ、復讐の念に憑りつかれた者ほど扱いやすい手駒はない。誘い水を向ければ、容易にこちらへ転がり込んでくるさ」


「御意にございます。速やかに手配いたします」


 部下は一礼し、湿った影の中へ溶け込むように姿を消した。一人残された大司教は、水晶板に映るセリアとマルクの姿を冷淡に見つめた。


「今度は手を抜かん。こちらも最大戦力で迎え撃とうではないか、レッドアイズ諸君」


 その独り言に応じるように、背後の闇の奥から重い足音が響いた。濡れた石畳を踏みしめる、乾いた爪の音。ゆらりと立ち上がったのは、洗練された人型シルエットのキメラだった。


 人造の肉体から漏れ出る濃密な殺気。濁った赤い光を宿す双眸が、整然と闇の中に並び立つ。


「ふふふ……ふはははは」


 低い哄笑が、王都の地下の闇へ重く吸い込まれていった。

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