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バイトの時間なのでお先に失礼します! ~普通科と特進科の相互理解~  作者: スズキアカネ
普通科の彼女と特進科の彼。

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第11話 明太フランス焼きたてでーす!


 美しい絵画や芸術品を見た後は、美しい庭園の片隅で優雅にお食事。

 はぁ、穏やかだ。欠点があるとすれば、お昼寝場所がないってこと。…一人でバスに戻って昼寝してもいいけど、たまにはこうして外でのんびりするのも悪くない…


「よっ」


 明太フランスをガリゴリしながら心地よい風を受け入れていると、爽やかに声をかけてきたイケメンがいた。


「…悠木君、ひとりで何してるの? ぼっち飯?」

「人のこと言えねぇだろ。お前こそ友達いないのかよ」

「失礼な。仲間はずれじゃなくて、リラックスしたいからお昼は個別行動とってるだけ」


 女の子っておしゃべり大好きじゃない。それに合わせるのが疲れるのだ。

 前提として私も友達とのおしゃべりは嫌いじゃないけど、バイトの疲れをお昼寝して解消したい私には少しばかり苦痛なのだ。あっちも気を使うし、それなら別々に過ごそうって形で落ち着いているのだ。

 友達もそれを理解してくれている。私は決して仲間外れされているわけじゃないんだぞ。


「ふーん?」


 私の話を聞いてないのか、悠木君は私の隣に座ってきた。私のリラックスタイムを邪魔するつもりらしい。悠木君はコンビニ袋からおにぎりとお茶を取り出してそれを食べ始めた。

 …やっぱり悠木君、ボッチだったんじゃないのか。寂しくなって私のところに来ちゃったのか……


「今日この後、博物館にもいくんだよな。お前レポートの題材決めた?」

「さっき見た絵画について書こうと思う。作家のこととか時代背景を交えたら文字数稼ぎできそうだし」

「なるほど。じゃあ俺もそうしよう」


 今日は1年生全体で芸術鑑賞会という名の遠足行事にやってきた。行き先は美術館と博物館だ。ただ芸術作品を見て綺麗だと感動するだけじゃなく、後日レポートを提出しなきゃいけない流れである。

 芸術に感動して終わる行事なら良かったのに。なんでレポートを書かなきゃならんのか。


「それどこのパン屋の?」


 悠木君の視線が私の膝の上に乗ったパン屋のショップ袋に注がれた。


「これはうちの近くのパン屋さん。バイト先なんだ」

「出た。新たな掛け持ち先」


 なんだ、なにか文句あるのかとジロリ視線を向けると、悠木君は楽しそうに笑っていた。

 何がそんなに楽しいのだろう。


「…ていうか、そっちはおにぎり2個で足りるの?」


 それはともかく悠木君は少食すぎないか。まさかダイエット中なわけないよね。最近のコンビニおにぎり、ダイエット中の女性に嬉しい量になってるから、育ち盛りの男子高生には物足りないと思う。


「この近くのコンビニ、うちの学校の生徒が殺到して売り切れ続出だったんだよ」


 昼食向きの食べ物がそれしか残ってなかったと彼は言う。

 パリパリといい音を立てながらおにぎりを食べる悠木君。今朝はマンションのコンビニで買わなかったんだね。


「仕方ないな。バイト先でもらったパン、分けてあげる」


 私はパン屋の袋を開けて、ビニール袋に包まれたパンの数々を見せびらかす。


「じゃあこれ…」

「カレーパンは駄目。私の。これならいいよ」

「選択肢ねぇのかよ」


 元は私の血となり肉となる予定の食べ物だったんだぞ。決定権は私にある。

 私は問答無用で悠木君の手のひらにパンヒーローの絵が描かれたチョコパンを載せてやった。悠木君はそれをまじまじ見つめ、そしてこちらに視線を向けた。


「…ずっと思ってたけど、なんでそんなに金稼ぐんだよ」


 悠木君の質問に私は肩をすくめる。

 そんなの、悠木君に関係ないだろう。


「いいじゃん別に」

「働き詰めだといつか体壊すぞ?」


 ご心配はありがたいが、私は訳もなく働いているわけじゃない。


「これは私が飾り付けしたよ」


 私は別に悪いことをしているわけでもない。説教みたいなことされたくないので、話をそらした。

 チョコパンを指差して顔デコをしたのだと胸を張ると、悠木君はキョトンとし、そしてふっと小さく笑った。

 おぉ、また悠木君が笑ったぞ。女子が見たら喜びそうな笑顔だ。


「ちょっとね、アニメの顔と違うのはご愛嬌なんだけど。初めて顔デコ書かせてもらったから」


 味は変わらないから問題ないさ。

 口元をほころばせたままチョコパンをまじまじ見てまたふふふと笑い声を漏らしている。


「どうした、クリームパンのが良かった?」

「いいよこれで」


 おにぎりを食べ終えた悠木君はチョコパンを袋から取り出し、まふっとかぶりついていた。お顔に対する罪悪感とか何もなく、食べたぞこいつ。

 ……なぜ私はイケメンとお昼を一緒に食べてるんだろう。特進科には一緒にご飯を食べてくれる友達いないの? もしかしてハブられてるの?

 私は本命のカレーパンをぱくりと頬張りながら、ふと思った。


「ていうか彼女はいいの?」


 私と一緒にいたら誤解を招くぞ。悠木君、桐生さん、眼鏡の三角関係が四角関係になって、生徒会役選のときみたいに事実無根な噂を広められちゃうぞ。

 それに彼女に誤解されたら悠木君が一番不利なのでは?


「彼女?」


 しかし悠木君の反応は微妙であった。

 怪訝な顔でこっちを見て首を傾げているではないか。

 ……おいおい、無意識なの? そんなんじゃあの眼鏡に彼女をとられてしまうぞ。


「ほら、いつも一緒にいる…」


 別にどっちかを応援しているわけじゃない。他人の恋愛事とか死ぬほどどうでもいい。

 でも悠木君は彼女のことをとても信頼しているようだし、美男美女でとてもお似合いだ。いっそ悠木君と彼女がくっついちゃえばいいんじゃないかなとは思ってる。


「夏生」


 その声を耳にした私は脊髄反射を起こした。


「礼奈。どした?」


 噂をすれば影だ。

 悠木君の視線が“彼女”に向かったその隙に荷物やその他諸々を手に掴むと、私はその場からシュバッと姿を消した。


 逃げたのではない。空気を読んであげたのである。

 私は光になった。光の速さは秒速29万9792.458kmにもなる。 これは1秒間に地球を7周半もできる速さなのだ。

 まばゆき光の速さでその場を去ると、自分のクラスの観光バスに潜り込んで、座席で食べかけのカレーパンを食したのである。美味しかった。




 休憩時間が終わり、点呼の合図が終わるとバスで移動開始した。次に向かったのは博物館である。

 施設へはクラスごとに入場して観覧しているが、生徒みんな途中から自由に動き回るようになった。美術館でもそうだったので先生たちは「一般の人の迷惑にならないように」と注意するだけにとどまった。


 常時展示室には小学生の時に遠足で来たときと同じものが変わらずそこに展示されていた。特別展示室では期間限定古代エジプト展が開かれているとかで、皆がそちらへ殺到していた。

 人混みは疲れるので、私は比較的人が空いていた別の特別展示室に足を踏み入れた。そこには奈良時代やら飛鳥時代の輸入品や工芸品が飾られていた。展示ケース前にあるボタンを押すと音声案内が聞こえる。

 自動音声を聞きながらぼーっとしていると、ぽん、と後ろから肩を叩かれた。

 振り返るとそこには悠木君。


「お前どこ消えたんだよ心配するだろ」

「……いや、私と君はクラスが違うので」


 別行動になるのは致し方ないかと思いますが……バスも違うし、団体行動のときも違うし。

 誰かと間違って声をかけているのだろうか…と不思議に思っていると「違う、昼飯の時消えただろ」と返される。

 あ、あー…あの時ね、忘れてたよ。

 2人きりにしてあげようと気を使いました。とか言ったら悠木君、気にするかな。そう言うのでプライド傷つく人だったら面倒だし……


「ごめん、お腹ぴーぴーなっちゃって」


 突然の腹痛に襲われてトイレに駆け込んでいたというと、悠木君は変な顔をしていた。


「…女がそういう事言うなよ」


 えぇ…腹痛なんて誰にでも起こりうるここだぞ。体調不良を隠しておけなんてそんなひどいこと言うなよ…私のは嘘だけど。


「生理現象だぞ、何を言うんだ」


 そう言って私はハッとした。

 あ、そうだ悠木君のそばにはファンタジーな存在の美女(桐生礼奈)がいるんだ。その上悠木君はお金持ちの家の子どもだ。彼の周りにいる女性はきっとファンタジーでファンシーな存在なんだ。

 もしかしたら女子はトイレには行かないと信じている残念な思考回路なのかもしれない。


 可哀想に、現実を知らないまま高校生になってしまったんだね……


 私は目の前にいるイケメンを見て、ついつい哀れんでしまった。悠木君はその視線に気づいて眉をひそめている。私の視線の理由に気づいていないのね…

 夢から目覚めさせるのは可哀想だけど、恥をかく前に現実を見たほうがいい。


「あのね、女も生き物だから出すものは出すの。まさかあんた……女は排泄しないとかそんなファンタジーなこと考えてないよね…?」

「なわけねーだろ。バカにしてんのか」


 悠木君は気分を害してしまったようだ。

 違うのか。ならばあれか。女性にはおしとやかで綺麗な言葉を使ってほしい主義みたいな。


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