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バイトの時間なのでお先に失礼します! ~普通科と特進科の相互理解~  作者: スズキアカネ
普通科の彼女と特進科の彼。

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第10話 みかんの袋詰めタイムセール中です!


「それと、気になっていたんだけど……悠木君が女100人斬りやってたらなんなの? 自分たちに危害が加わったわけでもないじゃん」


 悠木君を陥れようとしていた主犯の育田さんに問いかけると、相手はこちらを憎々しげに睨みつけてきた。

 反省の色があるなら、ここで謝罪しちゃえば風向きも少しは収まるだろうに。駄目だねぇ。


「学校中の人みんな納得してそうじゃない? むしろ悠木夏生100人斬り伝説化しそう。全然弱みにならんでしょ?」


 私が両手上げてみんなを納得させようとしたのだが、後ろからガッと肩を掴まれた。


「ねーよ! お前は俺をなんだと思ってんだ!」


 それは誰かって悠木君である。さっきまで壇上の上で青ざめて震えていたのにもう元気になったらしい。


「だって海の家前でも女引っ掛けてたじゃん。私はいまさら驚かないよ? 悠木君がジゴロだと言われたら素直に納得するよ」


 ちなみにジゴロってのはフランス語でヒモ男って感じの意味ね。


「ちげーよ! あれはあっちが勝手に寄ってくるんだっつの! 俺は迷惑がってただろ! 人聞きの悪いこと言うな!」


 そうだったっけ? 私はたこ焼きと猛暑の思い出が色濃くて悠木君がどんなリアクション取っていたか覚えてないなぁ……まぁいいか。

 気を取り直して私は一旦ノートパソコンのもとに戻ると、他のページを開く。パッとスクリーンに映し出されたのは、私のバイト先であるコンビニが映る写真だ。それはコンビニ店舗SNSアカウントに載っている画像で、写真の中にコンビニの一部と手作りで書かれたキャンペーンポスターが映っている。


「これはコンビニのキャンペーン周知ポスターです。うちのバイト先のコンビニにしかない、世界で唯一つの手作りポスターなのです」


 学校SNSの写真を見ていて、見覚えあるんだよなぁと首を捻っていたんだよ。

 そんでバイト先に出勤して納得した。美大に通う先輩の手作りポスターだってね。


「…学校SNSに拡散されていた悠木君の女遊び写真ですが……これ、見てください。ポスターが完全一致しているでしょう」


 私はぐるりと周りを見渡す。

 周りは、だからなんだ。と言いたそうな顔をしていたので、私はふふんと鼻を鳴らす。


「ここ、悠木君が住まうマンションの下のテナントに入っているコンビニなんです。すなわち、悠木君はマンションの下で女の子たちに群がられているところを撮影されたのです。…なぜ住所を知っていたか? …学校のデータベースに入れる人物が、悪意を持って拡散したからでしょう。こんな綺麗に、悠木君の顔が映るように撮影して悪意を感じますよね」


 学校の外で撮影された写真もあったけど、そのどれも待ち伏せ、もしくは追いかけられたりして捕まった瞬間を盗み撮りされたのだろう。

 きっとそうだ、そうに違いない!


「ちょっと待て、森宮さん」


 私が見事な推理をしてみせると、生徒会長が待ったをかけてきた。

 おい、せっかく人がいい気持ちで喋っていたのに何だ。


「君は一体いくつものバイトを掛け持ちしてるんだ?」


 ……それは今聞くべきことか? 重要ではない。論点をすり替えようとするな。


「私のバイトの掛け持ち数は個人情報なのでお答えできません。それと、私はたまたま悠木君のマンションを知っていますが、それは本人も認識してます」


 私はストーカーじゃないですよ、悠木君につきまとったことないし。


「…思ってたけど、お前こそなんでこんな音声撮ってんの? 盗撮盗聴は犯罪だろ」


 助けてやってるのに、悠木君に突っ込まれた。何だその口の聞き方は。

 あっちも同じようなことを人を傷つけるためにしてるんだからお互い様でいいじゃんよ。私は人助けのために動いてやってるんだ。細かいこと突っ込むんじゃないよ。


「接客バイトしてると困ったクレーマーがいるから、勤務時間中は証拠のために全部録音するようにしてるんだ」


 毎回何かしらレコーダーをセットして働いているのだ。

 これは身を守る手段なのである。


「今回役に立ったからいいでしょ?」


 私が親指を立ててニカッと爽やかに笑うと、悠木君は「お前を敵に回したくない…」とつぶやき、そっと目をそらしていた。

 

 違うでしょ、そこは「助けてくれてありがとう…!」と尊敬の眼差しを向けるところでしょうが!



□■□



 生徒会書記立候補した須和さんの目的は自分が当選するためにライバルを蹴落とすこと。

 なぜそこまでするのかといえば、生徒会活動の実績を作れば、内申点にプラスになるから。

 そして共犯であり主犯である育田さんは以前悠木君に振られたことのある人だったらしい。その恨みでを晴らすべく、嫌がらせで犯行に及んだそうだ。

 個人的な恨みの発散が目的で、彼女は悠木君だけを標的にした。


 最初に現職の生徒会役員である須和さんの権限を使って悠木君の住所を学校のデータベースから盗み取る。女遊びが激しい男であるという噂をあちこちでささやき、その上で悠木君の行動範囲や住所をばらまいた。

 遊ばれてもいい、自分が彼を目覚めさせてみせるというチャレンジャーな女子学生だけが悠木君につきまとうようになり、それがあちこちで目撃される。

 そして極めつけに、悠木君があたかも女をたくさん引き連れているシーンを何枚も撮影したのだという。

 家の前で待ち伏せすれば、絶対に遭遇するだろうから。悠木君を狙う女子生徒にけしかけ、証拠写真を撮影したら学校SNSに流す。一回流せば、他の人間が面白がって広めた。


 そして悠木君は濡れ衣を着せられ、白い目で見られるようになった。…というわけらしい。

 同じく生徒会推薦された桐生さんや眼鏡はちょっとした嫌がらせや、事実無根な噂が流れた程度で、悠木君ほどひどい状況にはならなかったとか。


 一人辞退者が出た選挙戦。学校の人達の見る目が変わった最終演説。

 気分を持ち直して演説をする悠木君は緊張している様子だったが、生徒から向けられる視線が同情の眼差しばかりだったので、今度はスラスラと演説できているようだった。

 なかなかいい決意表明だったと思う。





 今回のことで、個人情報の取り扱いの問題が浮上したため、それを取り扱う権限を持つ人間への研修が行われたり、専門の業者を呼んで、学校のデータベースの検索履歴を明確化したり、これまでよりも厳しく管理を厳重にし、暗号化させるという対策を練ることになったという。

 悠木君はといえば、女子生徒に付きまとわれるのは相変わらずで……それなのに自分の身は自分で守るようにと言われて、ちょっと可哀想だった。


 そして、こんな事件を起こしたふたりとも無傷とは行かない。

 須和さんは立候補を辞退。

 育田さんは自主的に自宅謹慎していたという。

 学校側からは厳重注意。保護者にも注意が行った。多分内申にも響くことであろう。今回は注意で済んだが、一気に立場が危うくなったのは間違いない。


「…そうなんですか。あの人たち神経図太そうだから自分から退学するとかそういうことはなさそうですよね」


 生徒会役選騒動の後日談みたいな話を聞かされるために生徒会室に呼び出されていた私は出されたコーヒーを飲み込んだ。


「…見事な弁護だったよ。あっという間に注目を引き寄せて、証拠を提示してみせた。君のそういう行動力を買っていたから生徒会に推薦したかったんだが」

「嫌どす、無賃労働はゴメンどす」


 そろそろ引退の時期なのだが、引き継ぎのために生徒会室に通っている前生徒会長は、クールでドライだと言われる塩顔フェイスを少し綻ばせていた。

 私が机の上のお茶菓子をガサガサ選んでいると、生徒会室の引き戸が音を立てて開かれた。


「あ、珍しいお客さん」


 その声に顔を上げると、学校一の美女と名高い桐生さんのご尊顔があった。

 普通そういう反応になるよね、生徒会役員じゃない人間が前生徒会長と茶をしばいているのだもの。


「…あれ、森宮なんでいるの?」

「あ。ホントだ」


 悠木君と眼鏡も同伴である。この3人は仲がいいなぁ。

 今日はバイト遅めスタートだからと前生徒会長の呼び出しに応じたが、夕課外が終わった彼らがやってきたということは、そろそろ学校を出なくてはならない。


「じゃあ、私はそろそろ御暇しますね」


 手にとったお茶菓子をカゴの中に戻すと、足元においていたリュックサックに手を突っ込んだ。


「はい、貰い物だけど早生みかんあげる」


 バイト先のおばちゃんからまた貰ったんだ。新生徒会役員になった彼らの手に乗っけると、私はリュックを背負った。


「清き一票入れといたからね。頑張れ!」


 彼らにサムズ・アップしてみせると、私は開きっぱなしの引き戸から退室する。


「じゃあ私バイトだからーお先に失礼ー!」


 せいぜい君たちは無賃労働に励み給え。私は銭を稼ぐけどね。 


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