89.ママルとメイリー
ママル達は夕過ぎくらいに撤収して、途中夕食をとった後に宿へと戻って来ていた。
海水でベタつく体を風呂で流して、後は寝るだけと言った所だが、
ママルには引っかかる点があった。
(なんか、メイリーさん海の後からちょっと元気ないんだよな…。最初は疲れてるだけかと思ってたけど…)
不満を抱えたまま、会話不足が原因で、パーティー内でゴタゴタが起こるなんてのは真っ平ごめんだ。そんな馬鹿々々しい事態にしたくはない。
少なくとも仲間内では、話していたら済んだのに、と言う事態はいくらでも起こり得るからこそ、絶対起こらないようにしたい。もし何かあるのなら、予め聞いておかないと。
「あの、メイリーさん?」
「ん?なあに?」
「いや、その、なんか元気ないね?」
「……そ……そんな事、ないわよ………?」
「えっと、やっぱあのナンパ野郎嫌だったとか?」
「うぅ~ん…。そうではないのだけれど、そうかも……」
「えぇっと……?」
「あのね。ディーファンでの事、思い出しちゃって」
「あぁ……」
「私の顔の傷痕。やっぱり気になるかしら……」
「えっ…、いや、そんな気にならないよ。てか実際、その上でナンパされてたワケだし…」
「いえ、その、見た目もそうなんだけれど、これって、私がモンスターだった事の証のように思えて…」
メイリーは、自分の傷痕を指でなぞりながら話す。
「あぁ、なるほど……」
「皆は、私と居るの、その………………やっぱり!なんでもないわ!」
メイリーはベッドに横になり、ママルに背を向けた。
(?……。もしかして、自分と居るの嫌じゃないかって気になってる感じか?
だとしたら、流石に解り易いと言うか…。
……メイリーさん、なんかやけに謝るし、たまに不安そうにしてるんだよな…)
「えぇっと…。そういえば、メイリーさんにはまだ話してなかったなぁ」
「!!……っ。なっ、何の事、…かしら……」
(何かビビってるな……)
「…俺、別の世界から来たんだよね」
「…………え?」
「それで1人で何日も森の中を彷徨ってさ、シイズって村に行って、
そこでユリちゃんと会ったんだけど、ユリちゃん、神様の言葉を話せてさ」
「ええ?!!」
メイリーは起き上がり、お互い自分のベッドに腰掛けながら、
ママルはこれまでの話を、出来るだけ軽いノリで話した。
「で、つまりさ、俺は1人ぼっちになったけど、今はそうじゃないよって事。ユリちゃんもテフラさんも、ある意味似たようなもんで、メイリーさんだって一緒だよ」
「ぅぅ……。でも…、私は……、じゃあ、私の話を、聞いてくれる?」
「うん。勿論」
メイリーはママルに、モンスター化前後にあった出来事を、神妙な面持ちで話した。
「だからね、私はやっぱり、皆より悪い人なのよ。パパもママも、お友達も殺してしまったんだもの…」
(モンスターでもターゲットは選べるハズ…。父親の件は変質直後の狂乱状態っぽいけど…、母親と友達は、そもそもある程度の敵意を持ってた、と言うか、
少なくとも好意は持っていなかったんじゃないか…?
いや、でも、こんな事は伝えたくないな。えぇと)
「ごめんね…。だから、もし、嫌だなあって、思ったら…」
「結局、魔法薬を撒いてた奴が悪いだけじゃん?モンスター化した人を殺すのなんか、俺の方が沢山やってるよ。メイリーさんが悪人なら、俺は極悪人だ。
まぁ、実際俺も、自分の事を善人だなんて思ってないけどさ」
「……どうして。そんなに優しくしてくれるの?」
「えっ…?いや、優しくはないと思うけど…、そうだな…。気持ちが解るからかなぁ。それこそテフラさんも、メイリーさんを見て、私がこうなってたかもしれないって言ってたよ」
「っ………ぅぅ…………」
「あ、そうだ、だからさ、なんかよく謝ってる印象あるけど、言わなくて良いよ。
別にちょっとした事で、嫌いになるとか、見捨てるみたいなのも無いし」
「うええぇぇん……!だっでぇ……!!」
(!!な、泣いた…。いや、俺が泣かせたのか?!)
「だって!!…わっ、私!いっつも!皆っ!アーちゃんも!スッ、スーちゃんも!サム君も!ママだってぇ!皆いっづも、ふっ、ふえっ!…いなくなっちゃう!ああ゛ぁぁ~~ん!!」
(アーちゃん達は誰…。いや、昔の友達かな、てか、ガチ泣きじゃん……)
ママルは以前の記憶にならって、両手でメイリーの手を握る。
「えっと、その、まぁ、大丈夫だからさ…」
するとメイリーは一層泣き始め、しゃくりまで上げ始める。
そんな姿を、ママルは暫く黙って見守った。
――
「ほら、涙拭いて、鼻かんで」
そう言いながらティッシュを手渡す。
ちなみにこの世界でのティッシュは、かなりゴワゴワしていて、
前世の物のような、ある種の万能感はない。
「グスッ…。うん…。えへへ…」
落ち着いたメイリーを見ると、ママルは部屋の明かりを消してベッドに横になった。
「じゃ、寝よ。おやすみ」
「うん…………、おやすみなさい。……ありがとぉ」
(ふぅ……流石に焦ったけど、なんとか良い感じに落ち着いたな……。
しかしアレだな。やっぱ変わった子だな、それであんまり人に恵まれなかったのかな………見た目は完全に大人なのに、精神は子供みたいだ。
それこそユリちゃんなんか、見た目は子供だけど、大人っぽい一面もある。
精神が肉体を作るって話と、完全に真逆だ。
………神様が言う、肉体を作るって、やっぱ別に体つきの話じゃないんだな。
脳がどうとか、現象がどうとか言ってた気がするしなぁ…。
精神が望む現象……。モンスターや、スキルだとか、クラスだとかの話って感じか)
暗闇の中、ママルはいつものように1人で色々考えていると、
またメイリーに話しかけられた。
「マ、ママルちゃん…」
「ん?」
「ぃ、一緒に寝ても良い…?」
「え゛っ!…いや、その……、それは、あんまり良くない…かも」
「ぅっ……ゃ、やっぱり………」
また泣き出しそうなメイリーの声色に、ママルは焦って答える。
「あ~~!いや、違くて!ほら、言ったじゃん!!俺前世では男だったし!」
「…それだとどうして駄目なの?」
「…え?」
「昔は、パパとも一緒に寝てたわ?」
「ま、まぁ、それはほら、違うって言うか」
「……ぅぅ………」
オメーがエロい体してっからだよ!!!!
などとは口が裂けても言える訳はない。
実際、性的魅力を感じた所でどうするという訳でもないし、
そもそもメイリーの人柄的に、ママル自身がそう言う気分になっている訳では無いのだが…。
(変な目で見られたとしても、そう言うのは気にしないのか?
結構、なんと言うか、人の目に敏感な印象あるんだけど……)
「…………じゃぁ、まぁ、良いよ…」
「ほ、ホント?」
「本当……」
「えへへ、やったっ」
メイリーはママルのベッドに入り込むと、幸せそうに眠りについた。
一方ママルはと言うと、あまり深い眠りにつけなかった。




