88.海
「とりあえず、ローゼッタさんの家の場所は聞けたよ」
「まぁ、流石に有名ではあるか」
「早速向かいますか?」
「うぅ~~~ん。考えてたんだけど、家の場所が伝わる事くらい、予想できたと思うんだよね」
「まぁ、確かにそうだろうな。何より当人なのだし」
「その上で、手紙で伝える事を望んでた。って考えると、あんまりこっちから動かない方が良いかもしれないなぁって」
「確かに、そうかもしれませんね」
「そもそも、わしらのような戦力を集めている事は、内密に行っている様だったしのう」
「…では一旦、手紙の通り待機ですかね」
「そうなるのう」
「わ、私はどうしたらいいのかしら?なんだか、緊張するわ…」
「とりあえず今は何もしなくて大丈夫だよ、心配しないで」
「だな。では一旦……、どうしようかの」
時間で言えば昼過ぎくらいだ。買い食いで昼食としては十分食べたが、流石にまだ寝るには早い。
「ぁ…あの、私、海を見に行ってみたいわ」
「お、いいね。行こう」
「うぅむ…。ちょいと呑気している感じもあるが、まぁよいか」
「ローゼッタさんの手紙にも書いてありましたし、楽しんでみましょう」
一行は王都内を更に北を目指して歩いた。
城を通り過ぎ暫く歩くと、案内板等が見えて来る。
観光スポットとして使われているのだろうか、また露店等が増えて来た。
「海が見えてきましたね、なんだか懐かしいです」
「わぁ!凄い!おっきいわね!!!」
「なんと広い!!そしてあれが水平線と言う物か!!」
「おー、海水が綺麗だな」
4人は足早に海岸へと向かう。
「…なんとも…雄大な…」
「あっちで水着のレンタルがあるみたいよ?!行きましょう!」
「う、海に入るんですか?私は入ったことはないんですが…」
「水着?辺りの者達が着とる様な奴か?」
(……………………………………………………。
皆の水着姿を見ることは、当然やぶさかではない。だが。それ以上に、
自分が女物の水着を着るという事に、なんか抵抗がある………。
スカートとかはなんか行けたけど、この差はなんなんだろうな…。
ってか、水着とかこの世界にもあるんだな…。
まぁ、俺はやめとこうかな…。そもそも、皆が着替える中に参加するわけには行かないしな)
「?どうしたママル。来んのか?」
「あ、あぁ、俺の装備は濡れてもすぐ戻せるし、良いよ」
「そう言えばそうだったの。羨ましい限りだで」
「ママルちゃん、ちょっと待っててね?」
「行って来ます。…海に入るのって、結構怖くないですか?大丈夫なんですか?」
ママルは1人周囲を見渡す。
テフラがさっき言っていたからと言う訳ではないが、
潮の匂いがなんとも懐かしい感じがする。
海水も砂浜も美しく、波は穏やかで、音は心地良く、
だが改めて聞くと記憶よりも意外とうるさい。
男も女も、皆水着を着ている。
友達や家族、カップルではしゃぐ姿が見える。
(やっぱなんか平和で、楽しそうだな…。
あれ。こ、この状況で、普通の服で海に入るの、逆におかしいよな…?
な、なんか丁度いいのあったっけかな……)
勿論、海に入らなければ良いだけなのだが、
3人が楽しく遊んでいる姿と、それを1人眺める自分を想像して、
必死にアイテム袋に手を突っ込んで、手持ちの装備を物色し始めた。
(うぅ~ん………)
悩んだ末、結局随分昔の夏のイベントで貰った、ダサい水着に着替えたのだった。
(あの課金衣装、買っとけば良かったな……)
装備品はインベントリとは関係なく保存されているため、アドルミアで入手したほぼ全ての装備品が袋の中に眠っている。
とは言え、取り出して手に持つ事は不可能なので、宝の持ち腐れなのだが。
「なんだ、結局似たようなものを着とるではないか」
「ま、まぁね」
(………………。ワンピ、タンキニ、三角。か。結構種類があるんだな………)
などと、少しキモい水着分析と自然な疑問を抱いていると、また新たな疑問が湧く。
(アイテム袋、水に沈めて大丈夫なんかな。まぁ、中に物は入らないし、平気か)
「何をブツブツ言っとるんだ」
「えっ、声漏れてた?」
「皆!早く~!こっちよ~!」
「泳いでる人がいますね、私もああいった技を身につけたいです」
メイリーも海は初めてだと言うのに、物怖じせずに飛び込んで行く。
割と適当な犬かきといった動きだが、高レベルらしいパワーでなんとかなっている様だ。
他の3人は浜辺で波に触れるくらいの所で立ってみる。
「この波に足元をすくわれる感じも懐かしいな…」
「うおっ…なんとも、不思議な感覚だ」
「なんか、バランス感覚が…、変になりますね」
「折角だし、俺も泳いでこよ」
「お主、泳げるのか」
「別に得意ではないけど、一応ね」
「ママルちゃん!こっちおいで~!」
(おいでって…まぁいいけど)
ママルは適当なクロールで泳ぎ始めると、尻尾がめちゃくちゃ邪魔だなぁとか思った。
「ママルさん、うまいこと泳ぎますね」
「まぁ物は試しだ、わしらも入ってみよう」
――
「なるほど、まず浮くコツを掴むのが、大事、なのだな」
「そゆこと」
「む、難しいですね」
「力まず、空気を肺に入れるのが重要です」
「で、出来ないかも!つ、疲れて来たわ」
「≪理障壁:物理結界≫。一旦ここに乗るがよい」
「ユリちゃん!ありがとう!!」
暫く色々試しながら遊んでいる中、それでも泳ぎ疲れたメイリーが、
1人浜辺で砂山を作っていると、2人の男に話しかけられる。
「おねーさんっ。どっから来たの?」
「1人?良かったら俺らと遊ぼうよ」
「え?私?どうして?」
「どうしてって…、一緒に遊びたいと思ったからだよ~ん」
「そうそう、いいじゃん。暇でしょ?」
「でも私、お友達と一緒なのよ?」
「マジ?女の子?」
「そうよ」
「やったぜ!!じゃあ皆で一緒に遊ぼうよ」
「それなら良いけど…」
メイリーはそう言いながら、ママル達に視線を送った。
「あいつらか?」
「げっ…、獣人と、ガキかよ…」
男が吐き捨てる様にそう言うと、メイリーが声を荒げた。
「ぃ、嫌な言い方しないで!!」
「うおっ、なんだよ、そんな怒んなよ」
メイリーの怒声を聞いたママルが近づく。
「どうしたの?…誰こいつら」
「チッ。ガキに用はねぇんだけどな」
「……あ~、なんだ、ただのナンパ野郎ってとこか。しっしっ。あっち行け」
「んだと……」
「おい、ガキ相手にムキになんなって、もう行こうぜ…」
「……チッ。ガキに騎士様ゴッコでもやらせてんのか?顔に醜い傷を付けてる女が、気取りやがって」
「おい、てめぇ…ライン踏んでんぞ」
ママルは腰についていた小さな水晶を掲げる。
水着装備に合う様デザインされた物で、攻撃力はかなり低いが、
ふわりと浮き上がり魔力が込められて行く。
「ちょ、魔法士?!マズいって!」
「こんなガキに舐められたままで堪るかってんだ!」
男がそう叫んだ時、その口元にメイリーの魔力が投げつけられ、その口を塞ぐ。
「あなた、嫌な事ばっかり言うから嫌いよ…」
メイリーのその技を見て青ざめた男2人は、そそくさと退散していった。
「ごめんね?ママルちゃん。嫌な思いさせちゃって…」
「いや、全然大丈夫。てかメイリーさんモテそうだから、変な奴に気を付けなね?」
「そんな事ないと思うのだけど…。でも、そうね……」
「なんとかなったようだの」
「ですね、下手にモンスターとかじゃなかった様で、良かったです」
遠目に見ていたユリとテフラは、また泳ぎの練習を再開した。




