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87.ヴェント

「あそこがヴェント。シーグランの王都か、さすがにデカいのう」

「少し潮の臭いがします。海が近いのでしょうか」

「おー、海!ちょっと見たいな」


「海か。わしは見た事がないでな。皆はどうだ?」

「私は故郷が海に近かったので、何度か見てますよ」

「俺はこっちに来てからは無いなぁ」


「わ、私も、見た事、ないな…」

メイリーは、ここまで頑張って歩いて付いて来ていた。


そのまま門へと近づくと、門衛が話しかけて来る。

「あんた達、名前は」

「あ、その、ママル、です」

「……少し待ってくれ…………………」

(ローゼッタさんが、門衛に話しといてくれるって言ってたな)


「………まず暮の水平亭と言う宿に向かい、部屋で誰にも見られないよう読んで、終わったら燃やしてくれ」

門衛は小声でそう言うと、封のしてある手紙を2枚こっそりと差し出して来た。


(なるほど、こういう感じか)

ママルは下手に返事をする事もなんだか難しく感じて、無言のまま手紙を受け取った。


「ふむ。では、あんがとな」

「よろしく頼む。宿は大通りから三つ目を左だ」

門衛はそう言うと、一行を中へと通した。

そして目に入って来る景色に、ママルは感嘆の声を上げる。

「おー、すごいな!」

「かなり賑わっておるのう!」

「コルセオ以上に活気が…凄いですね」


街の正門から大通りが通っており、所狭しと露店が並ぶ。

良い匂いに釣られて店舗を見てみると、海産物の類が多いみたいだ。


「ちょっと、なんか食おう」

「よいが、あれはなんだ?おかしな形をしておる」

「貝系の串焼きだね、ホタテガイって書いてるし」

「あれが貝の中身か…。森にある川で獲れるものとは、全然サイズが違うのぅ。

そう言えばアルカンダルでもそんな名前は見た事がある気がするが…」


「アレはなんですか?虫みたいですが、見た事もない様な…そういう、虫を食べる文化があるんでしょうか」

「エビですね、ちゃんと海洋生物です。うまいですよ。俺かなり好き」


「お主、詳しいのう」

「ってか、前世と似た生き物がめちゃくちゃ多いんだなって、改めて思った」

「そういう事か」


「ディーファンでもたまに見かけたから、私も知ってるわ!

私ね、以前ご飯屋さんで働いてたのよっ」

「へー、そういえばカールから聞いた気がするな。看板娘だったんだって?」

「そうなの?それは知らないわ…」

「そ、そうなんだ…」

「適当に買っていきましょう」


買い食いしながら歩いていると、暮の水平亭を見つけた。



宿は基本的に1人か2人部屋しかなく、それ以上の広さの物となると、

ただ2段ベッドが2つあるような部屋を除けば極端に値が張るし、

専用の風呂やトイレ付きはママル的には絶対かかせないため、そもそもの値が張る。

3人の時は2人部屋に1つ寝床を追加してもらう形だった。


という訳で今回は、2、2に分かれる事にしたのだった。


「ま、じゃぁ、初回だしグーパーで決めよか」

「なんだそれは?」


ママルは簡単にじゃんけんから説明すると、ママルとメイリーが同室となったが、

一旦ママル側の部屋に皆で集まる。

まずはローゼッタからの手紙を読まなければならない。



[この手紙を読んでいるという事は、1週間もかからなかったという事だろう。

君達の問題が早々に片付いた様で、嬉しく思うよ。

君達にやってもらいたい事は、城内部での戦闘と、グラスエスでの戦闘だ。

詳細はまだ決まっていない、現在、君達から教わった情報を元に再調査中だ。

段取りが決まったら、また連絡が行くからそれまで待機しておいてくれ。

宿代はこちらで持つから、心配せず、ヴェントの街を満喫して欲しい。

海産物の料理やビーチ等は、ヴェントならではの魅力だと思う。

観光などして、この街や国を少しでも気に入ってくれたなら嬉しい]



[これはいつ読んでもらっても良いように、追加で書いている。

まずい事になりそうだ。全兵士への招集令が出た。

これまでは我々聖騎士隊の権限で跳ねのけられたが、

聖騎士や兵士達の家族までも人質にするような形での、絶対命令だ。

だが、隊長の私に家族が居ないため、まだギリギリ逆らえている。

聖騎士の隊員は、私が折れない事を理由に出来る。

もう少し待っていてくれ。待ちの状態が維持できない場合、

この手紙は処分してくれる手筈になっているので、安心して欲しい]



「これ、まずくない?」

「無理矢理招集したという事は、一網打尽にされる可能性があるな…」

「こちらからコンタクトは取れないのでしょうか」

「ちょっと、この宿の主人とか門衛に話聞いてくるよ。皆ゆっくりしといて」

「む…まぁ、皆で行く事でもないか」

「そゆこと」


ママルは足早に部屋を後にした。


「あの…私はあんまり解ってないのだけど、大丈夫なの?なんだか心配だわ…」


(メイリーは、人の感情の機微には敏感なのだな…)

「心配するな。安心して欲しいと書いてあるではないか」

「そ、そうね…。ローゼッタさんの事は私は知らないけれど、

もう、酷い事は起きて欲しくないもの」




――――2日前深夜


「ラディアス、久しぶりじゃのう」

「あ?……ユァンか……。どうした?」


ラディアス=ゲッタリスはシーグランの貴族だ。

趣味は美術品のコレクションを集める事と奴隷の買い替えで、

貴族間でも評判はあまり良くないが、独自の情報網とツテを持っている。


「最近依頼がないからな。ちょっと様子を見に来たんじゃ」

「あ~。最近はなぁ。特に()って欲しい奴もいねぇってか。

いても手出しできねぇくらいの大物ばっかなんだよ」

「殺し以外でも、盗みや悪事の証拠を掴むような事もやっておったじゃろ」

「ハッハ。懐かしいな、いつだったかお前が持って来た、ヂソルン家のフォブシール、ありゃ傑作だった」

「贋作の贋作で、元の字が潰れて卑猥な文字に見えとったやつじゃなっ、くっくっくっ」

「それに邪魔だったコール家の、密造酒の製造元を見つけた時もよぉ」

「くっく、よく覚えとるのう、懐かしい」


「…で?何して欲しいんだ?」

ラディアスは、葉巻に火を付けながらユァンに尋ねた。


「…解っとるじゃろ。最近この国はかなり怪しい方向に動いちょる」

「あぁ、勿論、俺なりに色々調べてはいるがな」

「死体の軍勢と、王が狂った原因の情報を得た」

「ほう…。それと交換って話か……」

「そういう事じゃ」

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