塔に挑もう
ポーチやポケットにアイテムを割り当てれば、素早く取り出せる。
ビル街に激しい銃声が絶え間なく聞こえる。次々と敵が接近し、アランは車の後ろで身動きが取れなくなった。
「弾切れ!」
ジョーが叫ぶ。
「こっちもマグナムだけだ!」
アランが答える。M16の弾薬はとっくに尽き、今はコルトパイソンで応戦していた。
「ナナとリリーは?」
「リリーはさっき手榴弾でやられた。ナナも応答無しだから……」
「ここまでか……」
アランが落胆する間もなく手榴弾が飛んで来る。彼はそれを掴んで素早く投げ返した。近くで爆発が起こる。
「武器拾って来る!援護を!」
ジョーが飛び出した。アランは彼の周りの敵をパイソンで狙い撃つだ。だが、処理が追い付かない。ジョーは手近な敵からサブマシンガンを拾った。直後、2方向から撃たれて彼は死亡した。
「残るは俺だけか……」
アランはリボルバーに弾を込めると敵に向き直った。2人倒したところで、胴体に衝撃と僅かな痛みを感じる。回り込まれた。応射するより早くフルオートで撃ち込まれ、視界が暗転する。ゲームオーバーだ。
リスポーンしたアランは、待機時間を経て第七突撃隊の拠点へと戻った。
「お疲れ〜。ジュース飲む?」
リリーがコップを手渡す。
「悪いな」
それを飲み干す。感覚だけだが、喉越しと甘い味を楽しめた。部屋にはジョーとナナもそれぞれの場所に居た。
4人はつい先程まで、バトルタワーと呼ばれるダンジョンに挑んでいた。10階からなるダンジョンで、階層ごとにランダムで違う敵、マップが出現する。相手はNPCだが中々に手強く、クリアすれば豪華な報酬が得られるという。実はアランがカルトにPKされ、この同盟に入ると決めた時も、ナナ達は直前まで挑んでいたという。
「今回の敗因は何だと思う?」
ナナが反省会を開いた。
「やっぱり弾が切れたことだよな」
ジョーが答える。このダンジョンでは弾薬や回復薬などアイテムの補給が限られるのだ。他の3人も同意見だ。
「俺は……このダンジョンについてもう少し調べようと思う」
アランはそうに答えた。
「そうだね。私も大体3人と同じかな。それじゃあ今日は解散!お疲れ!」
半ば強引にナナが締め括り、ログアウトした。
「ありゃだいぶ凹んでるな」
「久しぶりに見たよね」
ジョーとリリーは慣れた様子だった。無理もない。ナナは今回、「4人なら攻略出来る!」と意気込んでいたのだ。しかし、半分以下の4階で敗退してしまった。
「じゃあ俺も落ちるよ。また明日な」
アランもログアウトをした。
翌日、ナナ、ジョー、リリーの3人はバトルタワーの前にいた。塔は地下に伸びているため、外観はコンクリートのシンプルなシルエットで、機械式の分厚い扉があるだけだ。
「今日こそ攻略しよう」
「だな。だけどアランは?」
「少し遅れるって」
そう話していると、近くの転送装置を使ってアランが現れた。
「悪いな。待たせた」
「大丈夫だよ。それより、行こうか」
ナナはその重い扉を開いた。4人が足を踏み入れると、視界が暗転する。
最初のステージは深い森だった。上空には残りの敵を示す数字が浮かんでいる。今は20だ。
「えっと、この森って何が出るんだっけ?」
リリーが辺りを見渡す。アランも風景をじっと観察した。そして、突然走り出した。走りながらアイテムボックスからリモコン爆弾を取り出す。システム上、突然手の中に現れたような絵面になる。彼は一際大きな木の根元まで走ると、その爆発物を投げた。
「アイツ何してんだ……?」
ジョーが不思議そうな顔をしていた。それに構わず、アランは近くの岩の後ろに隠れ、リモコンの起爆ボタンを押した。爆破が周囲を揺らす。空の数字を見ると、数が15に減っていた。
「この森はゴブリンが出る。それで、あの気は最初の出現ポイントだ」
昨日、アランはバトルタワーの攻略サイトを調べた。そしてマップと敵の組み合わせ、注意方法も頭に叩き込んでおいた。
「モンスター系のNPCは接近戦が有効らしい。弾薬の消耗を抑えるためにもな」
アランはM16に着剣すると、3人の側へ戻った。茂みが動き、ゴブリンの群れが接近する。
「来るぞ、構えろ!」
「……お前攻略サイト見たのか?」
「ダメだったか?」
「あれ情報量多くて読む気失せたわ」
「苦労したよ」
そんな会話をしつつ、4人は接近戦に備えた。
森の奥から槍や刃物で武装したゴブリンが突っ込んで来る。アランとジョーが先頭に立ち、それぞれ1体ずつ銃剣で刺突した。リリーは巧みな刀捌きで3体を素早く仕留め、ナナも持ち手にナックルの付いたトレンチナイフで1体を殴殺した。
「なるべく撃つなよ!」
「分かってる。ゴブリンは小さいから、上から頭頂部か顔を狙うと簡単に倒せるよ」
アランはナナに言われた通り、次のゴブリンの頭を銃床で一撃する。もう一回殴打すると動かなくなった。
「サイトには書いてなかったな」
「経験の差ってやつだよ」
ナナは得意げに笑うと次の標的に飛び付いた。一方アランは倒したゴブリンから槍を奪い、向かって来る別の個体を刺突を避けてから刺し返す。
「上手いな」
「別のゲームでやってたからな」
達人には程遠いが、素人にしては上出来な動きにジョーが口笛を吹く。
「あたしの太刀筋だっていいでしょ?」
「ああ。見飽きる程にな」
彼は張り合おうとするリリーには軽く答えた。だが実際のところはリリーが1番多くの敵を削っていた。
「これで最後!」
ラスト1匹も、彼女が両断して仕留める。
「とりあえず、1階はクリアだな」
4階までは問題なく進んだ。アランが敵の配置や強いポジションを知っていたことが大きく味方していた。しかし、5階に来て彼は悩んでいた。
「で、ここはどうすればいいんだ?」
「ツイて無いな。ここは厄介なマップの1つだ」
中東の街をイメージしたマップで、中央に大通りが広がっているが、周りは同じような建物が密集している。奥の方には一際大きな城のような建物が見える。
「ここはエリア奥にスナイパーとロケットランチャーが待機してる。大通りから行くと狙い撃ちされて、街中は迷路みたいになってる。おまけにNPCの動きはランダムだ」
「つまりはCQBだな。それなら任せろよ」
ジョーがアランの肩を叩く。
「あたし達には経験があるもんね。NPCの動きくらい読めるよ」
リリーも自信たっぷりに言った。ナナが作戦を提案する。
「2手に分かれよう。メッセージとか無線で位置は共有出来るから、奥にいるスナイパーは挟み撃ちにする。それでどう?」
「いいと思う。だが気を付けてくれ。奴らは音がすると集まるし、ロケット弾は無限にあるそうだ」
ジョーとリリー、アランとナナの2手に分かれ、それぞれが奥へと進んだ。迷路のような街中を慎重に進んで行く。奥に巨大な建物があるから、ゆっくりではあるが前進していた。曲がり角の前でナナが足を止めた。
「足音」
彼女は小さく呟く。すると
「退屈な見回りなんて……」
と男の声が聞こえた。NPCの独り言だ。そっとカービン仕様のFALを置いた彼女は壁に身を寄せ、トレンチナイフを構える。やがて角からNPCが現れる。彼女は飛び出し、ナイフを正面から突き刺す。押し倒して、そのまま何度か刺突する。
「オーバーキルじゃないか?」
「重傷を負うと仲間呼ぶから、確実にやるのが鉄則だよ」
それからナナの先導で2人は攻略を進めた。彼女は石を投げて注意を引いたり、アランを踏み台にして屋根に登って偵察したりと実戦で得たであろう経験を活用していた。
「こちらナナ。そっちの状況は?」
やがて城の手前まで到達したナナは、無線機でジョーと連絡を取る。返答を聞くより前に、爆発が起こる。
「悪ぃマズった!位置バレしたからこのまま突っ込むわ!」
ジョーがそう答える。激しい銃声が聞こえた。
「私達も行こう!」
ナナに促され、城へと続く階段を駆け上がる。螺旋階段を登りバルコニーに出ると、敵が背中を向けていた。アランはM16の銃剣で突き刺し、ストックで頭を殴って撃破を確認する。
「一気に落とそう!」
ナナはナイフと拳銃を抜いて飛び出した。狙撃手を倒しながら前進する。
その時、長いバルコニーの先で何かが光った。リリーがスカートとセーラーを翻らせ、刀とイングラムM10を持って敵に突撃するのが見えた。彼女の前には3人の敵が距離を置いて並んでいる。リリーは1人目を刀で突き刺すと、それを盾にM10サブマシンガンを乱射する。2人目が怯んだ隙に飛び出すと、接近してトドメを刺す。続いて大きく跳躍して3人目を上から斬り捨てた。実に鮮やかな動きだった。
「リリーは相変わらず別ゲーみたいな動きするよね」
「こっちが本業だったからね」
ナナは慣れつつも感心している様子だった。
「いや〜どうにかなったな」
遅れてジョーが合流する。アランが空を見ると、残敵の数が2になっていた。
「途中で見落としたみたいだな」
「じゃあ任せて」
ナナは倒れた敵からドラグノフ狙撃銃を拾った。狙撃する、とアランは思ったが彼女は明後日の方向に乱射し、それを捨てた。
「使わないのか?」
「まぁ見ててよ」
少しするとNPCが周りを見渡しながら大通りに現れた。ナナはそれを別の敵から拾ったロケットランチャーで仕留める。爆発に反応して現れたもう1人も、同様に爆殺する。
「奴らは音に反応するからね。じゃ、次行こうか」
時間こそ掛かったが、アイテムや弾薬の消耗も少なく、無事半分を突破することが出来た。
バトルタワーでは物資が限られる。計画的に使おう。