基地を攻略しよう
NPCの基地は様々な難易度がある。腕試しには最適だ。
「えっと、ナナが言ってた人?」
アランは扉を開け、第七突撃隊のプライベートルームに入った。しかし、そこにいたのはナナでもジョーでもなく、見知らぬ少女だった。背はナナより低いだろうか。肩より少し長いブロンドの髪をしている。彼女はソファーに座り、パンのような物を食べていた。
「多分そいつだ。ナナとジョーは?」
「そろそろ戻って来るんじゃないかな?あ、あたしはリリーって言うの。第七突撃隊のナンバー3だよ」
少女はリリーと名乗り、屈託のない笑顔を見せた。丁度その時、部屋の奥のシステムボックス付近にナナとジョーが現れた。ただ、1分程はそこから離れられず、アランやリリーと会話も出来ない。やがて待機時間が終わり、2人は部屋の中央へと歩いた。
「お帰り。2人はどうやって死んだの?」
「俺は4方向から蜂の巣だよ」
「狙撃されて、倒れたとこに手榴弾」
3人は少しの間話していたが、やがてアランに顔を向けた。
「で、ここにいるってことは答えが決まったんだな」
「ああ。しばらく続けようと思う」
「マジかよ!やったな!」
「よろしくね!」
ジョーとナナは喜んでいた。あまり状況を分かってないだろうリリーも嬉しそうだ。
「じゃあ、ナナが勧誘に成功したってことか」
「そうだね。でも、カルトは御免とか言ってなかった?」
そう聞いたナナに答える。
「あの後、最初にキルした奴らに復讐……というかリンチされてな。このままじゃ悔しいと思って」
それは彼の本心だ。気味の悪い連中と関わりたくはないが、せっかく復帰したのにやられたままで、ほとんど遊べずに終わるのはどうにも悔しかった。そして結局はそっちの気持ちが強かった。
「と言う訳だから、俺を正式なメンバーにしてくれないか?他にやってる友達もいないし、まだよく分からないからさ」
「勿論だよ!これからよろしくね」
ナナはアランが参加することに大喜びだ。すぐに同盟の招待を送ってくれた。
「それで、俺を入れてこの同盟には何人いるんだ?」
「4人だな。ここにいるので全部だ」
ジョーがあっけらかんと答えた。
アランを正式メンバーに加えた第七突撃隊の4人は次どうするのかを考えていた。ジョーとリリーはソファー、アランは手近な箱に座った。ナナはリーダーらしく、肘掛け椅子に腰掛けた。
「とりあえずはアランの装備を整えてやりたいが、どうする?カルトのプレイヤーでも襲うか?」
「いきなりそれはやめようよ。モンスターの方がいいって」
ジョーとリリーは対立こそしないが反対の意見だ。
「じゃあアランはどう思う?」
ジョーがアランに話を振った。
「そうだな……この基地ってのは?」
目の前に表示させた広いマップを見ながら、アランは答えた。確かそこは敵NPCが駐留している場所だったはずだ。
「いいね。そこにしよう」
ナナは首を縦に振る。
4人はシステムボックスの転送機能で目的地の近くに移動した。ここからは徒歩で向かう。基地とは敵NPCの拠点だ。難易度は様々で、全滅させると報酬が手に入る。今回4人は市街地エリアの、廃工場に来ていた。
「作戦はどうする?静かに仕留めるか?」
扉の前、AK-74を持ったジョーが言った。
「アランの入隊祝いだし派手に行こうよ!」
「ステルスの方が効率的じゃないか?」
「楽しい方が大事。ウチはそういう同盟だから」
ナナはそう言うとライフルのチャージングハンドルを引いた。日本刀を抜いたリリーと、ライフルを構えるナナを先頭に、4人は突入に備えた。
「行こう!」
ナナが乱射しながら扉を蹴り開けると、リリーが飛び出した。相手側からも激しい応射がある。
「1人倒した!ここまで来れるよ!」
「俺たちも行こうぜ!」
ジョーに促され、アランも中へと突入した。
広い工場の中では、コンベアや機械の間を目出し帽を被ったギャング風のNPCが銃を撃ちながら走り回っていた。室内だから、銃声が反響して喧しい。近くを掠める流れ弾には、ゲームと分かりつつも身を縮めてしまう。
「全然当たらない!」
アランは箱の山に隠れながら狙い撃つが、ほとんど命中しなかった。
「ああいうのは狙い撃ちより、動きに合わせて乱射した方が当たるぜ」
隣で射撃していたジョーに倣い、フルオートで掃射する。すると遮蔽物から飛び出したギャングに当たり、後ろに転倒させた。
「よし、トドメを刺してやりな!」
今度はしっかりと狙い、頭を撃ち抜く。撃破の通知音が聞こえる。
「やった!」
アランはその近くの大きな機械の裏に、敵が3人ほどいるのを見つけた。まとめて仕留めようと、手榴弾を構えた。
「投げる前に2秒待てよ。これ、基本テクニックな」
ジョーのアドバイス通りに手榴弾を投げる。キャッチボール程度の投球センスはあるから、狙い通りに手榴弾が飛んでいく。そして、爆発が起こった。敵の死体が吹き飛ぶのが見えた。
「前進出来そうか?」
「多分な。撃たれたら助けてやるよ」
アランは遮蔽物を経由して前に出た。
「助けて!前に出過ぎた!」
すると、細い柱の後ろにリリーが縮こまっているのが見えた。彼女は複数の敵から集中砲火を受けていた。ナナは別の敵と交戦中だ。アランは敵が自分を狙っていないのに気付くと、M16で狙い撃ちした。2人の頭を撃ち抜き、3人目を狙ったが、それはジョーに仕留められた。
「倒したぜ」
「ありがとうね!やっと動けるよ!」
アランはリリーにそう伝える。すると彼女は刀を持って飛び出し、ナナを狙う敵を真横から突き刺した。隣の敵も素早く斬り捨てる。
「あいつ銃使わないのか?」
「あんまりな。それがリリーで、彼女の良さだ」
「なんだそれ」とアランは笑い、次の標的を探した。
だが、敵は重傷状態の1人だけになっていた。いつの間にか喧しい銃声も止んでいた。
「NPCも重傷になるんだな」
「ああ。他にいたら復活させられるから注意だ。しかも無限にな」
アランは戦闘が終わったことを確認し、銃を下ろした。
「どうやって終わらせる?」
リリーがそのNPCに刀を向ける。
「こうする」
ナナは前に出ると、床を這うNPCの側に小包のような物を置いた。
「じゃ、帰ろうか」
彼女はアランの方を向くと歩き出した。いつの間にか手にリモコンのような物を持っている。ジョーとリリーもそれに続く。
「トドメを刺さなくていいのか?」
「うーん、もう少しかな?」
工場の出口付近まで来ると、ナナはリモコンのボタンを押した。突然背後から聞こえた爆発にアランは驚いて振り向いた。「敵を全滅」視界にその文字が映る。
「いいよね。爆発をバックに立ち去るの」
「ああ。ロマンだな」
「それがやりたかったのか?」
アランはナナとジョーに半分呆れつつ、少しだけ共感はした。
「そう!私達第七突撃隊はロマンを追い求め、このゲームを全力で遊び倒すのが目的だからね!」
ナナは宣言するかのように答えた。
「よし!次は別の基地に行こう!」
「また行くのか?」
「アランも不完全燃焼な感じでしょ?難易度低い所にするからもっと暴れられるよ!」
元気なナナを先頭に、4人は次の基地を目指した。
基地の攻略時、最もスコアの高いプレイヤーは追加報酬を受け取れる