53:風呂場で濡れ場?
食欲が抑えられん!
メルド国王の顔は青かった。それとは対照的に陸は飄々とした表情である。
(なっちまったもんはしょうがねーな)
ここまで開き直れたとすれば性質が悪いだろう。だが陸には策があった。
「メルド国王様。ここは防衛戦で行きましょう」
「確かに我がセルクリッドは防壁に囲まれた都市であるからして、防衛戦には向いているが」
「はい。魔法も受け付けない防壁もあります」
「だが、壁に取り付かれてはこちらは苦しくなるぞ」
「そうだ。魔法は遠距離のみ。城壁に取り付かれ、突破されたのではこの城は一溜まりもない。そして相手は武力も魔力も両方兼ね備えた大国の魔法騎士だぞ」
「存じております。ですので近寄らせなければいいのです」
「ふむ、陸殿の策とやらを聞かせてもらおうか」
「はい、この度は私の責任でもありますので」
その後、陸によるブリーフィングが始まり、セルクリッド王国幹部達はそれに耳を傾けてはいたが、余りにも現実離れしていた陸の作戦に憤りを通り越し、半ば呆れ顔であった。
★ ★ ★ ★
「陸様おかえり~」「お帰りなさいませ」「お! 陸様やんけ~」「お久しぶりです」「殿!」……
城に戻ると家臣やら部下(魔物、アンデッド、人間)の様々な人? から一通り挨拶をもらった陸は、風呂に浸かって骨休みしていた。
「あぁ、体に沁みるわ~」
「みゃぁ~」
「お~ケットシーの黒にゃんこ、着いて早々ミニスに追いかけられてたな。良く撒いたな!」
「みゃみゃ!」
そうだろうと誇らしげな顔を見せるケットシーは、温泉のお湯に恐る恐る手を入れる。何度か入れたり出したりしている内に、犬掻きしながら泳ぎ始めるまでになった。
「猫って泳げるんだ……そだ、名前付けえてあげるよ」
「にゃ?」
「黒いから、クロだな!」
「みゃ!」
「いい子だな~くろ~」
「にゃはは」
しばらく陸がクロを捏ね繰り回していると、擽ったいのか手足をジタバタさせている。するとクロの体から白い煙が拭き始め、周辺を白い霧で囲ってしまった。
「うお! クロ……?」
目の前には幼い黒髪の少女が全裸で立っていた。
「クロなのか?」
「そうだにゃん」
「陸様ー私がお背中流させていただきます!!」
「メリア!! 今は不味い!」
溌剌とした声と共に、勢い良く開けられた扉。メリアの目には、陸ともう一つの人影である全裸の少女が陸と重なり合っている。
「な、なな……」
「メリア、そのまま落ち着くんだ」
「は、は、ハレンチですわ!!!」
「まって!」
メリアは顔を真っ赤にして浴場から飛び出していった。
「はぁ、いらん誤解を与えてしまったなぁ」
「そなの?」
「うお、喋れるんかい!」
「うん! なんとなく」
「どうしてクロは付いて来たんだい?」
「陸様にお礼がしたかったの!」
「お礼なんて良いのに~」
「な、なりません! 一族を代表し、私が、その、殿に仕えるで、御恩をお返しできるのです」
「仕えるって、大げさだな~」
「そんなことは断じて。一族を救ってもらったのですから。あのまま恩を返せなければ我ら一族の恥に御座いました」
「わかった! わかったから、全裸で迫って来ないで!!」
「こ、これは失礼。何分猫の身では常に裸のようなもの故」
クロは大浴場から上がり、陸に向かい方膝を付きながら再び忠義を誓うのであった。
★ ★ ★ ★
「どうせ私なんて、政治の道具に過ぎないんだわ……」
メリアは浴室から飛び出して以来自室に篭り、ボソボソと嘆きの言葉を溢していた。
「メリア様はどうされたのだ? 陸様を迎えに行ってから元気が戻ったというのに」
「陸様に冷たくあしらわれたやもしれん」
「やはり政略結婚に愛など存在せぬか」
ミニス護衛隊からメリア護衛隊隊長となったリザードマンが、同じ隊のワーウルフとボソボソと想像を膨らませ、予測を立てる。
「確かにそう何度も顔を合わせぬ内に結婚など、難しいか」
「なんだ知らんのか? 人間の貴族や王族の間ではそれが主流らしいぞ」
「では……」
「やはり……」
「ええい! お主ら、さっきから聞こえておるわああああああああ!」
「「も、申しわけございませぬ!」」
「ゆるさぁああああん!」
「ひひいいいい」
「お許しくだされぇええ」
完全武装したメリアが自身の護衛兵を追い回す珍事が発生した。彼女のハルバートにも陸のエンチャントスキルによって様々な付加能力が備わり、且つタンニールの鎧にも幾つもの魔術式が折り重なっており、最早リザードマンに負けた彼女からは想像できぬ程の戦闘力を身に着けてしまったが為、護衛兵も舐めてかかれない状況であり、命がけの逃走になっている。
「今夜は犬とトカゲのハンバーグかこらぁああああ」
「ひい、メリア様がバーサーク化しておられる。俺が囮になるから、直ぐに陸様をお連れしろ」
「た、頼んだ」
「でぇえええりやあああああああああ」
ハルバートの持ち手の端を、片腕で振り回す様は最早人の姿ではない。遠心力が最大にまで高まったハルバートの急速な振り下ろしは、リザードマンの頭蓋を粉砕する勢いだった。
ドン! と音共に振り下ろされたハルバードは、風圧で巻き上がる塵で周辺の視界を奪う程であったが、リザードマンの頭蓋は砕ける事は無かった。
「陸様!」
振り下ろされたハルバードを片腕で鷲掴みする陸の姿がそこにあった。追撃の風属性の真空波もまるでそよ風でも受けるように、髪が靡く程度であった。
「メリア。浴場のあれは勘違いなんだ。メリアが長い間一人で寂しい想いをさせてしまった事は悪かったと思ってるよ。あの時メリアが飛んできたときはビックリしたけど、嬉しかったんだよ」
「あ、え!? でも……」
「これからは出来るだけ一緒にいような」
(これだけ戦闘能力があれば戦力になるな)
「は、はい! 私頑張ります!!」
(陸様は私の事を慕っておいでだったのですね……私が浅はかでした……)
命拾いをしたリザードマンは陸の桁外れな力を再確認するやいなや、もう、メリア様を止めるのは陸様しかいないのでは? と警護目標に殺されては命が幾つあっても足りないなと憂鬱になるのだった。
★ ★ ★ ★
ラベンハルド国内では檄が鋭く飛んでいた。打倒魔族をスローガンに魔法騎士の軍団が各方面から進軍を開始しようとしていたのだった。先方は滅炎龍槍騎士団、それから鉄鋼重装輓馬騎士団、昇竜疾風の騎士団と続き、後方には正教徒白鷗騎士団が構える。尚、白鷗騎士団の半数は、今だに残るペスト撲滅と、ラベンハルド城の警護に当たる事になり、道は城内に残る事になった。
「先遣隊の勤め、この間の借り、共に成功させてみせるわ!」
団長のダルス・ニッケルは名誉の挽回に闘士を剥き出しにしてセルクリッド城攻めに向かうのだった。
恋愛の勘違いとか、はっきりさせないとか、王道だけどやっぱ作りやすいってのがあるな~
オラのは、面白いかは別として(笑)




