40:骨竜
遅くなってすまぬ
アンデット襲撃編が思ったより長引いている。
ぼちぼち終わらせたい。
テリスは新手の存在に半ば呆れていた。高々数十人の人員でここまで戦況が盛り返されるとは思わなかった。各地で手に入れた強力な魔物も足止め程度にしかなっていない。今も上空では翼人とは特徴の異なる翼を生やした人間が光の矢を弓で引いて、上空のアンデットを消滅させている。弓も魔弓であろうが、所持者の魔力も高いのだろう。一本の光の矢が幾重にも分散し、アンデットを追尾している。しかも連発で打てっくる。これでは数が多かろうが近付くことが出来ない。
「はぁ、ベルゼブブ様。私に力が足りず申し訳ありません」
「はっはっは! テリスよ戦とはこういう物だ致し方ない。自軍が今どのような状況か判断し、適切な判断をする。ここで敗戦濃厚と分かれば兵の損害が大きくなる前に撤退を行なうのが伝だが、今宵は祭りよ! 見よ、あそこにいる少年こそ我を討った者よ」
「な! ベルゼブブ様何を悠長な!! 彼は仇ではないのですか!? 私目にお任せ頂いても?」
「よせテリス、奴は強いぞ。それに戦争というのは王を取った方が勝ちなのだ。例え強力な家臣や家来がいたとしても、王が死ねばそれまでなのだ」
「ではベルゼブブ様、中央へ強行するとのことですか?」
「左様。中央はもはや崩壊寸前よ……心情を表に出しては勝てる戦は勝てんのだ! 行くぞ」
「はっ! お供します」
テリスのアンデット集団は位置関係上撤退する事が出来ない。城壁の中の軍と外の軍に挟まれている為である。外の軍の包囲網を突破して撤退する方法もあるのだが、陸の軍団の脅威を見たベルゼブブは中央強行を決定した。皮肉にも陸の登場で中央突破が加速したことになる。
テリスとベルゼブブは酷にも中央の城壁を盛り立てて守る警備兵、ブリッツとヴェンリッチの下へ進軍を開始する。既に絶望的状況下にある彼らは今よりも更に厳しい状況になるとは知るよしもなかった。
ギリギリの所でなんとか押さえきっている場面で精神を繋ぎ止めている彼らは、一度城壁を突破されればその精神のダムは一気に崩壊するだろう。後は放水される水の如くアンデットが城内に突入するだけである。
★★★
「おい、なんか勢い増してないか?」
「てか何だあれ?」
「骨? スケルトン系アンデットか?」
全身骨だけで構成されているスケルトン系アンデットは人型、獣型とあり、生前持っていた魔力か外部からの魔力で骨が魔石のように魔力が伝わりやすくなり、霊体が入ることで働きだす事ができるのだ。骨だけで動くには長い年月魔力の影響を受けなければならない。魔剣などの魔法武器と同じ原理である。
「でかいぞ! こっちに向かってくる!」
城壁の上のでアンデットと激しい戦闘を繰り広げている兵士達にとってあまり嬉しくない情報だった。
「やばい! 竜種のスケルトンだ!! 武器を持ち替えろ」
竜種は元より魔力が多い生物なので、自然死した場合でも必ずと言っていいほど何らかの影響を及ぼすのである。今回の様になにも悪いことだけではなく洞窟で息を引き取った竜のは洞窟全体を高純度の魔石に変えてしまったり、深い森に住む竜は自然の成長を促したりと様々である。
城壁で構える兵士たちは刃物から鈍器に持ち変える。というのも下級スケルトンでは魔力も其処まで蓄積されておらず剣でも骨が砕ける程ではあるが、上位種と呼ばれるスケルトンは骨が金属のように硬い為に刃が通らないのである。況してや竜種である。鈍器さえ弾かれるのは願いたくないが想定できた。だが引く訳にも行かず兵士たちは地を這うように迫り来る竜種のスケルトンに叩きに掛かる。
「隊長!! やばいの来ました!! あいつやばすぎです!!!」
「見りゃ分かるわ! 魔術師はどうした!! 武器でどうにかなるもんじゃないぞ!」
骨の指を城壁に突き刺して這い上がってくるそれは今まで戦ってきたアンデットとは別の恐怖を感じさせた。戦う事への諦め。生きる事への諦め。守る事への諦め。死への恐怖では無く、絶望からなる恐怖。身体は強張ることは無く自然と力が抜ける。嗚呼……終わったと思わせるその圧倒的存在感の主は城壁を守る兵士を腕の一振りで十数人一挙に弾き飛ばし、続けざまに向かってくる兵士達をも立て続けになぎ払い実質城壁を占領した。
「不味い! あそこを足がかりに打ち崩される!」
「だがあんな奴どうする?」
「ベンリッチ、俺に続け」
ブリッツ警備隊長は城壁の下にあるある装置を部下に呼びかけ移動し始めた。移動位置は竜種のスケルトンが暴れている丁度下方に設置。
「全兵士下がれぇえええ!」
ブリッツ警備隊長城壁上にて暴れている竜種のスケルトンに向けてある装置を発射させた。
★★★
「ほほ~竜種のスケルトンを最後まで隠し持っていたとはテリスも意地が悪い。奴ほど城壁突破力のあるアンデットもいないからな」
「はい、本当は外の連中を片付けてからと思いましたが……」
「そうよな、戦いとは必ずしも上手く行くとは限らぬ。取り合えずは竜種のスケルトンに兵が集中している隙に、他の場所にも強襲するぞ」
「承知しましたベルゼブブ様」
今後の戦況への段取りを話し合っている中、城壁上で暴れまわっている竜種のスケルトンが轟音と共に爆発炎上。右腕が吹き飛ばされ、頭蓋骨にも亀裂が生じ、爆風に煽られ城壁の下に真っ逆さまに落っこちた。それを呆然と見届けた後、テリス達は爆風に襲われ右腕で視界を塞ぐ。
「火属性の炸裂の魔法か? 威力的には上級だな。そのような上級魔術師は城の外に展開している部隊だけだと思っておったが……」
「あれをご覧下さい!」
テリスに注視を受けたベルゼブブは状況を把握する。城壁からはみ出る様にして兵器の一部が垣間見えた。
「投石器か……あれを使って何かを打ち出したか。セルクリッドは昔から魔術研究に熱心だからな。器に火属性魔術を封じ込めて爆発させる戦術兵器か……今まで使わなかったのは街が壊れるからか、試験段階で試した事がなかったからということか」
「恐らく後者でしょう。追い詰められて一か八かの賭けに出た。しかしあの程度では竜種のスケルトンは落とせませんわ」
テリスの言うとおり、竜種のスケルトンは横腹に砲撃を受け損害を受けたものの、今まで倒してきた兵士達の骨を取り込み始めた。
「竜種のスケルトンは頭蓋の奥にある魔力結晶を打ち砕かなければ動きは止まりませんわ」
「その頭蓋も破壊にはなかなか苦労しそうだな! はっはっは!」
★★★
投石器の使用は訓練で何度も反復し訓練を行っている為スムーズに使用する事が出来たが、実弾を使ったのは初めてでどれ程の威力があるのか分からずに至近距離でぶっ放した為、周りの兵士達も爆風の影響を受けて城壁の下に落下してしまっている。だが、あれほど苦戦をした竜種のスケルトンを一時的にも撃退出来たのだから士気は落ちる所か高まった。
うおおおおおぉおおお!
兵士達の歓声は城壁に残る兵士達を勇気付けたが、落下した竜種のスケルトンが瞬く間に再生していく様を見せ付けられ、再び悪夢が襲うのかと絶望する。
「くそっ! なんなんだ畜生!」
「あれだけの威力でも倒せないのか……」
「こうなったら、ありったけ魔弾をぶつけるしか!」
兵士達が投石器に視線を向けた瞬間、城壁の一部である岩が投石器にぶつかり大破した。飛んできた方向に視線を移すと、竜種のスケルトンの顔半分が城壁から覗き出て、巨大な片腕が投げ出されてた。警備兵達は絶望の存在を前に希望すらも打ち砕かれてしまった。魔弾は兵士五人掛りでやっと運べる重さなので、一人で投げて使用する事が出来ない代物であった。
「こんなんなら片想いのアリーヌにデート誘えばよかった……」
ベンリッチはどうにも出来ない状況の中で思い人の事を考えてしまう。そして、今まで生きてきた人生が走馬灯のようにゆっくりと流れる。目の前の竜種のスケルトンが巨大な顎門がベンリッチを飲み込もうとする刹那。一人の少年が上空から一振りの刀を突き出して、竜種のスケルトンの額に向かって落下した。
パンドラの箱で希望が入っているが、その希望があるが故に絶望が多くなる。希望とは残酷な物だとどっかの本で見た気がした。
次の更新は木曜くらいかな?
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