20:戦場祭り
17~20まで上げました。
突然目の前で倒れたデーモンをただ呆然と見つめるバエルは、完全に肩透かしだった。
あれからしばらく時間がたったが、一向に目が覚めることもなく、時より泡を吹いている。
「いきなり喧嘩売ってきて、泡吹きながら倒れるとかなんのギャグだ……」
辺りは相変わらず白く靄がかかり、視界が悪い。
最初にあった同属であろうデーモンがこれでは、聞きたい情報も聞き出すことも出来ず、目が覚めるまで待つことにした。
すると、遠くから大きな力がこちらに向かってくることがなんとなく分かった。
これも身体がデーモンになったからだろうと勝手に解釈し、そのうち来るであろうお客を待つことにした。
「先ほど大きな魔力を放っておったのは御主か?」
現れたのは倒れているデーモンよりも2回りほど大きなデーモンであった。
「そうだが、俺はこの世界に来てからまだ数時間しか経っていないんだ」
「なるほど、で、そこに転がっているのはペルシーか。そやつは霊界にきたばかりの者を狙う小物よ。霊界も広くてな、この辺はワシが仕切っている場所なんだが、どうじゃ、ワシの配下にならぬか?不自由にはせんぞ」
ジリっと大男のデーモンが近づくが、バエルは何のプレッシャーも感じなかった。今の自分で、目の前の男など取るに足りなかった。そこでバエルはこの世界の常識に当てはめる事にした。
「ここでは、力が全てとそこの奴が言ってたぞ。俺がお前を配下にしてやる」
「成る程。よかろう、ワシの力を見せようぞ!」
二人の魔力は激しくぶつかりながら、靄が渦を巻き、光、音共に想像を絶する激しいものとなった。
地形は変わり、火山は噴火し、空間は歪み、海は割れ、巻き込まれるデーモン、霊獣多数。
被害状況を報告したら限がない程だった。
「ふはははははは! 面白い!! これほどまで御主が強いとは」
「ぬかせ年寄り。ようやく力の使い方が分かって来たところだ!」
「久々に全力が出せそうだわい!」
霊界は果てしなく広い為、強者同時が面を合わせることは殆どない。そして、ある程度配下を集めたら、その場から動かなくなることが多い為、このような大規模な戦闘は起こりづらいのだ。
「滾る……滾るぞ! ワシの技、とくと味わえ!---千姿万態の毒。これを受けて動けた者はいない。ワシの身体で育てた毒と細菌じゃ!」
大男の腕からスプレー状に吐き出されたドス黒い気体が、バエルの身体を包み込む。
「あぁ、俺、雷使うようになってから、毒とか感染症とか一回もかかった事ないんだ。全部電気が分解しちゃうみたいでさ」
こちらもドス黒い電気がバエルから飛び出した。
バエルの攻撃は光の速さであり、動く物への追尾も自動で行ってしまう。
その回避不能な電撃を、この大男は受け続けるが、一向にダメージを見せない。
タフなのだ。
この男、打たれ強いというレベルではない。
タフ過ぎた。
お互い有効打も無く、時間にして2日たった頃、大男は降参したのだった。
「ま、まいった。もう受けきれない……」
「はぁ、やっと終わったか~しぶと過ぎるわ」
「はぁ、はぁ、いやはや。もう好きにせい。食うなり服従させるなり」
「あんた食えるのか?」
「あぁ?そうか、あんた新人だったな。デーモン同士食うと、相手の能力を吸収できるんだぜ」
「マジか……だが俺は仲間が欲しい。生前一人だったからな。あんたなら、俺の傍でもやっていけそうだな!」
「やれやれ仲間か。どこか懐かしい。じゃあ契約だ---そういや名前教えてなかったな。レイザーだ。よろしく」
「よろしくレイザー。俺はバエルだ」
しばらくして、彼らの戦闘に巻き込まれたデーモン達や、その噂を聞きつけた者達が集まり初め、バエルを中心とした1つの集団が出来上がったのだった。
その集団が纏めて召喚されたのは、しばらくしての事だった。
★★★
バエルは退屈していた。
霊界は広い故に、ある程度デーモンを服従させてしまえば、やることが無くなってしまった。
国があるわけではないし、食い物もいらないし、金も必要ない。
欲するは力のみなのだ。
だが、強い敵はなかなかみつからない。
霊界は広かった。
地球全土で鬼ごっこを始めるようなものか……
そこに偶然召喚術式による、魔法陣が現れた。
たまに見受けられる魔法陣だが、現世と繋がっており、契約条件によって、力や、人間の魂などがもらえる。
人間の魂はスキルアップにつながり、力になるそうだ。
大概のデーモンが、契約を拡大解釈して、都合のいいように暴れては、契約者まで食い殺すなど、娯楽と化していた。
そこに現れたのが巨大な魔法陣。
どうも俺らを従わせたいらしい。
望むところだと意気込み、周囲にいた配下達を連れて、魔法陣に飛び込んだ。
バエルは圧倒されていた。
上には上がいると思い知らされた瞬間だった。
陸の召喚魔法により、一瞬で現世に降り立ったデーモン達は、目の前の石人形らしき物に入れられた。
直ぐに出てやろうかと思ったが、とても心地よく、不思議としっくりきた。
陸との契約により、デーモン達には、契約者とリンクしており、無限大ともいえる底なしの魔力に皆驚愕する。
この圧倒的魔力はデーモン達を魅了していった。
この方こそ王である。
戦わずしても勝てる気がしないと思い知らされてしまう圧倒感。
そして、周囲の状況からして、彼らにとってはお祭り。
戦争とは祭りであった。
参加せずにはいられない。
それからというもの、デーモンを搭載した魔製合金ゴーレムは、魔物共を一掃し始めた。
魔物と一緒に人間も叩ききろうとしたゴーレムが人間に刃が当たる前に急ブレーキがかかる。
バエルは契約者の技量を感じた。
40体全て制御している事に関心し、バエルもまた、フラストレーションを爆発させるかのように、雷撃を放つのだった。
★★★
魔王3体は焦っていた。
突然現れた正体不明の生命体にだ。
良く見ると土系のボディーに霊的な魔物を入れ込んで、動かしているように見える。
魔力を核とするゴーレムとは若干異なる物だというのは理解できたが、こちらの召喚した魔物が手も足もでない事に圧倒された。
「何なんだ、妙な奴らだね」
「人間も妙な術を使うのである」
「怒髪衝天!」
「あら、ベルフェがこんなに怒るところ初めてね」
「――あれを使う。いでよ!」
ベルフェが魔力を混めた瞬間、門の大きさが10倍もの大きさに変わり、奥より獣の唸り声が周囲に響きわたる。
姿を現すは、地獄の番犬と目された、顔が3つ付いたケルベロスであった。
全長は30mくらいあるだろうか。
その3つの口から、バエル達に向かって地獄の業火が吐き出されたのだった。
吐き出された炎は熱線と共に溶岩のようなねっとりとした炎であり、身体に絡みついた瞬間大きな火柱が生まれた。
「燃えろ! 全部もえろぉぉおお!」
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