ユルサナイ
「ユルサナイ……ユルサナイ……」
いつからだろうか。彼の耳が幻聴を聞き始めたのは。
「ユルサナイ……ユルサナイ……」
何を許さないのか。されは彼すらも分からない。ただ許されない何かをした。それ故に幻聴が生じているのだろうか。
「ユルサナイ……ユルサナイ……」
幻聴の声は若い女性の声。少女のようにも思える。しかし、その声色は憤怒を滲ませていた。
「ユルサナイ……ユルサナイ……」
何度も何度も聞こえてくる幻聴。どんなに耳を塞いでも、脳裏に直接伝えてくるように無意味に散る。
「ユルサナイ……ユルサナイ……」
繰り返される幻聴の言葉。それはいつしか彼の心を病むのに時間はかからない。
「ユルサナイ……ユルサナイ……」
彼の心が狂っても、正気を失っても、幻聴の声は鳴り止まない。
「ユルサナイ……ユルサナイ……」
病院に通っても、薬を服用しても、彼の努力を嘲笑うかのように幻聴の声は彼の脳裏にこびりつく。
「ユルサナイ……ユルサナイ……」
安寧も正気も、他の何もかもを失った彼に対して、幻聴の声はなおも脳裏に繰り返し鳴り響く。
「ユルサナイ……ユルサナイ……」
すべて失った彼は幻聴の声が何を許さないのかを、ついに知る。それは彼の人生。生きていること。それを幻聴の声が許さないのだ。
「ユルサナイ……ユルサナイ……」
何故、幻聴の声は彼を許さないのか。それは彼が罪の加害者だから。彼の罪の被害者の怨念が彼を許さなかった。
「ユルサナイ……ユルサナイ……」
彼によって殺された生命。何故、自分を殺した彼がのうのうと生きて、自分は何故殺されたのか。それが許せない。だからこそ、怨念となって、幻聴として彼に取り憑いたのだ。
「ユルサナイ……ユルサナイ……」
死んで気付いてももう手遅れ。全てを知る裁き主は彼のことをどう感じるか。それは誰にも分からない。
新たなる生命か。それとも、無に帰すのか。結末は誰にも分からないーー。




