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プロローグ
ミーンミーンとアブラゼミがなく声が聞こえる。
太陽を名一杯浴びた草を踏むと夏らしい草の匂いが漂ってくる。
ここは山の中。誰もいないし、人工物も殆どない。しかし、ここには一つだけまるで溶け込むかのように人工物があった。
墓である。
名前も何も書いていない。ただ石が積み上げられているばかりで、あまりにも簡素すぎる墓である。
そしてこれがあるのは山の中腹あたりでこの場所を知らなければ見つからない場所にある。
そこに一人の少年が花束を持ってやってきた。
『久しぶりだな、元気だったか?』
一年ぶりに来た墓場には薄暗いはずなのにあいつが植えていった季節外れの黒いチューリップがやけに光って見える。
俺はその墓の前にあいつが嫌いだった紫苑を置く。
『今年も持ってきてやったよ』
ざまあみろ、俺の嫌いな人
これはある少年の物語