そのよん:魔導卿と山ノ神
召喚被害者にも家族はいるわけでして。
今回は寺井の兄・和亮視点でお送りします。
健司の勤務先は小売業ではないから、年末年始は休みである。当然、休暇はとるべきだろう。
そう言ってやったら、画面の向こうで弟がため息をついた。
『仕事量をセーブしてはいるんだよ、これでも』
着ている服からすると、「あちら」にいるのだろう。
男がレースのついた服を着るというのはどうにも変な感じがするが、映画『アマデウス』の衣装でも見ているつもりになれば、気になるほどではない。地黒で彫りの深い顔立ちの弟だから、これはこれで様にはなっているし。
「連休もそっちで仕事だっただろう、少し休みもとったらどうだ」
余計な口出しはしない方針だから黙っていたが、弟が春からほとんど休んでいないことに気がついたのは妻だった。
そろそろ言ってやった方がいいだろう。
「過労死したら困るだろ」
『……そうだなあ』
あまりはっきり言わないという事は、つまり。
「なんだ、自覚あるんじゃないか」
『睡眠時間は頑張って確保してるつもりだけどね』
「おい、それ洒落になってないだろ」
これは絶対に休息できていない、と確信した。
『うん、まあ、そうとも言うかな』
「正月はどうする気だ、そっちで仕事ってのは無しにしろよ」
『そうしたいところなんだけどねえ……』
「いいから空けろよ。それに大掃除はどうするんだ」
『あ、それはもう業者に頼んで終わらせた』
「ならいいか。とにかく、三が日くらいは働くなよ。食事はうちでとればいいから」
『挨拶に行けってことでいいかな』
「おう、来ないとヨメがキレるぞ」
『はいはい、りょーかい』
多少強引な真似をしてでも休ませないと、まずそうだった。
──────────
拉致された国のために働いてやるなんて、人が良すぎる。おまえは何を考えているんだ。
父親が健司にくどくど言った説教をまとめるとこれだけの事だが、後期高齢者と呼ばれる年齢になった親父の話は長かった。
「はいはい、お義父さん、ストーップ」
その父を止めたのはいつもどおり、妻だった。
「健司君にだって事情はあるんでしょ?」
「しかしなあ」
「お義父さんばっかり話してたら、いつまでたっても健司君の話、聞けませんよ」
「親としては心配だろう」
「だから、悪かったって」
苦笑気味に白旗を揚げている弟は、父の小言をどうやり過ごすか考えているだけだろう。
昔から興味のないことは全力でスルーする、良い性格してるし。
「悪かったと思ってるなら」
「お義父さんしつこいです」
割って入った妻が一刀両断。
「しかしなあ眸ちゃん」
「健司君の話を聞いてから、またお説教すればいいでしょ?」
黙れとは言ってませんよ?
にっこり笑った妻の背後に、般若が浮かんでいるように見えた。
「あ~、その、……怒ってます?」
弟も何かを悟ったらしい。
「怒らないわけがあると思う?」
「……理由をお聞かせいただけると、ありがたいんですが」
口調がかなり丁寧になってるから、もちろん本人も理解していると見た。
「健司君、バカなの?」
とはいえ、しょっぱなからそれは厳しすぎるんじゃないかな、と和亮は遠い目になった。
「君、今回も被害者でしょ?過労死するほど働く義理が何処にあるのよ」
「まだ死んでません」
思わずツッコミを入れたのだろうが、逆効果である。
「労働時間を考えなさい!過労死ラインでしょ!」
「一応、睡眠時間は確保……」
「働きすぎです」
手にしていた箸を下ろして、妻はきっぱり断言した。
「健司君の労働時間、あっちの時間込みでも残業100時間相当以上だから。これ過労死するからね?」
「うーん、昔に比べたら減らしてるんだけど」
「だ・か・ら、昔が異常なの!今も十分異常です!過労死する前に生産効率落ちるからね?!」
さすが小なりと言えども経営者。弟が真面目に聞く気になるだろうポイントを突いている。
「え、そうかな?」
「こっちの仕事に影響出るんだからね?」
「う~ん、それは困る」
「君が優先すべきは君の人生でしょ!どっかの犯罪国家じゃなくて!!」
お説教するなと言ってたのは妻のはずなんだが。しかしそれを指摘する勇気は、和亮にはなかった。
もちろん、隠居ジジイのような顔をして数の子をポリポリやってる父にもないだろう。
触らぬ神にたたりなし。
「あ~、犯罪者一味なら一度潰してあるんだけどね……今やってるのは事後処理というか何というか……」
「あっちの人間にやらせなさいって言ってんの。お・わ・か・り?」
「鋭意努力します」
友達のところに出かけていた娘が帰宅するまで怒涛の説教が続いたのは、健司の自業自得だった。
兄の眼から見たら 魔導卿 vs. 山ノ神の対決ですが、もちろん分があるのは妻のほう。
家族の目から見ると、召喚を行った国は「身内を拉致して強制労働させた犯罪者集団」ですから、容赦する必要があるとは考えてません。




