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異世界召喚被害者の会。閑話集  作者: 中崎実


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5/19

そのご:となりのゴ○ゴ。(岸視点)

バーラン王国に顔を出してるヒマもあまりなかった魔導卿(てらい)ですが、実はその頃日本では…

『駅の階段から落ちた?』


 通話相手の寺井が微妙な顔をしているだろうと容易に想像できる声が、スマホ越しに聞こえた。


「仕事どうしましょうかとの事ですが」


 怪我をした本人である山野(やまの)は診察室の中だし、同行者は岸しかいない。しかたなくそう伝えると、


『そこは気にするな、治療優先だ』


 と、ノータイムで返事が返ってきた。


『どのくらいの怪我なんだ』

「捻挫じゃなくて、骨が折れてたそうです」


 客先から戻る最中、駅の混雑の中で誰かが引いていたキャリーをぶつけられて転倒、そのまま落ちた先が良くなかった。着地しそこねたと言っていたが、捻挫じゃなくてナントカ骨折という奴だったらしい。

 ちなみに、ぶつけた人間は混乱に紛れて逃げてしまった。


『ああ、それじゃそのまま入院だろうなあ。労災だから総務には私からも伝えておくけど、あとで山野君からも連絡を入れさせてくれ』

「はあ。あの、なんかやる事ありますか」

『岸君はとりあえず、必要がなくなるまでいてやってくれ。必要事項があればこちらにも連絡。ご家族への連絡は?』

「あ、忘れてました」

『必要ならそこは代行してやってくれるかな。聞きたいことは他にあるか』

「ええと、無いと思います」

『わかった、なんかあったらまた連絡してくれ』

「はい」


 かなりあっさりと通話は終了したが、もちろん、それ以外のことはそうあっさりとは終わらなかった。


──────────


 山野が抜けた穴を補うために中堅がサポートに入ってきた結果、オフィスの威圧感が増した。


「慣れたか?」


 シニアマネージャーの楠木(くすき)に聞かれたが、首はもちろん横に振る岸だった。


「なんというか、無言の圧力が、隣の席から」


 原因はもちろん、出勤してくることが増えた寺井だ。

 入院が必要になった山野の穴を埋めるために中堅の仕事が増えた結果、そのバックアップとして寺井の出番も増えた。業務としてはリモートで出来るものが多いようだが、この十日ほどは会社で見かけることが多い。

 山野が出勤できるようになるまでの措置だと判ってはいるが、まだ慣れない。


「寺井さん迫力あるからなあ」


 どうやら、楠木も理解はしているらしい。


「席替えできませんか」


 隣席との間は120cmのパーティションで区切られているので、立ち上がれば当然、顔が見える。ちょっと緊張するのは仕方ないと思いたい。


「無理」


 あっさり言い切られた。


「岸君も寺井さんも機材多いから、無理だよ」

「うえぇ」

「そーゆーこと言わない。聞かれたらどうすんだ」

「気にするの、そこですか」

「うん」


 地味にひどい言い草だった。


「それに物理で出勤しててくれると、いろいろ聞きやすいだろ」

「便利といえば便利なんですけど」


 会社で取り扱う製品のうち、元は軍用だろうとしか思えない一群は、最初に寺井が開発したものだと聞いている。開発者自身がその場にいればたしかに話はしやすいのだが、話す機会が増えた分、微妙な発想の違いがよく目立つようになった気がする。

 そう言うと、楠木もうなずいていた。


「岸君も気がついてるだろうけど、あの人うちの会社に入るまで、民生品の開発したこと無いと思うよ」

「……デスヨネー」


 いささか棒読みになるのは当然だと思いたい。


「純粋に開発だけやってた、て感じでもないですよね」


 寺井の発想はたいてい『使う場面』を想定している。

 未経験者であれば自力で考えるところではなく、使用者からヒアリングしないと作れない部分もあるはずだが、あきらかに経験に基づいた判断を下していることもある。諸々を考えるとやはり、寺井は『現場の人間』だ。


「『現場』の経験はありそうだよなあ……ま、詮索(せんさく)するのは俺らの仕事じゃないけどね」

「それもそうですね。それで席替えは無理ですか」

「頑張って慣れような?」

「微妙に鬼ですよね」

「あとしばらくだからさ」

「山野、早く帰ってこないかなあ」


 山野が復帰すれば少し変わるだろうと期待したい。退院予定は明日だと聞いているし。


「あ、山野君はしばらく在宅勤務になるから。寺井さんにはもうちょっとオフィスに出てきてもらうよ」

「マジすか」


 楠木のコメントに、岸は思わずそう言っていた。


「山野君の通勤経路、新宿駅での乗換えがあるからな。しばらくは通勤ラッシュ避けたほうが良いだろ」

「あー、そっか」


 岸だって、あの鬼のような混雑の中を松葉杖で歩くのは避けたい。


「寺井さんには言ってあるんですか?自称ヒキコモリじゃないですか」


 引きこもるような人間は普通、イスラエルまでほいほい出張したりしない。

 というわけで、寺井の自称はツッコミどころ満載である。直接言うのは怖いからやらないが。


「寺井さんから言ってきたし大丈夫。ほら、自分が足悪いから、あの人」

「あ、それもそうですね」


 本人曰く今は走れないだけだそうだが、周囲から見るとそれだけでは済んでいない。寺井は今でも正座ができないから、座敷での飲み会には絶対に参加しないし。


「というわけで、慣れような」


 結論はあまり嬉しいものではなかった。

会社の若手からすれば「うえぇ」としか思われてないオッサンの図。

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