意図された遭遇2
「三鷹のやつ…本当にお昼来る気なのかな…いやいや…まさかね。どうせ遊び人の気まぐれ発言なんだから!」
私はぶつぶつと独り言を呟きながらも食堂へ向かった。いつも頼むランチを頼もうとしたが、今日に限って既に売り切れてしまっていた。
今日はとことんついてない…そう思っていた矢先
「よっ、音。一緒にご飯食べようぜ」
既にランチを買ったのだろうお盆を持ってニコニコと三鷹が話しかけてきた。
しかも、そのお盆に乗ってるランチは私がいつも食べているものだった。
「あっ!!アンタそれ食べるの!?アンタが頼んだから私が食べれないじゃない!」
「ん?なんだ音もこれ食うの?俺もいつもこれなんだよね。」
最悪、よりによってこんな奴と毎日同じランチを食べていたなんて…!!
「それもう売り切れて食べれないんだから!!アンタが買ったからでしょ!!どうにかしなさいよ!!」
「んー…じゃあさ、半分こする?」
「しないわよ!!!!」
三鷹は面白そうに言ってきてるが冗談じゃない。コイツと半分こをしたら私に女たらしの毒が移る!!
「でも何食べるの?もう売り切れてるんだろ?」
「うっ、そ、それは…」
この学園に入ってから、ランチといえばこのステーキセットしか頼んでこなかった。新しく冒険をするのが苦手で、安全を取りたいから。
メニュー表を見ても今ひとつそそられない。
「…仕方ねぇな。これお前にやるよ。」
「…は!?な、なんなの急に…毒でも盛った…?」
「盛らねぇよ!俺をなんだと思ってんだ!」
「な、なんなのよ何が目的なの!そうやって譲ってどうせお詫びになにかしろとか言ってくるんでしょ!その手には乗らないんだから!」
純粋な親切心かもしれない、けれど相手が相手だから簡単には信じられないのだ。
「…はぁ、んなことすっかよ…これしか食いたくないんだろ?半分とかしなくていいから食えよ」
三鷹はそう言うとお盆を押し付けてくる。私はそれを反射的に受け取ってしまう。三鷹が持っていた場所が温かくて…気持ち悪い。
「俺他にいつも頼んでるやつあるから。おばちゃん、俺このパスタセットにする」
「三鷹くん、ごめんねぇ、今日はもうそれうりきれちゃってるんだ」
「は、はあ?売り切れ?じゃあこれは?これは?」
次々メニュー表を指さしていくがどれもことごとく売り切れだった。まあ昼休み入って少し時間が経っているし、ほとんど売り切れなのだろう。
「くそ…マジかよ…俺朝ごはん食ってねぇのに」
このままじゃご飯抜きだろう、いい気味。
…そう思っていたが、私はご飯を譲ってもらってる立場で、もしこれを譲ってもらってなかったら私がご飯抜きになっていたところだった。
ここで突き放すのも流石に可哀想か…?そう思いながらもどうすればいいのか分からない。
「わりぃ、俺外で食ってくるわ。」
ため息をつきながら背を向けた三鷹。
私はつい、うっかり声をかけてしまう。別に他意があるわけじゃない。ただ…ただ、このままじゃ私が最悪な人間になってしまいそうだから。
「…三鷹、その…えっと…半分にする?」
ーーーーーーー
最悪だ、カッコつけて譲ったのに、あろうことかどれも売り切れ。最高にダサい。
譲ってやったのに相変わらず可愛げねぇなコイツは…仕方ない諦めるか。
「三鷹、その…えっと…半分にする?」
「!!!!」
花海からそんな言葉が聞けると思っていなかった。ざまぁみろ、とでも言われたのかと思っていた。幻聴か…?
いや違う、確かに聞いた。それに少し恥ずかしそうな顔をしてる辺りかなり勇気を出して声をかけてくれたのだろう。
「…いいのか?お前さっき嫌がってたじゃん」
「そ、それは…全部売り切れだとか思ってなかったから…べ、別に!三鷹を気遣ったわけじゃなくて!!私が最低な人間になるから!だから!半分こにするって言ってるんであって!!」
顔を赤くしながらも必死に言い訳をする花海。
なんだか可愛らしく感じて俺はつい表情が緩んでしまう。
どんな時にも完璧な笑顔で女の子を落とすこの俺が。こんなガキ相手に…
「そっか、ありがとな音。じゃあ早く席座って食べようぜ。時間なくなっちまうだろ?」
俺は花海の背中にそっと手を添え、エスコートするように空いてる席へと連れて行った。
ポケットにしまった記事が熱をもってる気がして、心が落ち着かない。
向かい合って席に座り、俺はステーキを小さく切ってあげる。
「はい、音。あーん。」
「!?だ、誰がそんなんするもんですか!!取り皿とフォークもらってくるから!!」
花海はすごく嫌そうな顔をしながらもカウンターまで小走りで行ってしまった。
その姿を見ていると自然と口角が上がってしまう。
俺は花海が帰ってくるまでにステーキを切り分けておくことにし、手際よくステーキを切る。
女のためにステーキを切ってあげるなんて、そんなこと今までしたことない。
女に迫られても適当にはぐらかすだけだったから。でも何故だか、花海相手ならこんな甘ったるいこともしてやれる。
「取ってきた。私ダイエット中だから少なめでいいよ」
「は?ダイエット?お前どこに痩せる肉あんだよ。骨になるつもりか?」
ただでさえ細いのにダイエットなんかしてしまったら正直心配だ。
…心配?なんで俺がコイツの心配をしてんだよ…俺は花海を落として惚れさせたら捨てる。その為にコイツに近づいてるんだ。
心配なんかしなくたっていいはず。
違う、本当は…
「ちょっと、手止まってるんですけど。」
花海に声をかけられハッとする。
「わりぃわりぃ、痩せる必要ないから、たっぷりのせといてやるよ。」
いつものお気楽な調子を必死に取り繕いお皿に手際よく肉を分けていく。
なんで俺がこんなにも心を掻き乱されているんだ。
「はい、いっぱい食えよ。」
「ん、どーも。」
そっけないのにどうしてこんなにも愛らしく見えてしまうのだろう。
その答えはまだ出ていないが、メニューのほとんどが売り切れていて良かったと心のどこかで思ってしまっている自分がいる。
そんな自分を隠しながらも俺は花海とのランチを楽しんだのだった。




