その二十二
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横溝正史シリーズ、テレビも映画も。最初はテレビで、後になってからはビデオ屋さんで借りて、何度も観ました。トリックではなく人間の想いの切なさの方が私の心に喰い込みました。恐るべき力です。その時のシーンも音楽も私の心に焼き付いていて消えません。極端な言い方ですが私はあれが『人間が生きる事』なのだと思います。あの切なさ、あの想いの強さ、深さを忘れない事が生きるという事なのだと。
最初に観たのは私が小学校五年生の時でした。そして私は人が別の人間の一生を狂わせる、それも回復し難いまでに狂わせ壊してしまう事を知りました。自分の中に在る大切なものは日々刻々目を離す事無く作物を育てる様に慈しみ守らなければならない、そういう事を教えてもらったのだと思っています。あの人間の情念の精髄、そしてその破滅的展開とでも謂うべき恐ろしいお話で私が感じ取ったのは、どこまでも人間的でそして不自然な程に強く倫理的なものでした。これも多くの人とは違う私の一面を示している徴表であると思います。しかし私は私。自分の感じ方のまま、それで深く深く感じたまま、それと共に一生を生きて行きます。恐いです。しかしここで退く事は私自身への裏切りです。
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あと一年足らずで私は現在の職場を去ります。六十歳を超えると一番早い定年扱いの退職が可能になるので、その最速の辞職で母の介護を在宅でちゃんとやりたいからです。やっと、老いた母の傍に居る時間を大きく増やせます。これだけでも私は大きな重荷を一つ下ろす事が出来ます。職場に居る時にはいつ母から連絡があっても帰る事が出来る様常に工夫準備していますから。これは十年以上続く私の『緊張』です。
しかし出来れば母の介護以外に、若い頃に買ってまだ読んでいない本を読みたいです。文学書哲学書、在宅で母の介護をしつつ母の昼寝の時間の家事の合間にでも。それだけでも私には途方も無い贅沢です。屹度多くの気付きと深い喜びがあるでしょう。それらを読みつつ私は自分の役目を果たし終える時の来るのを待ちます。願わくは吾が辿る道が、そのまま亡き父の吾を待ち給える天へと続く階梯ならん事を。
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