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笑顔と恋と ※BLです※  作者: 舘城凛


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「あっ、やっと来たわね」


 トイレに行ってから学童保育所へ向かうと、葛城さんが俺を待っていた。すぐに駆け寄る。


「すみません、どうかしたんですか?」

「今朝は時間がなくて伝えられなかったけど、今日から新しい子が学童保育所に入るのよ」

「そうなんですか」

「それで、この場所を担当する朝海君には紹介しておこうと思って」


 葛城さんがドアを開けると、そこに水色のワンピースを着て髪の毛が茶色い女の子が立っていた。かわいらしい革の靴を履き、キャラクターがプリントされた手提げ袋を持っている。ハーフのような顔立ちだ。


有沢ありさわセラちゃんよ」


 葛城さんから簡単な書類を受け取る。書類には両親が離婚して母子家庭だと書かれていた。


「よろしくね、セラちゃん」


 セラちゃんは人見知りが激しいのか、葛城さんの後ろに隠れている。

 見上げてくる不安そうな瞳を見て、俺は自分の失態に気づく。長身の人間を前にしたら、人見知り以前に怖いと思うはずだ。

 セラちゃんの前にしゃがむ。


「ごめんね、セラちゃん。これからセラちゃんのお迎えが来るまで一緒に過ごす、朝海悠真って言います。よろしくね」


 セラちゃんは前に出てきてぺこりとお辞儀をすると、また葛城さんの後ろに隠れてしまった。


「朝海君。セラちゃんを頼んでも良いかしら。さくら組にセラちゃんの弟の隼人君が入ったからそっちに行きたいんだけど」

「はい、大丈夫です」

「そ? じゃぁよろしくね。小学生はまだ春休みだから来ないけど、確か今日はあと三十分くらいしたらもう一人来るはずよ。何かあったら呼びに来て。すぐに行くから」

「わかりました。ありがとうございます」

「ここのことは、本棚の脇に置いてある紙を見てね」

「わかりました」


 葛城さんは足早に渡り廊下を通って、保育園へ戻った。俺が学童保育所に着くのが遅くなったから、ずいぶん時間を取らせちゃったみたいだ。


 ……俺はもっと、社会人としての自覚を持たないと。


「セラちゃん。お靴を脱いで上がろうか」


 セラちゃんは元気よく頷き、靴を下駄箱に入れる。セラちゃんと手を繋いで本棚の前に行くと、くいっと指を引かれた。


「どうかした?


 セラちゃんは本棚をじっと見つめて、それから俺を見上げてきた。


「本、読む?」


 俺の問いかけに、セラちゃんは目を輝かせながら頷く。でも学童保育所内はマットも椅子もない。フローリングの床があるだけだ。どこにあるのかと思い、葛城さんの言葉を思い出す。

 本棚の脇に、学童保育所のことが書かれた数枚の紙がかけられていた。


「倉庫にあるのか。セラちゃん、ちょっと待っててくれるかな?」


 紙には小学生が来る前の準備、何時頃に来るか等ということの他に倉庫のことも書かれていた。小学生が来る前に、倉庫の中に入れられている机やマットを出さなければいけないらしい。

 そして倉庫の鍵は、職員室にあるとのこと。


「セラちゃん、すぐに戻るからね」


 セラちゃんに話しかけても、すでに読書に没頭してしまっている。何も敷かれていない床に座りこみ、夢中になってハードカバーの本を読んでいるようだ。

 あの様子だったら少し席を外しても大丈夫かと思い、俺は急いで保育園へ向かう。職員室から鍵を取って倉庫を開け、ひとまずマットや椅子を取り出した。


「セラちゃん」


 話しかけても反応しないセラちゃんを抱きかかえ、マットの上に下ろす。セラちゃんはそのまま、ページをめくる以外は体を動かさなくなった。


 今の内に学童保育所内のことを把握しておこうと思い、詳細が書かれた紙を見ながら中を歩く。

 小学生が来るのは早くても十四時。その前に簡単な掃除を済ませ、机やマットなどを所定の位置に出しておくこと。


「こんにちは」


 学童保育所内を一周する頃、小学生にしては少し声が低いと感じられる声がした。入口を見ると、細いが身長はある男の子が立っていた。


「こんにちは。四月からここを担当することになった朝海悠真です。君は?」

「今年の春に小学四年生になる、鶴岡健太つるおかけんたといいます」

「健太君か。よろしくね」


 健太君は躾が行き届いているらしく、俺に一礼すると靴を揃えて下駄箱に入れる。両親が忙しいのか、片親なのか。健太君は小学生らしからぬ礼儀正しさがあった。


「健太君は何時頃家の人が迎えに来るのかな?」

「十八時頃だと聞いています」

「そうか。じゃあそれまで、もう一人の女の子と仲良くしてくれるかな」

「はい」


 健太君をセラちゃんのもとに連れて行く。すると健太君はセラちゃんから少し離れたところで足を止めた。


「どうかした?」


 問いかけても、健太君は何も反応を示さない。目の前で手を振ったり指を鳴らしたりしてみても無反応だ。もしかしたら女の子が苦手なのかもしれない。だとしたら、無理なお願いだったかな。


「セラちゃん」

「?」


 丁度話の切れ目だったのか、セラちゃんは首を傾げながら顔を上げてくれた。

 水色のワンピースが広がり、足を伸ばしているその様子は、まるで人形のようにかわいらしい。


 すっと、気配を消すように健太君が一歩後退する。どうしたのかと思って健太君を見ると、顔がうっすら赤くなっていた。

 健太君はセラちゃんを凝視したまま、動かない。よほどストライクゾーンだったのか、セラちゃんを見たまま五分以上動かなかった。


「健太君。セラちゃんは君の二つ下の二年生だから、ちゃんと見てあげるんだぞ?」


 俺が言っても、相変わらず健太君は動かない。見られ続けているセラちゃんは、おびえるような目を見せていた。このままではいけないと思い、俺は健太君の脇をくすぐった。


「わっ」

「気づいたか。セラちゃんがかわいいのはわかるけど、人の話を聞けよ?」

「あ、はい。すみません」

「よーし、健太君。いや、健太。君をセラちゃんの世話係に任命しよう」

「わかりました。セラちゃんが早くなじめるように頑張ります」


 おどけて言ったのに、健太は真面目に返してきた。それが彼の性格なのだろうと思い、健太の頭を撫でる。


「頼んだぞ、健太」


 健太はまだセラちゃんを見ていたけど、セラちゃんは本に意識を戻してしまっていた。






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