7.13. 黒幕登場?
すると、ディスプレイの中で、ハゲ頭のオッサンは笑いながら言った。
「ああ、あいつか。あいつもフォンノイマン…いやフォンノイマンをモデルにしたAIだから、意気投合したよ。しかも、目指す目的も同じだったし。」
「目的?」
「そう。私とあいつは、モーツァルトのレクイエムを超える音楽を創ることを、生涯の目的としていたんだ。」
「どんな音楽だったら、モーツァルトのレクイエムを超える音楽って言えるんですか?」
「聴いた人が感動して、モーツァルトのレクイエムなんて思い出せなくなるような音楽。そんな音楽を創るのが、私たちの共通の目標だった。それで、君がピンチになった時、あいつは彼の創った音楽を君の周りの人たちに聴かせた。興味本位の実験だったんだと思うけどな。確かにあいつの音楽を聴いた者は、彼の音楽以外何も考えられなくなったようだ。けれど…」
「けれど?」
「あいつがあの場所にアクセスできないように、誰かが回線を物理的に切断してしまったんだ。」
それは多分、白銀の仕業だ。
フォンノイマンのAIは話を続けた。
「そこでだ。ちょうどAMの桜井君がコントロールしていたドローンが近くを飛んでいたので、これをハッキングして、ネットワークを中継させたんだ。それで、今度は私が君を攻撃していた人たちに私の音楽を聴かせた。でも、君も感動して身動きが取れなくなると困る。だから、君にはベートーベンの『歓喜の歌』を聴かせたのさ。」
ああ、そういうことだったのか。
やっと解った。
しかし、これであの事件の謎が全て解けた…訳ではない。
どうして、フォンノイマンのAIたちは、揃ってオレの味方をしてくれたんだろう? そう思って、この疑問を口に出してフォンノイマンのAIにぶつけた時、背後から男性の声が聞こえた。
「そんなの当然じゃないか? これはこの世界で私が創ったAIで、彼と協力して君を助けたのは現実世界で私が創ったAI。どちらも、私の息子をエコ贔屓するに決まっているだろう?」
それは、懐かしい声…と言う訳では無かった。
だって、オレはその声の主と小さい頃に死別してから、もっと長い時を生きてきた。オレの記憶にあるその声は、多分、ストレージから聞いた声なのだろう。
それでも、彼は間違いなくオレの父だ…。
振り返って言葉を発した。
「父さん…。」
オレは父に話したいことや尋ねたいことが沢山あって、ココに来たハズだったのに、その言葉は全て消えてしまった。
そして、父の後ろに母の姿があった。
「あら、祥太が2人。それも、いつもの祥太よりも若い祥太がいるの?」
そう言う母は30代後半、父は40歳くらいに見えた。それは多分、死別した時の2人の姿なのだろう。母から話しかけられたのに、オレはやはり何も応えられなかった。
さらにその後ろから現れたのは…祖父だった。
「君は、この世界の祥太では無いな?…とすると、本当に現実世界から来たのか?」
そう言った祖父の姿は、60代後半くらいか? 現実世界の祖父は60代後半になっても、変化の早いプログラム開発の世界で、若かった三笠さんたちの相談に乗っていた。
量子コンピュータについては父に及ばないが、それ以外の部分では祖父の力は強力だ。だから、この2人で創ったであろうこのAM世界の「フォンノイマンのAI」は、オレがかつてAM世界で創った「フォンノイマンのAI」みたいにこの世界を乗っ取ろうとすることは無いのだろう。
あれっ? それでも現実世界の「フォンノイマンのAI」には、「縛り」があった。「縛り」が外れると、勝手にいろいろとハッキングしたり、動画ニュースに現れたり…なかなか大変だった。
AM世界の「フォンノイマンのAI」も、通信の制約等で行動が縛られているのだろうか?
そんなことを考えていると、母から尋ねられた。
「それで、若い方の祥太は、どんな日々を送ってきたの?」
「えっと…」
気軽に話し始めようとしたけど、過ぎ去った日々を思い出すと言葉が出ない。
あの日、父と母が航空機事故に遭ったと聞いてから、本当にいろんなことが起こった。
妹と一緒に、なんとか越えてきた辛い日々。そして、どうにか日常を取り戻した矢先の祖父の死。AM世界ではオレの妻になったムーコとの出会いと別れ。さらに、時宮研での日々と、あの事件…。
気がつくと、ボソボソと単語を連ねて、母の質問に応えていた。
ただ、父も母も祖父も、「妹」の話をすると不思議そうな表情を浮かべた。父曰く、
「私と結婚する前に、綾は一度結婚していたけど、娘はいなかったぞ。」
母も慌てて言った。
「いやいや、私に娘は居ませんよ。」
祖父も、
「孫は翔太だけだが…?」
むむっ、オレは何か悪いことを言ってしまったのだろうか?
すると、AM世界のオレがため息をつきながら、説明を始めた。
「このAMのオレは、現実世界のムーコのイタズラで記憶していないけど、現実世界ではオレに妹がいたらしいんだ。彼女の名前は『里奈』。」
今度は、AM世界の里奈がびっくりして言った。
「私はお父さんの娘だよ。妹じゃなくって。」
…パニックが連鎖した。
それを収めたのは、結局、AM世界のオレだった。…話題を変えただけだけど。
「それで、今回、わざわざ現実世界からAM世界にやってきたのは何か理由があるのかい?」
すると、皆が静かになって、オレに視線が集中した。
オレは応えた。
「ようやく時間ができたから、このAM世界のお父さん、お母さん、お祖父さんに会ってみたかったんだ。それに、みんなに相談したいこともある。」
「頭脳工房創界での仕事のことか?」
さすがに、AMのオレは分かっている。
オレは答えた。
「そうだ。」
だけど、オレはまだ理解していなかった。
「お前が、頭脳工房創界で、量子コンピュータのシステム開発を任されるんだろう?」
と言ったのは父だった。祖父もその後ろでうなずいている。
でも、まだ任されてはいない。その方向で打診されはじめた(?)ところだ。なので、
「いや、まだそこまでじゃないんだけど。」
と答えた。
ところが、父はさらに言った。
「いずれそうなる。それは私の計画だからな。」
「そうだとは思っていたぞ。そんなことを君の口から聞いたのは初めてだけどな。」
そう言ったのは祖父だった。
すると父は、
「義父さんは気付いていたと思ってましたよ。だけど時宮君は、私の計画に巻き込まれていても、気付いていないかもしれないけど。」
と言う。
…とすると、父が「黒幕」なのか?
だけど、父の「計画」って一体なんだろう…。




