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5.推しの全てを受け入れるのがファンの鑑

 二人の記憶と照らし合わせると、グレイシア断罪イベントまであと一か月ほどだった。ユーリオは王子と問題の女の子の周辺を探り、ミレアはグレイシアの味方を増やすために他の令嬢たちとおしゃべりをしながら、さりげなく根回しをしていく。


 そして友だちになろうと言われてから、ミレアはグレイシアからお茶に誘われるようになっていた。恐縮なうえ、これ以上推しと関わっていいのかと揺れるミレアだが、断れるはずがない。


 一度ユーリオも誘ったのだが、「俺は推しと会話するより壁になりたいから」とキメ顔で断られている。だが、ミレアがグレイシアと会った後には質問攻めにされ、「グレイ様尊い」と連呼するのだ。推しへの愛の向け方は人それぞれである。


 そして、計画は順調に進み、断罪イベントまで一週間に迫ったころ。ミレアは今日もグレイシアとお茶の予定があり、学園のサロンでグレイシアを待っていた。だいぶグレイシアと仲良くなり、ミレアの心臓も強くなって推しを目の前にしてもある程度普通でいられるようになっている。

 たいていグレイシアが先にいるのだが、今日は少し用があったらしく従者が先にもてなしてくれていた。


(まあ、ゆうがいると調子狂うからいいんだけど)


 グレイシアはお茶をする度にユーリオのことを聞いてくる。ユーリオに興味があるというよりは、幼馴染というものが好きらしく、ミレアは照れ臭さを感じながら話していたのだが。


(なんか、変に意識しちゃうようになったじゃない)


 なんだか最近ユーリオといると落ち着かないというか、もやもやするのだ。


(ただの、幼馴染なのに……)


 悶々と考えこみながら紅茶を飲んでいると、ほどなくしてグレイシアがやってきた。だがその表情は浮かない顔で、ミレアは小首を傾げる。しかも向かいのソファーに座ったグレイシアは、小さくため息もついたのだ。


「あの、どうかなさいました?」


 推しの個人的な話に立ち入るのは気が引けたが、かといって尋ねないのも不自然な気がする。グレイシアはぬるめに淹れてもらった紅茶に口をつけ、一息ついてから「聞いてくれる?」と話し始めた。どうやら誰かに聞いて欲しかったらしい。


「またあの馬鹿がやらかして、その後始末をしていたのよ」


 怒りが冷めないのか、美しいグレイシアの眉間に皺が寄っている。馬鹿が誰を指しているのか、ミレアはすぐに理解し「心中お察しします」とグレイシアを労わる言葉をかけつつ、内心は「あの馬鹿、グレイたんに迷惑をかけるなんて身の程を知れ!」と吐き捨てた。


「私たちの婚約は政略的なものだし、乗り気じゃないのもわかるわ。それでも、愛人を作るならもっとうまくやりなさいよ!」


 積もりに積もったグレイシアの怒りが爆発する。ミレアは怒った顔も素敵と一瞬見惚れたが、今はそうじゃないと話を聞くことにした。


「えっと、何があったんですか?」

「あの馬鹿、今留学に来ている隣国の王子に、あの小娘を大切な人と紹介したのよ」

「うっわ……」


 本当に馬鹿ですねとは、さすがに不敬罪になるので慎んだが、グレイシアには伝わっただろう。


「せっかく今まで王太子という立場もあるから、私がお父様のお耳に入らないように問題を潰してきたのに、全部水の泡よ!」


 正当な婚約者であるグレイシアを軽んじられたとして、王家に次ぐ権力を持っているマーベラ家が抗議したらしい。珍しく語気が荒ぶるグレイシアを見るに、抗議などという簡単な言葉で済ませられる怒りではなかったのだろう。マーベラ家当主のグレイシア溺愛は社交界では有名な話だ。グレイシアは紅茶をぐいっと一気に飲み干し、彼女が好きなオレンジの皮が入ったクッキーをつまんだ。


「グレイシア様……本当にお優しく、王子のことを想っていらっしゃるのですね」


 ミレアだったら、王子にビンタして速攻でさよならをしている。あんなろくでなしの王子でも立て、支えようとしている姿はもはや美談である。グレイシアの苦労に想いを馳せると涙が出てきて、スカートのポケットにあるハンカチに手を伸ばそうとした時、淡泊な声が返って来た。


「あんなゴミ以下の男なんて、欠片も好きじゃないわよ?」

「……え?」


 照れ隠しでもなく、きょとんとした顔でクッキーを口元に運びながら、グレイシアは言葉を続ける。


「国王夫妻からじきじきに頼まれてなければ、だれがあんなのと婚約するのよ。昔からどうしようもなくて、国王夫妻も色々手を尽くされたのだけどどうにもならず、しっかりした婚約者がいればよくなるかとあてがわれたのが私ね。見込まれて婚約者となったのだから、尽力するのは当然よ」


 身も蓋もない話で、ゲームの中で熱烈な想いを王子に寄せていたグレイシアしか知らないミレアはぽかんと口を開ける。


「それに、アルにも兄をお願いって言われたから……」

「……アルと言いますと、もしかしてアルベルト様?」


 ゲーム知識の中にその名前はないが、ミレアは知っていた。この国の第二王子の名前だ。たしか今は隣国に留学に行っているはず。もともとあまり社交界にでない方だが、兄と同じ金髪と青い目、優しそうな顔立ちが印象に残っていた。


「そうなの。アルと私は幼馴染でね……」


 幼馴染。その言葉にミレアの心臓が跳ねる。自然とユーリオの顔が浮かんでしまい、そんな自分に戸惑う。グレイシアは昔を懐かしむような、それでいてどこか寂し気な表情をしていた。一瞬続きを口にしようか迷うそぶりを見せたが、ミレアと視線を合わせると、困ったように微笑んで人差し指を口元に当てる。


「内緒の話で、幻滅させるかもしれないけれど……聞いてくれる?」


 グレイシアは誰かに聞いてほしいのだろう。珍しく不安そうな表情を見せたグレイシアに、ミレアは元気づけさせたいと前のめりになる。


「グレイ様、私の気持ちはそんな軽いものじゃありません。一度推、応援すると決めたら何があっても、最後まで応援するんです!」


 これは、ドルオタをしていた親友の言葉だ。三次元のアイドルは二次元と違い色々ある。不祥事、熱愛発覚、結婚、グループ脱退などなど。だが、推しの全てを受け入れ応援してこそのファンだと豪語していた。推しが自分の理想と違ったからと言って辞めるようでは、ファンの名折れだとミレアも思っている。


 熱く言い放ったミレアに、グレイシアは目を瞬かせるとふわりと微笑んだ。抜群の破壊力で、ミレアは内心奇声をあげた。そしてグレイシアは「秘密よ」と麗しい笑みを浮かべて話し始めた。


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