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異世界に戻った異世界賢者の備忘録  作者: 夏
1章 転生と継承
9/98

4-3

貴賓室にもどり隣の部屋に備え付けのシャワーを浴び用意されていたローブを着こみ腕にはブレスレットのソウルオブサマサをつけて楽になるとソファに座りこんだ。

水差しの水を飲んでのどを潤す。

 やっと一息ついたな

ソファに座りつつ今後を考えた。

 この王都は落ち着いた。というよりもこの王国が落ち着いたようだ。

昨日のうちにこの国全体の魔素を魔法『グランドサーチ』を使い調べていた結果だった。

『グランドサーチ』は『サーチ』の上位呪文で超範囲の地図指定ができる上に魔素だまりを調べることができる空間呪文である。

 別の国に行く必要がある。行きやすい国は…中央のウイリアムズ覇王連合国か

中央のウイリアムズ覇王連合国とはその名の通り覇王が治めていたゆかりの地だ。中央に位置するだけあり西に位置するこの国はもちろん北や南なども交易がさかんで物流の中心でもある。

千年前に覇王が建国し統治していたが没後その統治を維持するため厳しい法整備と引き換えに各地方はかなりの大きな統治が許された、世界で一番長く歴史のある国だ。

ゆえに連合国と名がついている。通称を覇王国という。

中央には覇王城があるというが全景を見た者はいないという。

覇王没後、城も姿を隠してしまい伝説と化している。今、跡地は立ち入り禁止で名残があるという。覇王が帰還すると再び姿が現れるという。ある意味俺が行けば城が現れる可能性が高い。

今も配下の家臣の子孫がその城を守り覇王の帰還を待っているという。

一度は訪れる必要のある土地だ。

 やはり行ってみるか。スキルも変化があるやもしれんしな

ステータス窓を開けた。今のステータスだ。


リュウ=クドウ=マリノス

 職業=賢者・王者

  HP=1000

  MP=1000

  力=800

  素早さ=1000

  集中=2000

  魔力=1000

  魅力=1500

  運=800

 特技〈抜刀術・剣術・体術・全武具習得・無詠唱・魔術付与・魔道具作成=MAX〉

 呪文〈水・炎・熱・光・闇・土・風・空間・聖・魔・回復=全最上級習得済〉

 スキル〈鑑定・図鑑・言語自動翻訳・速読・暗記・道具収納EX・装備自動変換・特技呪文補助機能・手加減・魔力消費最適化・即時自動習得・浄化・完全防御〉

 固有スキル〈覇王の末裔・管理者の福音・管理者の祝福・覇王の結晶・王者の証(現在使用不可)叡智の結晶・覇王の覇道記(現在使用不可)・叡智の魔術記(現在使用不可)〉


スキルは手加減以外ほぼ変わらないがイヴの指輪を装備したことで魅力と運が出るようになった。

その上、イヴの指輪を装備したことで非表示されていた公式用の衣装とアクセサリーが山のように道具収納内に出現したのだ。その衣装は今日着た二つの装備も含まれるのだ。道具収納はその魂が発する魔力の質で個別識別されている。同じ質を持つ者はいない魔力は指紋や声紋と同じである。俺の道具収納は前世と前々世で同じ収納なのだ。普通は魂の洗浄で消えるのだが俺に洗浄はされていない。故に前世で使っていた道具がそのまま道具収納に納められている。わからない道具も多いのだ。

ステータスの数字は平均的に見ても高いらしい。

窓を出しつつ眺めているとドアにノックが聞こえたので返事を返すと入ってきたのはクリスだった。

窓を消しておれはクリスに声をかける。

「こんな夜更けにどうしたんだ?」

クリスはドレスと違い夜着と思われるラフな姿だった。背後には小間使いが一人後ろにいた。

クリスは俺の隣に腰掛けいった。

「お父様があなたにどうぞって」

小間使いがグラスを二つ取り出しそこに赤いワインを軽く注いだ。その小間使いはワインをもって部屋から出て行った。二人だけになる。

「気を使わなくてもいいのに…」

もらわないのは失礼にあたるので注がれたグラスを持った。

「お父様もそれだけ感謝しておられるのよ」

クリスもグラスを持ち俺の持ったグラスと軽く接触させる。

「ありがとう、いただくよ」

俺はありがたくワインを飲んだ。

クリスも同じように軽く飲む。

「さすがに美味しいな…」

上等なワインの味をかみしめているとクリスは俺をじっと見て聞いてきた。

「この後用事がおわれば王都を出るのよね?」

「ん?ああ。その予定だ」

「どこに向かうの?」

「…この国を出て中央に向かおうと思ってる」

「中央というとウイリアムズ覇王連合国?」

「ああ、一度は行かないといけないだろう国だな」

「そう…。寂しいわ」

クリスは持っていたグラスをテーブルに置く。

おれも飲み干したのでテーブルに置くと頭がふらついた。

 あれ?酔ったか。疲れているから仕方ないか・・・

頭を軽く抑えたがふらつきはなかなかおさまらない。

「少しワインに酔ったようだ。疲れてもいるし休みたいからもういいか?こんな夜更けに男の部屋に姫殿下が来るものじゃない」

言って立ち上がる。

が、ふらつきは悪化するほうで頭を押さえつつベッドに腰掛けた。

「う?」

 おかしい。酔ったとはいえこれほどのふらつきは変だ。指輪を使うか?

疑問に思っていると目の前にクリスが俺を見下ろしていた。

「いやよ。帰らないわ」

「は?」

俺はクリスの言葉に頭が追い付かなかった。

クリスは俺を押し倒して唇を奪い強引に大人のキスをしてきた。同時に俺のローブの紐をほどき素肌に触れる。

その感触が俺の体温を上昇させる。息苦しくなってもなおクリスはキスをやめなかった。

全身にクリスの柔らかい体を感じその感触に体が反応した。

そこで自分の体の変化にやっと気が付く。

クリスは口を解放させると頬を赤く染め陶酔するように俺を見つめていた。

おれは息が荒いままクリスに聞いた。

「さっきのワイン…何か入れたのか」

クリスは頷いた。

「父が事実を作れって…。私もあなたがいい…」

「………」

「愛しているの。貴方を…。離れてたっていい。側室だってかまわない。だから…」

それ以上クリスは口にしなかった。再び強引に唇をふさがれ言葉を奪われる。翻弄されてただ本気なのだと思い知らされた。

その後は十五歳の体ゆえに暴走した。この体では初めてということもあり制御できなかった。

薬の効果も手伝い暴走し、無理をさせてしまいクリスと一線を越えてしまった事実だけは痛烈に残った。



翌朝明け方近く目が覚めた。

全身の素肌からクリスの体温を感じた。隣に寝息が聞こえる。

しばらく身動きしなかった。身動きすれば起こしてしまうからだ。

そのままの姿勢で思った。

事実は変えられない以上受け止めようと覚悟を決めた。

結婚はしないが落ち着くところもない以上恋人にしかなりえない事実もまた変えられない。

 通信ブレスレットは複数あるから渡すか…

両親に渡したものと同じ魔道具だ。もちろん姉エルナも持っている。

そう決断したとき、隣でクリスが起きたらしい。

視線がかち合った。

途端にクリスは真っ赤な顔をしてか細い声で謝ってきた。

「ごめんなさい…。私…、あなたを離したくなくて…」

おれはクリスの頭を軽くなでる。

「もういいよ…。気にしていないから。クリスの気持ちに気が付いてなかったおれも悪いしな」

「でも…」

「きにするな。なるべくしてなったことだ。俺は君を拒絶する気はない。この関係も君次第だ。それよりもそろそろ自分の部屋に戻らないとマズイと思うぞ」

その言葉にクリスは慌てて服を着こみ部屋を出て行った。


数時間後指定されていた時間に食堂に案内されていた。

食堂に入ると直後にクリスと国王陛下ともう一人女性を伴って入ってきた。

「あなたがリュウ=クドウ=マリノス様ね。初めましてわたくしエリス=フォン=ヴェリアスよ」

「初めまして第一王女エリス殿下。リュウ=クドウ=マリノスと申しますお見知りおきを」

いうとお辞儀をし、差し出された手の甲に挨拶のキスを捧げた。

「ふふ。お噂はクリスティーナから聞いているわ。噂にたがわぬ整った容姿をおもちだわ」

「ありがとうございます。体調はよろしいのですね」

「ええ、ここの所、体調がいいのよ。きっとあなたのおかげだわ」

「それは良かった。魔素の汚れは過敏な方ほど重症化しやすいですから殿下の体調にも影響があったのでしょう」

挨拶もそこそこに朝食が始まる。


食事もほぼおわるころ国王は今後のことを聞いてきた。

「リュウ君はここに落ち着く気はないときいているので気になってな」

「そのことですが、実は先日浄化の後にこの王国全体の魔素状態を調べたんですが気になるほどの魔素の乱れは確認できなかったので王国に留まる理由がなくなったんです」

「というと?」

「俺は神より使命を二つ授かっています。一つ目は魔素の乱れを浄化し平定することです」

「魔素の乱れは魔物を生み出す。強い魔が生まれれば我らの営みにも大きな影響がある。それが少ないということかね」

「ええ、この国に関して言えばしばらくは強い魔物は新たに現れることはないでしょう。ですからこの国より外の国に目を向けなければならないのです」

「この国を出るということは分かった。だがどこに向かうか決めているのかね?」

「…自分探しも兼ねて中央に向かうつもりです」

「中央。…覇王連合国か」

俺は頷く。

しばらく無言が続いたが国王が不意に立ち上がる。

驚いていると国王は俺に頭を下げた。

「昨晩はすまなかった。君に不快な想いをさせてしまったことを謝罪したい」

昨晩と聞いて思い浮かぶ。

 ワインのことか

「頭をあげてください。気にはしてませんから」

「しかし」

「あ、気にしていないといえばウソにはなるけど。それでも頭を下げられると居たたまれないから」

「ありがとう」

国王はやっと頭を上げ椅子に座った。

「姫にも言ったことなんだけど、俺は創造神イヴに誓いをたてました。故に姫と結婚はできません。というよりも誰ともする気はないんですよ」

「伝説の覇王様と同じということですな」

 親子だな。同じこと言ってるよ

「そうです。でも彼女との関係も拒絶するつもりはありません。というのも二つ目の使命にもかかわることです」

「二つ目の使命?」

「ええ、現在浄化スキルを持つものは司祭の職業を持つ者の一部というのもご存じですよね?」

「もちろんだ。わが国でも王都にいる教会の最高位の一人しか持っておらん」

「司祭の職を持つものしか持っていないというのは神の意志ではありません」

「なに?」

「かろうじで神の意志で浄化スキルは維持されているということです。そんな少ない使い手では世界の魔素の乱れは浄化しきれない。もう破綻寸前なのだそうだ」

「それは…」

「そのために俺は…。いや異世界にいた覇王の魂は呼び戻されこの世界に転生させられました」

「初めて聞く話だ」

「でしょうね」

そばにあった飲み物で喉を潤した。

「もともと浄化スキルは覇王の末裔に受け継がれるべきスキルでした。覇王とは世界の浄化システムに必要な存在なんですよ」

「世界の浄化システム?」

俺は頷く。

「覇王没後この千年間一度として覇王の魂はこの世界で転生していませんでした。覇王の魂は異世界にあり、この千年の間に三度の転生があったそうですが異世界である以上その間この世界に浄化機能はほぼ機能していなかったそうです」

俺は視線を少し下げ己の手を見つめた。

「イヴに言われました。三度目の転生体である俺の……工藤隆の人生を終えたとき召喚され、この世界にこの自我をもって四度目の転生をこの世界で行うと。その際、二つの使命を授かりました。一つは魔素の浄化。もう一つはこの俺が持つ浄化スキルを広く子孫に残すことです」

「高貴な生まれの者にはより良い子孫を残すことは義務だが君のソレは我らよりも重要ということなのだな」

俺は頷く。

「でもだからといって先代覇王のように百人以上の相手は作るつもりはありません。本心でいえば俺はそばにいてくれる女性は一人でいい。だた一人を愛したい。でもそれは使命を考えると無理なのでそれなら誰とも結婚はしない。俺を本心で必要として愛してくれるのなら拒むことはせず大切にしようと決めたんです」

「筋の通る話だ」

「昨晩おれはその気になれば薬の効果を打ち消すこともできました。この指輪はあらゆる異常を防ぎ回復させる機能があるからこの指輪に魔力を込めるだけで拒絶できました」

クリスティーナは驚いた。

「でもそれはあえてしませんでした。彼女の本気を見たからです。おれが思う以上に彼女は俺を愛してくれた。その想いに応えただけです。そして詳細を語った理由も国王陛下、あなたはこの世界において五大大国の一つヴェリアス王国の国王だからだ。知っておくべきと判断した」

俺は立ち上がりクリスティーナのそばに近づく。

「君が俺を想って必要とされる限りおれは君の恋人になろう。これはその証だ」

おれは通信用のブレスレットを懐からだしてクリスの前に置いた。

「これはブレスレットね。随分とシンプルなデザインだけど?」

「俺がゼロから作った魔道具だ。おそらく世界中探しても似たような魔道具は存在しないと思う。これは家族にしか渡していないものだけど君に渡しておく」

「魔道具ということは魔力を通せば何が起こるの?」

「それは俺の魔力と繋がっている。どんなに遠く離れていようとも声を俺に飛ばすことができる。通信用ブレスレットだ」

「遠くに声が飛ばせるですって?」

クリスは驚いていた。

当然である。通信機能はこの世界にはまだない技術だから。

「ただし注意がいる。かなりの魔力を消費する上に俺を信頼していないと使おうとした時点で壊れる機能がある。非常用と思ってくれ」

「そんな貴重なものをもらってもいいのかしら?」

俺は笑った。

「まだ予備にいくつかもっているし、材料さえあれば作れるものだが君だから渡すんだ。無くすなよ」

「ありがとう」

クリスはさっそく手首にはめた。

「そうそう、先に言っておくが解析はもちろん複製も不可能だからな」

「それは残念。でも大切にするわ。だってあなたから初めての贈り物だもの」

クリスは嬉しそうに笑った。

「わたくしももっと体を強くしなくちゃいけないわね」

「お姉さま?」

「そうでしょう?わたくしが丈夫になればクリスティーナも安心してリュウ様の元へ行けるじゃないの」

「それはそうだけど…」

「一つ聞いても?」

「なあに?」

「エリス殿下は病を持っていると聞いたんだがどんな病?」

「…原因不明なのよ。ただ、日によって今日みたいに何でもない日もあればベッドから起き上がれないほどの虚脱感があったりいろいろ症状が出るのよ」

おれは思案した。

エリス殿下に視線を送ると常時ある回復魔法を使えと指示が来るからである。

「気になるの?」

じっとエリスを見つめる。いまもある呪文が指示されている。

「…おれは回復呪文が使えることは知っているだろ?」

「もちろんよ」

「俺はね、かなりの数の呪文を習得しているんだが、実のところ把握しきれていない呪文もかなり多いんだ」

「習得しているのに?」

「…自分か覚えた呪文じゃないから把握していないんだ。それを補うために補助機能というスキルがあるんだが、エリス殿下にあってからずっとある呪文が指示されていてどうしたものかと…」

「というと?」

クリスが俺の遠まわしすぎる言い方によくわからないという顔をしていた。

「簡単に言うとエリス殿下に回復呪文をつかえとスキルが働いているんだ」

「!」

驚いたのは国王だ。

「どんな司祭でもさじを投げたエリスの病を直せるのか?」

「多分治せると思うけど、ほかにもあったらそれは治せないかも」

おれはそう言って窓を出して呪文一覧からソレを見る。

【マジックヒール=単体効果・傷ついた魔力を治す効果がある大賢者専用呪文。高ランク賢者でも使用可】

「賢者専用呪文……ね。司祭では無理だろうな。専用だから」

「エリスの病を治せるならぜひお願いしてもいいか?」

国王だ。驚きながらも必死な様子だ。

「いいですよ。でも場所は変えたほうがいいな。ここでは…な」

「うむ。ではいつもの部屋に行こう」

そうしておれは王族がいるプライベートエリアに通された。いわゆる居間だ。

「俺がエリス殿下に使う呪文。マジックヒールという」

「マジックヒール…」

「賢者専用呪文だけど特殊な呪文で賢者を習熟させた高ランク賢者か大賢者専用呪文だ」

「ま…さか、大賢者だと?」

俺は頷く。王は声も出ないようだ。当然だろうと思う。大賢者は歴史上三人しかいないレア中のレア職だからだ。うち一人は俺の前世だ。

「この呪文は回復呪文であって回復呪文ではない。魔力を癒す呪文だ。何かの事情で傷ついた魔力を正常にする呪文なんだ」

「魔力を癒す?」

クリスを見て頷く。

「傷ついた魔力の部分だけを消し去り術者の魔力を吹き込むことで癒す術だ。だから回復呪文ではない。消し去ることは魔術師でもできるが己の魔力を吹き込むには緻密な魔力操作が必要で熟練した術師でないと術すら発動できない。俺は大賢者じゃないけど魔力操作のコツは前世の大賢者としての技術を引き継いでいるんで使えるけど使い手は選んでしまう魔法だ」

知らなくても無理のないレアな呪文だった。

「おそらくエリス殿下は先天的に魔力が傷ついた状態なんだと思う。魔力が傷つけば心身共に正常ではいられない。日によって症状が違うのも傷ついた魔力が体をめぐるからだ」

言っておれは杖を出す。

「エリス殿下、始めるがいいかな?」

エリスは神妙に頷いた。

エリスの足元に魔方陣を展開した。俺は杖に魔力を込める。繊細に魔力を込めエリスの魔力解析に集中していた。

その集中さが現れるように杖の水晶は透明なまま輝きだした。

『マジックヒール』

唱えると足元の魔方陣がエリスを囲い込むように輝く。

輝きが消えるとエリスは思わずその圧迫感から床に跪いてしまう。

力が一瞬ぬけて立っていられなかったのだ。

「お姉ちゃん!」

クリスが驚いて慌てて駆け寄る。

俺は静かに歩み寄りエリスの額に手を当てる。

エリスの魔力を確認していた。

「うまくいったようだな。魔力が安定するまでは運動は厳禁。三日ほどは安静にしていたほうが無難だ」

そっと手を差し出す。

「ありがとう…」

素直に差し出した手を握るとエリスを立ち上がらせた。

「君には世話になりっぱなしだな」

王を見た。俺は首を振って応える。

「たいしたことではない。できることをやってるだけで気にはしてほしくないかな」

「ふむ…。そういっても何もせんわけにはいかんのでお礼に宝物庫にあるものを一つ差し上げよう」

「…気にする必要はないが、そうもいかないのだろうな」

国王は頷いた。

「君にぜひ見てもらいたいものがある。君は驚くだろうものだ」

午後まで城に滞在した俺は国王の予定の空いた時間に宝物庫に案内された。

エリス殿下は大事をとって安静に部屋で休んでいる。

俺のそばからずっと離れないクリスも一緒だった。

一度離れればなかなか会えなくなることを理解しているのだろう。

さみしい想いをさせてしまうことはわかっていたので好きなようにさせていた。

今も腕にしがみつくように腕に絡ませ、俺からべったりと密着して離れなかった。

「お父様がリュウに見せたいものはある程度何かわかってるつもりよ。私もそう何度も見る機会はないのだけれど忘れられないわ。いえるのはこの国でもトップクラスの宝物よ」

「それは楽しみだな」

「ふふ、おそらくリュウへの褒美もあれしか思い浮かばないわ」

「え、トップクラスの宝物って言わなかったか?」

「そうよ。リュウに渡すのならあれしかないわね。おそらくリュウにしか扱えないものだわ」

「俺しか扱えない?」

「ええ、今までだれもあれを装備できた人はいないわ。この国が建国されたときからあるものだけど本来の持ち主以外で装備できた人はいないという話よ」

「……。それってもしかして」

リュウがその宝物に心当たりができた時、案内していた国王がそこに立ち止まる。

「ついたぞ二人とも」


宝物庫の最奥にあたるその場所は警備の関係からか他に宝物はなかった。

リュウは正面の豪華な台座に置かれているサークレットを見てその背後にあった絵を見つめた。

つきあたりの壁の半分以上をかけられていた絵画で埋まっていた。その絵画は一人の男性を大きく全身で描かれていた。

その男性は金髪碧眼の美丈夫で恐ろしく整った容姿と体格をしており見たことのある剣を両手で剣先を床に刺した状態で持っていた。

見たことあるのは剣だけではなかった。

服装も昨晩ダンスしていた時に着ていたあの覇王の装備の一つ《覇者の覇軍》を着ていた。剣も覇王の剣だった。指にはイヴの指輪もあった。

昨日の装備と違ったことは帽子だった。

自分も知らない帽子をかぶっていた。羽飾りが豪華な《覇者の覇軍》と同じ刺繍の施された帽子で明らかに一式装備だった。

絵に驚きをもって見つめていると国王がそんなリュウに声をかける。

「この絵と創造のサークレットはこの国の前にあった国から引き継がれたものでな、伝説の覇王装備の一つだ。後ろに置かれている絵も病でお亡くなりになった当時の覇王様を魔術絵師が書いたものだそうだ」

クリスは絵画を見つめ傍のリュウの様子がいつもと違うので腕を外し、リュウを見る。

「リュウ?」

リュウは驚いていた。そして意識せずに服装が勝手に覇軍に変わる。腰には覇王の剣が装備されていた。

それが条件のように創造のサークレットは光りだす。

本来の持ち主の帰還を喜ぶように。

ゆっくりリュウはサークレットに近づく。

「…見つけた…」

リュウの口からなぜかそう思い口に出た。

そっと触れる。

それだけでサークレットは輝きのままに宙に浮きリュウの目の前まで寄ってきた。

輝きが強くなりサークレットはその存在が消える。同時にリュウの額にサークレットはあるべき場所とばかりに装備されていた。

輝きが収まるとリュウに軽く衝撃が来た。

「う…」

思わず跪きうずくまる。額に手を当て衝撃をやり過ごした。その時イヴの声が響く。

【スキル《生成》を習得しました】

「リュウ大丈夫?」

クリスが心配そうにのぞき込んできた。

「…ん。大丈夫だ」

軽く首を振り衝撃を振り払うと安心させるようにクリスを見つめ笑みを浮かべる。

立ち上がり国王を見た。

「…確かに返してもらいました。ありがとう」

国王は頷いた。

「口伝に伝わっていたのだよ。覇王様に返すようにとね」

俺は再び絵画を見た。

「この絵には俺が持っていない装備が描かれている」

そういって俺は道具収納に消えたサークレットのあった頭部に手を当てる。

「うむ。四大大国と称されている各国にはそれぞれ覇王装備が伝わっているはず。おそらくこの国と同じで奉納されて保管されているのだろうな」

国王はクリスに後を任せて先に宝物庫を後にしていく。国王らしく忙しい身を割いてくれていたのだ。

残されたクリスと俺は絵画を見ていた。

「しかし前世の俺はずいぶんと美丈夫だな。神の御子としか見えんな」

「あら、リュウも十分、美丈夫だわ」

クリスはいって再び腕に手を絡ませる。

「こいつほどではないだろうよ」

見目の良さには自覚しているので否定はしなかった。

「わたしはこの絵の覇王様よりここにいる覇王様のほうが素敵よ」

おれはクリスを見た。クリスは嬉しそうに笑みを浮かべていた。

「でも若くして病で死んだと知っていたがこれほどの若さとは思っていなかったな」

「そうなの?てっきりもっとよく知っているのだと思っていたわ」

俺は苦笑した。

「まさか。俺には前世の記憶はない。だからどんな生まれ方や育ちどうして死んだのかとか知らない。一般的に皆が知っている知識しか知らない。各地に点在している装備を集めればスキルとしてそれも思い出すのだろうが思い出したところで俺は俺でしかないからな」

「………。ねえリュウ」

「なんだ?」

クリスを見た。ひどく暗い顔をしている。

「私と関係持ったこと後悔してない?」

「なんでだ?」

クリスは俺の正面に立って俺を見た。思いつめた表情だ。

「だって、無理やりだったんだもの。気にしないほうがおかしいわ。好きでもない女性と恋人なんて後悔しかないじゃない。貴方はこの国だけじゃない。もっと多くの人に必要とされる人。私なんかが束縛していい人じゃない!」

クリスは感情があふれたのか泣いていた。

俺はクリスの心の影を見つけた。

 クリスは俺が好きでもないのに付き合ってくれたと思っているのか。おれは悪いやつだな。彼女に応えてやれてない。受け身ばかりでどう思っているのか言えてないじゃないか

俺はクリスを抱き寄せた。

「そんなことを考えていたのかクリスは。バカだろ」

「バカって何よ…」

顔を見れないのかクリスは俺から視線を外しうつむいた。

「バカだからバカといった。俺は好きでもない奴と寝る趣味はないぞ」

クリスはその言葉で目を見開いた。思わずリュウを見上げる。

俺はクリスの涙を空いた手で拭ってクリスの頬を手のひらで包み込む。

「何度も言う気は俺にはないが、言えていなかったのは悪かったよ」

クリスは驚いていた。予想もしていなかったのだろう。

「クリスティーナ、君が好きだ」

じっとクリスを見つめた。この胸に湧き上がる心を伝えるように。だが羞恥がすぐに湧き上がる。頬が熱を持っているのを自覚していた。照れ隠しのように俺はクリスの唇を奪っていた。

想いを伝えるように長く深く奪った。自分からキスをしたのは初めてだった。

クリスはうれしかったのか俺の背にしがみつくように手を回してきた。

まじりあった雫を唇にひいて体を解放した。

「君の想いに応えたいと思ったことにウソや偽りはない。結婚する気がない以上、君を束縛するようなこともするつもりはない。俺も今後、君以外に好きなやつが現れるかもしれない。そうだとしても君への想いは変わらないそれだけは覚えておいてほしい」

「うん」

「それにな、クリスだけに束縛されるような俺じゃないぞ」

クリスは真っ赤になった。

俺はそれは見ずに踵を返し宝物庫を出ようとする。

マントが翻る。そのリュウの姿は威風堂々としていた。

クリスはその姿に見とれてしまった。

伝説の覇王の再来。クリスがそれを実感した時だった。

「なにしてる。早くこいよ」

声をかけられたクリスは慌ててリュウの後を追って宝物庫を後にしたのだった。



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[気になる点] 王様に対する口調が丁寧語なのかどうかいまいち定まって無い気がします。
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