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数日間おれはクリスの懇願から王都を出る日まで城で過ごすことになっていた。
とはいえやることはエルナの家にいる時とほぼ変わらなかった。
違うことはギルドで討伐をしていないこととメイドたちがいて家事をする必要がないことだった。
城で手に入れたサークレットのおかげで解放されたスキルがあった。《生成》だ。
便利なスキルだった。
生成、すなわち魔道具作成に必要な素材をゼロから作り出すことのできるスキルだった。
固有スキル賢者の叡智内に括られたスキルで自在にアーティファクト級を作り出せるようになった。
道具作成に数日も必要ないのだがなぜか作業がはかどらない。
というのも近衛隊魔術団員がことあるごとに俺に呪文について質問をしてくるからだ。
場所も悪い。魔道具作成と生成を使うにあたり必要な設備が魔術団員が詰める近衛隊設備だからだ。
イラつきながらも俺は数日かけて普段使いの防具と魔道具を作り上げる。
魔術付与も当然終わった。
やることは全部終わったので後は王都を出るだけだった。
その晩、クリスと逢瀬を重ねた。場所はクリスの部屋だ。
クリスと熱を共有し一息ついたところで俺は話を切り出した。
軽く体を起こして俺は横でけだるそうに横たわるクリスを見た。
行為後なので艶がクリスを綺麗にさせていた。
「明日王都を立つ」
クリスはその言葉を覚悟していたようだ。伏し目がちになるクリスは俺から見ても沈んでいた。
「そう…」
「ここでのできることは終わった。装備と魔道具の準備も完了したしな」
「しばらく逢えないわね」
クリスがそう言うのも無理のないことだった。
スピードのある移動手段はなく移動は馬車が主流で中央大陸に入るまでにも一日ほどかかるのだ。
「そんなことはない。会おうと思えばすぐに逢える」
「慰めはいらないわ」
「慰めじゃない。事実だ」
クリスはそこで初めて俺を見た。
「俺は空間呪文もほぼすべて使える。この意味がわかるか?」
「空間呪文?」
「ああ」
クリスはそこで初めてその言葉の意味に気が付いた。
「…まさかロストスペルだらけの空間呪文?」
「そうだ」
俺は証明するように窓を出した。クリスに見えるように…だ。
リュウ=クドウ=マリノス
職業=賢者・王者
HP=1000
MP=1000
力=800
素早さ=1000
集中=2000
魔力=1000
魅力=1500
運=800
特技〈抜刀術・剣術・体術・全武具習得・無詠唱・魔術付与・魔道具作成=MAX〉
呪文〈水・炎・熱・光・闇・土・風・空間・聖・魔・回復=全最上級習得済〉
スキル〈鑑定・図鑑・言語自動翻訳・速読・暗記・道具収納EX・装備自動変換・特技呪文補助機能・手加減・魔力消費最適化・即時自動習得・浄化・生成・完全防御〉
固有スキル〈覇王の末裔・管理者の福音・管理者の祝福・覇王の結晶・王者の証(現在使用不可)叡智の結晶・覇王の覇道記(現在使用不可)・叡智の魔術記(現在使用不可)〉
「一覧は一覧で簡単にしか表示されない。重要なのは呪文の最後に記されているものだ」
クリスは改めて窓を見つめた。
「すごいスキルだらけ。これ、全最上級習得済…?」
俺は頷く。
「呪文は書かれている属性の覚えられるもの全部最上級で習得済ということだ」
その言葉にクリスは驚愕していた。書かれていた属性は呪文の全属性だったから。
「一般的にロストスペルと名高い移動呪文『テレポ』『タウンテレポ』が使えるということだ」
「全部ということは、広範囲殲滅呪文『アルテマ』も使えるの?」
「ああ、あれは魔属性魔法のひとつだからな」
こともなげに俺は言った。
「じゃあ本当に逢おうと思えば逢いに来れるの?」
俺は笑みを浮かべて頷いた。
「一度訪れた場所ならたやすいことだ」
クリスは感極まり顔を覆う。
そんなクリスの手を取り口づけを唇にそっと施した。
クリスは俺の肩に手を添えて応えた。そのまま再び熱を共有した。
翌朝、俺より先に身支度を済ませていたクリスは俺のシャワーが終わるのを待っていた。手にはなにやら服らしいものを持っていた。
そんなクリスに俺は驚かされる。なにしろ脱衣所を出てすぐのところに立っていたからだ。
「何してるんだ。びっくりするだろ」
タオルで髪の水分をふき取っていた俺は小手とアンダー服まで着こんでいた。
ふと、クリスが何か持っていることに気が付いた。
「それは?」
「リュウに着てほしくて仕立てたの。普段使いの冒険者装備服」
「ありがたいな。着ても?」
「もちろんよ」
早速着てみるとぴったりサイズがあっていた。
黒のシャツに白のベスト黒のズボンで目立たない程度に刺繍も施されている俺好みの服だった。
「いいな。気に入ったよ。ありがとう」
大きな姿見で確認しつつクリスに言った。
この服には防汚・防水・防衝・状態保全がかかっていた。
「予想通りよく似合ってるわ」
俺は道具収納から上着を取り出した。銀色のロングコートだ。シンプルだが見る角度で金や白と銀、そして黒にも見える不思議な素材だった。
最近生成から作り出した俺の初アーティファクト級装備だ。耐魔・耐物理・防ブレス・防封・気温保全・状態保全が付いているものだ。
「これと相性がいいな」
着こんでの感想だった。
「それは?」
「昨日まで作っていた俺の装備だ。苦労したよ」
「色が変わる布なんてなんだか凄い素材でできてない?」
「ああ、だろうな。オリハルコン布だからな」
「アーティファクト級じゃない!」
「はは、言わなければわからないさ」
その後食事を終えて出立のことを国王ギルフォードに伝えたところ意外な言葉を言ってきた。
他国についてだった。
「先日の魔素の穢れの件について少々まずいことになっていてな」
「…穢れは人為的なものですからね。ろくなことにはならないだろうな」
「どうやら中央の者の仕業のようなのだ」
「それはあり得る話だな」
「ふふ。話が通じるとうれしいものだな」
「けっこう有名な話だからね。中央には覇王唯一教なるおかしな教会が暗躍しているというのは」
国王は頷いた。
かなり有名な組織で覇王の統べる国以外は国にあらずという強硬姿勢の強い教会だ。
「どうもその線が濃いようなのだ」
「術元か。気に留めておこう。俺のことが表ざたになれば否応なしにかかわってくるだろうし。でも今になって動き出したのは理由があるのかもな」
「おそらくは動くだけの理由ができたのかもしれん。かの国には予言師という職をもつ者がいるという話だしな」
「予言師…たしか少数民族特有の職だったか」
国王ギルフォードは頷いた。
「それと中央の元首宛に手紙を用意した。これを渡せば悪いようにはしないと思うから持っていきなさい」
「心遣い感謝します」
傍使いが盆にのせて持ってきたので手に取り道具収納にしまった。
おれの身元の保証でもされているのかもな
「他人行儀はいらん。君は私にとって義理の息子同然なのだから」
さすがに俺もその言葉に驚いた。
「その気持ちだけでも十分うれしい」
俺は自然と笑みが浮かんだ。
そのまま俺は城を出た。クリスがお忍びの姿でついてくる。
「途中まででいいからあまり遠出するとまた怒られるぞ」
「うん。もう少しだけ」
「そうか…」
「ねえ、馬車で向かうのよね」
乗合馬車の停留所が過ぎたのでクリスが疑問に思って聞いてきた。
「いや。ここ数日魔道具作りに精を出していたのは服だけじゃないんだ」
「そうなの?」
「ああ。乗合馬車を使ってたら移動に困ることもあると思ってね。移動用の魔道具を作っていたんだ。これに一番時間がかかったんだが、時間かけて作った甲斐あって馬車の半分以下の時間で移動が可能な乗り物にできた。悪目立ちするんで王都の外で使うつもりだから馬車は使わない」
「馬車の半分以下の時間ってすごくない?」
「異世界の技術が使ってあるからある意味、流通させたら移動革命が起こってしまう。流通させるつもりはないけどな」
俺は言って立ち止まる。
「この辺でいいよ。送ってくれてありがとうな」
クリスに向けて笑みを浮かべた。
「さみしくならないうちに顔を見せて」
「ああ、善処するよ」
頬にキスをしてクリスから離れた。
歩き出し、振り返ってクリスを見た。
悲しい顔を浮かべているがそれでも無理して笑ってくれた。
手を振って応えた。
王都を出ておれは気を引き締めた。
さて、行きますか
道具収納から魔道具の黒光りするバイクを出した。生成で素材を作り組み立てて安全な移動に必要な魔術付与をふんだんに取り込んだアーティファクト級バイクだ。
バイクにまたがり道具から専用のゴーグルを装着して安全装置を外し、魔力を込めると音もなく動き出して王都がすぐに小さくなり消えた。
安全を考えスピードは抑えているがそれでも馬車の三倍のスピードである。
徒歩と変わらない馬車の速さに辟易していたリュウは作ってよかったとしみじみ思った。
手元には周囲の地形を常時更新するミドルサーチの魔法が込められた板もあり、どんな悪路でも平気な走行ができるように空間魔法も組んであるので移動は順調だった。
試運転したかいがあったな。魔力の消費もごくわずかだし、この調子なら国境まで三時間もあればいけるな
おれはバイクで移動しながらそう思ったのだった。




