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最終章です。
何とかここまで書ききれました。
最後まで読んで頂けると嬉しいです。
8章 魔王と神
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暗い夜に森を走り慌てるように逃げる人がいた。
小柄で華奢な体のその人物は明らかに未成熟な体をしていて子供と思われた。
荒い息を吐きながら必死で逃げているとこのままでは捕まると判断したのだろう、小さな体をさらに小さく屈みこんで木の物陰に隠れることにした。
この森、幻惑の森と呼ばれる森で周囲の木々に魔力が宿りサーチなどの魔法が一切効かない森で有名だった。
だからこそ単純な物陰に隠れるという動作が効果的に発揮したのである。
しばらくすると追手が周囲を探すように通り過ぎ遠ざかっていった。
だが子供はそれでもしばらく動かなかった。
引き返してくる可能性もあったからだ。
一時間、いや半日くらいそこに居ただろうかその子供は逃げ疲れて木の陰に隠れたまま意識をいつの間にか失い眠っていた。
そんな子供に上から見下ろしている人影があった。
その日、リュウは玉座で報告を受けていた。
先日大賢者として転職をしたばかりではあったがその前より魔導国の動向を調査するよう命じてあった影たちの報告を受けたのだ。
その中に異端として奴隷に落とされた犯罪者などを率先して魔導国が買い取っていることが判明した。
元々魔導国は奴隷を買い取ると明言している国である。
他国や覇王連合国では闇商売として密かに活動している者たちにとっては救いの国だったりする。
昔から奴隷を買い取ることはそれなりにしていたのだが最近その買取が激しいのだという。
前々世に置いて生まれ故郷でもあった魔導国はその国の方針は千三百年間変わらないというのもある意味で凄まじいものを感じる。
やり方はその歴代の魔導王によってころころ変わるのも魔導国ならではだが、国の創建当時の方針は変わらない。
創建方針、それは魔人族、魔王族を全否定し破壊をつかさどる種族として敵視しているという事である。
創建されたのは大魔王時代の後期、3千年前の事である。聖地エジャルナに次ぐ古い国家である。
全盛期は前々世の時代でありその国の盛衰は廃れる一方であるものの顕著な差別化を好むヒューマは消えることがないため維持しているのである。
今代の魔導王はその意志が顕著である。
魔人を敵視し、ヒューマ絶対視しているため差別も顕著だ。
差別が悪ということはない。覇王国連合にもあり、いまだに全世界に導入されている貴族システム。その根幹をなすものこそ差別化し選民意識と共に責任感を育てることで国家運営を維持している側面がある。
貴族であるからこそ民たちを自分らが守るのだというものだ。その為に高い賃金と贅沢な暮らしを約束されている。約束されているからこそ国家運営も上手くいっている事実がある。
そんな貴族に報酬を約束しつつ入念に法と倫理を守らぬ貴族には罰を与え取り締まるのが国家の役目でもある。
覇王連合は連合と名つくだけありその貴族の権力が強い。町によって様々な豊かさがある。
その強い権力と引き換えに王都にある連合中枢に納める税金や寄付金などは町の繁栄状況と人々の暮らしの王都からの調査によってかなり高くなることもある。
だが法を逸脱する貴族にはかなりの強権を発揮するのも連合国ならではである。
元々が覇王の手によって建国された国で覇王という存在に宗教的な価値をも持っている国なので王都に護民官として選抜されることは連合国内部では貴族たちが夢にまで見る栄誉なことなのだ。
千年その国力を維持してきたのにも覇王という転生する魂を受け入れその帰還を待つという長期的な視野展望があるため覇王にあこがれるものはこぞって王都の兵や護民官を目指すという土壌がある。その為、国力も高く兵士たちの質も高い。
魔導国がこの覇王連合を敵視する理由も覇王の歴代の転生者の中に大魔王がいるせいでもある。
覇王連合の中での魔人の位置はといえば覇王様をお守りする忠誠を誓った最強の護衛兵という位置だ。
忠義熱い種族として有名になっていて、一度忠誠を誓った者には叛意は絶対にしないことと共に、護衛力は最強の種族として覇王伝では有名だ。それ故に絶滅したということを残念がる国や貴族は多い。
過去、世界に脅威を与えた種族ではあるもののそれはその種族特性の誤解のためだったというのが連合国内部では周知されている。
その事実の一つとして魔物化し亡くなった人が魔人族となって家族の元に帰ってきたという事実が知られているためである。
なによりも魔人族が覇王様の意志一つで管理されているという事実が安心感をもたらしているのである。
その事実を認めない魔導国とは故に敵国として覇王連合を魔導国は捉えている。
その顕著な現国王だが後継者の王子は穏健派として知られている。
国王を反面教師として育ったのか差別意識はあるものの魔人族に対しては比較的穏健である。というのも過去の先祖の行ったことを未だに引きずるのはどうかしているというのである。
国内においてもその王子に賛同する者は多く国王派と王子派で魔導国内部は二分化しつつあるのだとか。
王子派ともいえる穏健派は世界最大国ともいえる連合国をへたに刺激したくないという想いが強い。
国力の差を国王派と違い実感しているものが多いのだ。
これこそフィニアスが長年にわたり行ってきた留学制度の賜物でもある。
我が国は国内外から広く留学を受け入れている。覇王にあこがれる者は世界中にいるため志願する者は兵雇用もある。もちろん入念な調査もされるのだが推薦状も受け入れている。
魔導国の差別意識に耐えられないものもそれなりにいるのでそういった者は我が国で留学という実績を残し半数が我が国に残り、半数が魔導国に戻る。穏健派はこの留学出身者が多い。
魔導国ではできないことが多いのだ。その実績もあり留学者は魔導国においても無視できないのだ。
同時に勇者の海たちを召喚したのも魔導国だがこれは国王派の強硬な手段だったということは最近知った事実だ。
その調査の上で海たちを迷宮に護衛と共に行かせたのは実は王子派だったという。
国王派は海たちを単独で早々に連合国に行かせる気だったのだとか。
無謀だと思うほかはない。
実戦の戦闘などしたことのない海たちは王子たちの目にはすぐに気がついたのだとか。
技術こそあったものの実戦で生死を伴う泥臭さを感じなかったのだろう。
国王派の目もあり、なかなか表立って海たちと交流ができなかったのだと影たちに協力した者達の言葉だった。
その海たちを召喚した魔導国にある異界人召喚の魔方陣は前々世のシルファードの作品だったりする。
先も述べたように前々世シルファードの時代は魔導国の最大の繁栄をしていた時期である。
魔導国出身だったシルファードは家族を人質に取られ仕方なく召喚の魔方陣を魔導国城の深部にそれを描いた。
普通の召喚陣であれば一度きりの禁呪であったそれはシルファードというアルフ神の転生体という能力が災いした。
シルファードは無意識に神の権限を陣に織り込んでしまったのだ。
シルファードに神だったころの記憶はもとより能力もなかったのだが権限だけはあったようで、地球神との契約がなされたのだろう。いまだにその権限は生きていて海たちを召喚してしまったのもそのせいだ。
ただ、神力の替わりに夥しいほどの魔力を必要とするためそう簡単には召喚の陣は発動しない。
三百年かかるのもそのせいだ。
もっとも、俺が神力を使って発動することはできる。その場合はヒールの半分にも満たない神力で発動できることは俺以外には知るものはいない。いう気もないが。
ちなみに異世界召喚を行う際には必ず神同士の合意が必要になる。
この合意が必須な為、神ではないイヴには異世界召喚および転移ができないのだ。
何せ神に干渉できる存在だ。
上位の世界から下位の世界に送り込む際には合意は必要ないが逆には必要になる。
シルファードの書いた陣の顕現こそ地球神が合意した証でもある。
大魔王時代の勇者召喚の際は地球神の独断の送り込みである。
うまく転生に入れないアルフのために地球神が答えた形なのだ。
元々地球神とアルフ神は親友ともいえるほどの仲がよかった。
その身を穢してしまったアルフを誰よりも心配し、転生の儀を勧めたのも地球神だったりする。
ウィリアムが神力を取り戻す手段として異世界転生を決断し、地球を選んだ際に二つ返事で答えたのだというイヴの報告を聞いて、俺の転生を見守りながらどう思っていたのかと思いをはせてしまうのはアルフ時代の記憶のせいだろう。
落ち着いたら酒でも酌み交わしたいものだと軽く地球神にイヴから伝言を送らせた。
地球神はたいそう喜んだという。
そうして、影たちの報告をフィニアスとキバたちと共に聞いていた時だった。
かん高い悲鳴のような叫び声と共に大きな衝撃と一瞬だけ麻痺の効果が俺を襲った。
額に指を当て衝撃をやり過ごすとフィニアスが心配げに声をかけてきた。
「リュウ様大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だ」
そういいながら俺は周囲を確認するのに見回すと傍に居たキバとタテが跪いて震えていた。
入り口付近の魔人の衛兵に至ってはどうやら気絶までしているようだ。
元々玉座で座っていたのでさほどの変化はない俺だったが他の者たちは別だったようで先ほどの衝撃がかなりのものだった事がうかがえた。
「今のは〈魔王の嘆き〉か?」
「は…い」
キバだけが答えられたようだが再び悲鳴が頭の中を突き抜けた。
「!」
さすがに頭に手を添えやり過ごす。
「これはまずいな」
おれは立ち上がる。
「フィニアス。人間の兵を連れていたな?」
「はい」
「至急、イグニアに使いを出してくれ。恐らくイグニアにもこの現象は起こっているはずだ」
背後の兵を見やりフィニアスは簡潔に指示を出したようだ。
「嘆きを無害なものに上書きする。いくぞ」
キバとタテは頷いた。
俺はそう言って魔人姿に転身した。
角に集中し息を大きく吸い込む。胸に手のひらを当て、目を瞑った。
一拍置いておれは声を出した。
『あああああああああああああああああああ!』
その絶叫ともいえる魔力の籠った叫び声は城中に響き渡る。その衝撃は城を軽く揺るがした。
叫びを終え一息ついておれは周囲を見回す。
キバとタテとその場に居た影たちはゆっくりと立ち上がった。
「申し訳ありません…」
「いや、気にするな。あれが魔王の嘆きであれば仕方ないことだ」
「魔王の嘆きとは何ですか?」
フィニアスが聞いてきた。
そのフィニアスの質問にはキバが答えた。
「魔王の嘆きとは魔人族の王族、魔王族だけが出せる断末魔の叫びともいえるものです。感度の高い魔人族に王族の危機を知らせるためのものなのです」
「ですが、魔王の嘆きを出せる者はリュウ様以外にはいないはず…」
「そのはずだが…」
「でもあれはたしかに魔王の嘆きと思われます。千年前にも何度か体感したので間違いはないかと」
その時城の使い魔の一人がやってきて城内の様子をキバに大きな被害はないと報告してきた。
「魔王族の生き残りがいたのか」
おれはそう結論を出すしかなかった。
本当を言えば魔王族は滅びたと決断していて、もう少し世界情勢を様子見て魔王族を新たに作り出すことも考えていたので生き残りがいると思っていなかった。
「そうなのかもしれません…」
「………どちらにせよ、その者に危機があるのは確かだろう」
「はい。リュウ様、御身をお借りしてもよろしいですか?」
キバが言ってきた。
「ああ、神官長のお前にしか探せないからな」
しばらくしてタテが背もたれのないスツールを持ってきた。
「どうぞ、リュウ様」
おれは無言で答えるようにそこに座った。
背後からキバがその両肩に手を置くように触る。そのキバの頭にも二本の角が現れていた。
俺は目を瞑った。
集中し角に力を籠める。
キバも集中し目を瞑った。
共鳴するようにリュウの四本の角が黒く発光しだした。
キバの目の裏に目的の人物の姿が映し出される。
薄暗い部屋の中、拷問器具らしき器具が散乱する中にその者はいた。
小さな小柄ともいえるその者は遠巻きに映り上手くその者の姿が映せないでいるとその者の傍に立っていた大柄な男が大きく振りかぶるように小さなその者に危害を加えていた。
部屋の入り口付近には貴族風の煌びやかな服を着た男が立っていた。
やがてしびれを切らしたのか遠巻きに見つめていた貴族風の男は柄の男に近寄り手を上げてやめさせた。
「これ以上は無駄だろう。どうやら他の眷族に心当たりはないようだ。この者は魔導王様が利用価値が他にもあると言っていたからな。殺すことは許されていない」
「ですが…」
「殺すことは許されていない。死なすな。死なない程度に回復させておけ。いいな」
「はい」
「牢にぶち込んでおけよ」
「わかりました」
貴族の男はそういい放ちその部屋を出て行った。
視界がその者に近寄る。
その者は黒髪を持った、まだ童女と思わしき小さな体で血まみれで横たわっていた。
息も荒く意識もない様子だった。
キバが意識を外に向けるとその少女の背後にある壁が突き抜け上に視界が上がると少女の居た場所が露になる。
そこは城だった。城の地下牢と思わしき場所だった。
西洋風な煌びやかな城で城の上部の塔には一本の国旗が掛かっていた。
その国旗にはリュウもキバも見覚えがあった。
マリス魔導国の国旗だった。
キバの意識は再び少女のほうへと向くと最下級のヒールを掛けられていた少女が映る。
申し訳程度に傷をふさがれた程度の回復なのか所々赤くはれた場所が見えた。
看守が少女を足蹴に蹴り飛ばした。
「悪しき一族どもが…!」
回復した看守が再び牢を出て鍵をかける音と共に辺りは静かになる。
牢の格子の外には赤い魔石が煌々と輝いているのが見えた。
リュウはその色から魔封じの魔石と判断した。
牢の周囲の様子をうかがっていると少女を目が合った気がした。
「見ているのは誰…?」
リュウはその声に聞き覚えがあった。
忘れもしないその声に気がついた時、驚きのあまり集中が途切れた。
そこで映像は途切れた。
キバが声をかけてきた。
「リュウ様…?」
「あ、悪い。集中が途切れてしまったな」
「いえ、それは良いのですが、お知り合いなのですか?」
「知り合い…というか、エジャルナに行く道中に助けた少女だ…たしかリナと名乗ったか」
驚きのあまり自分の手の震えがなかなか止まらなかった。
「リュウ様…それはもしかして…」
タテの言いたいことにおれは否定せずに頷くしかできなかった。
タテはそれだけで納得したようだった。
「あの者と顔見知りなのは良かったですが、ある意味では最悪の場所でしたな」
「マリス魔導国とはな。最近奴隷買いが酷かったと聞いていたが…魔王族を手にしたか」
「リュウ様、それでは魔導国は、動きますか」
「おそらく彼女の身柄を何か引き換えにしてくるかもしれんな」
「切り札のつもりでいるかもしれませんね」
「ああ、何せ、魔人族再興の鍵だからな。あまり長くあの国に置いておくと命の危機にも晒されていることだけは事実だ。何としても奪還しないと…」
「こちらからも手を尽くしましょう」
「頼む、フィニアス。使い魔の中に魔導国出身は居たはずだからその者たちを使ってもいい。もう少し情報と内部協力者が居る」
「了解しました。希望者を募って魔導国に派遣します。かの者たちは故郷でもあるかの国に帰郷できていませんし、ちょうどよいでしょう」
キバがそう言った。
おれは震える手を止めるように握りこんで言った。
「反意だけは気を付けねばならんな。叛意識別だけは送るやつに付ける。それとヒューマに見えるようにもする必要があるな。この機会に我が国に大事な存在を連れて来たい奴もいるだろう。平民たちには劣悪な環境とも聞くしな。そのあたりの事も任せる」
「は」
「了解です。かの国の穏健派の方たちと陰で連絡を取って見ます。魔導王がそのような暴挙に出るとなれば我が国としても放置できませんしね」
「ああ、俺としてはあの国は世界にとっても必要であるという認識はある。国家の多様性は必要だからな」
「滅ぼすという気はないという事ですね、リュウ様」
「もちろんだ、我が国はあの国を滅ぼすことなど、俺の力と兵たちの力があれば簡単だがそんなことをしても意味はないからな。防衛のためなら動くがこちらからやる気は起こらないな」
「リュウ様」
フィニアスは俺のその言葉に安堵の表情を浮かべた。
「大きな力はヒューマには恐怖を呼び、孤立を生むことは理解しているんでな。抑止力で十分だろ。得るのは信頼だ。恐怖ではない」
「はい」
フィニアスは笑みを浮かべた。
「これを機にあの国も良いほうへ向かうといいんだがな」




