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悪役令嬢は寝ていました03

 婚約を白紙にする。と、言っていたご令嬢達は『土下座して謝られた』そうで、もうしばらく様子を見ることになった。

 他の三人も、私を含めて六人で集まって相談をした結果、ふざけた真似をしたら即、婚約白紙を申し渡す。と、強気でいくことになった。

 またジェラルドが一人一人に『貴族の結婚とは』『婚約を白紙に戻した場合』ってやつを説明してあげた。

 王太子の婚約者は私達と同じ公爵家のご令嬢だ。ジェラルドのお父様は宰相、うちは外交を得意としているが、王太子妃となるご令嬢のおうちは騎士団に強い影響力を持つ。

 公爵三家が結託すれば、王室の力をほぼ奪えてしまうのだ。

 そうなれば王太子を下げて、第二王子を王太子とし、改めて公爵令嬢と結婚させる…とかね。

 他にも伯爵家の三男とか、侯爵家に婿入り予定なのに、嫁の実家に泥を塗るような真似をすれば家を追い出されてもおかしくはない。

 五人で固まっていると脳が考える事を拒否するし、集団心理も働く。

 一人にして、個々のケースで起こり得ることを説明し、本当に今の婚約者に不満があるのか…と話しているうちに、冷静さを取り戻していった。

 ヒロインが現れるまではうまくいっていたのだ。

 ちなみにジェラルドはヒロインと再会した時。

「あぁ、並んでいるというのに横入りでもしようと思ったのか、無礼な子がいたことは覚えている」

 周囲の気温が下がるかと思ったが、ヒロインはにこにこ笑って言った、言い切った。

「やっぱり覚えていてくださったのですね!嬉しい!」

 ヒロイン、メンタル、強いな…。

 ちなみにジェラルドは舌打ちをした。初めて聞いたよ、ジェラルドの舌打ち。レアだな。

 きゃっきゃしているヒロインを置き去りにしたが、その後も何度か接触があったようで心底、嫌っているように見える。

 一度、聞いてみた。

「あの子、可愛らしい見た目だと思うけど、何がそんなに嫌なの?」

「あれが、可愛い?」

 信じられない…と首を横に振ったが、思い直したように答えた。

「そういえば殿下達はまんまと騙されているようだね。私にはあの子が芝居をしているようにしか見えないよ」

 なるほど。やはり転生者かな。シナリオにこだわっても好感度はあがらないと教えてあげたほうが良いのだろうか。

「どうすればジェラルドに好きになってもらえるのかな?」

「本気で言っているのか?」

「あんなに可愛い子でも心が動かないってすごいよ」

「何を可愛いと思うかなんて、人によって違うだろう?」

 ジェラルドにとって可愛いのは、私?

 なんて言えるわけがない。たとえうっかり結婚しても、無理、恥ずかしすぎる。一人悶々としている姿を見て、ジェラルドが面白そうに笑った。


 十五歳になる頃には攻略対象者達もすべて落ち着いて、貴族らしいふるまいができるようになっていた。婚約者を優先し、他のご令嬢達とはきちんと線引きをしている。

 落ち着いてくると殿下達も『あの子、ちょっとおかしいな』と気づいたようで、気づいてからは側に来ないようにと護衛を側に置くようになった。

 これで王太子に近づく不審者になってしまった。

 ヒロイン…サブリナは男爵家で、階級差がある貴族社会では下のほう。話してはいけないってこともないが、親しくもないのに下位貴族から上位貴族に話しかけることはマナー違反となる。

 ここは学園だから、親しくなれば貴族階級など気にしない。私にも男爵家、子爵家のお友達はいる。ただし、親しくしている相手は全員、ジェラルドが面接済。

 ジェラルドに頬を染めるのはセーフだが、色目を使ったらアウト。私を下げるような発言はたとえ遠回しなものでもアウト。おそらく家の評判も調べていると思われる。

 ちょっとやりすぎの気もするが、貴族の付き合いはこれくらい慎重になるものなのでサブリナの『やだ、あたしってば☆』は回を追う毎に引かれていった。

 本人も気づいているだろうに、キャラを変えようとしない。やっぱり転生者ではないのかもしれない。

 この数年間、ヒロインの事も気になってはいたが、それよりももっと大変なことがたくさんあった。

 未来のバウナル公爵夫人となるための勉強が本当に大変で、領地経営なんて、ジェラルドがやることじゃん。って言ったら、付随して、領民とのお付き合いや、使用人達の管理、城だけでなく公共施設の維持管理など、無関係ではないと諭された。

 一緒に勉強してくれるというので頑張った。

 頑張ったご褒美に馬に乗せてくれたし、お昼寝タイムもある。お昼寝の時も必ず横に居るのだが、寝顔を見られるのなんて今更だよね。

 さすがに週に五回は行けないが、週に二回、学園がお休みの日に行っている。

 つまり毎日、会っている。

 そして…、十六歳。

 初めての夜会が近づいてきた。


 学園主催の夜会で、学園に通う十六歳全員が参加することになる。貴族が通う学園だが階級差があるため、あまり華美なものは控えるようにとのお達しがあった。

 うちはお兄様、お姉様が経験しているし、ジェラルドのエスコートも決まっている。

 衣装は早めに注文したので余裕で間に合った。

 ジェラルドはブルーグレーのタキシードで、私はクリーム色のドレス。アクセサリーは小振りな金色で統一した。

 季節は春で、夜はすこし肌寒い。ドレスは長袖でレースのストールを肩にかけた。

「寒くない?」

「うん…、うん?」

 腰を抱かれている。

「あの、これで歩くの?」

「いや?」

 ちょ、近い。とは思うが、嫌ではない…かな。

「いい、けど…、なんか、ちょっと変な感じ」

「あと二年もすれば結婚だ。そろそろ慣れたほうが良いかと思って」

「そう、かな」

 じわじわと顔が赤くなってきた気がする。

「ケイト、笑って」

 社交の場ではいつでもスマイル。学園内に作られたホールにはすでに人が入り始めていて、挨拶をしながら回る。

 会場の隅には軽食、それからダンスのために楽団もスタンバっていた。

 早く踊りたい。

 というのも、まだ人前で踊ったことがないのだ。

 子供のうちは昼間のお茶会だけで、夜会に出る子は少ない。特に婚約者が決まっている場合、特別な理由でもない限り、出ない。

 夜会デビューは学園で。これが暗黙の了解だ。

 開始時間になると学園長、王太子が簡単に挨拶をして、それから…一曲目は王太子殿下とその婚約者が美しいダンスを披露した。

 そろそろダンスに参加する準備を…と思ったら。

 私の目の前にサブリナが立った。目にも眩しい派手なピンク色でリボンもフリルもたっぷり使っている。似合ってはいると思うが、今夜のコンセプト的には派手すぎかな。

「あなた、でしょ?」

 確信を持った、断定的な言い方だった。

「あなたがシナリオ通りに動かなかった。だから…」

 すっとジェラルドが私を後ろに下げて、前に出た。

「ケイトは私と婚約破棄しようとしていた。そのシナリオというものの効力がどれほどのものかはわからないが、シナリオ通りに動かなかったのは私だ」

「はぁ?え、じゃ、ジェラルド様が転生者…、なら、どうしてそんな灰鼠を選んだのよ!ありえないでしょ。他にもっと可愛い子がいるのに」

 その通りだ。私もそう思う。最初からずっと思っていた、今も。

 ジェラルドが淡々と言い返した。

「ケイトは可愛いし、魅力的な子だよ。たくさん、良いところがある。今からそのひとつを見せてあげよう。本当は誰にも見せたくないけどね」

 そう言って、私をダンスホールの中央へと連れだした。


 音楽に合わせて踊る。ジェラルドとはたくさん踊ってきたけど、正装でたくさんの人達と一緒に踊るのは初めてだ。

 サブリナに言われたことがぐるぐると回っていたけど、そのうち、どうでも良くなった。

 楽しい。どんな曲でも合わせられる。

 ゆったりとした曲も…、段々と早くなる曲に一組、また一組と脱落していった。

 嘘、こんなに楽しいのに。

 ジェラルドがパートナーなら永遠に踊れる。それくらい自由に踊れた。

 最後まで踊り切った時、ホールに残っていたのは私達だけで。

 視線が集まっていることに気づき、恥ずかしさのあまりジェラルドの背中に隠れると…、拍手と笑いが巻き起こった。


 サブリナがいつ帰ったのかは知らない。

 踊りつかれた私はふらふらで、ジェラルドに抱えられて休憩室に入った。ソファに座ると眠気が。

「ごめん、ジェラルド…、眠い………」

「少しだけ眠ればいいよ。起こしてあげるから」

「ん………」

「君は寝ている時、特に可愛らしいね」

 寝ている時のことなどわからない。

 すこし丸くなって…、ジェラルドの服の端を掴む癖があることなど、まったく気づいていなかった。


 サブリナはそれきり学園には来なかった。社交の場に顔を出すこともなく、噂で留学をしたらしいと聞いた。リセットしてどこかでやり直すのだろう。今度はうまくいくといいね。仲良くするのは…、ちょっと無理だけど。

 ジェラルドとの仲は順調で、順調すぎてスキンシップが増えた。

 いずれ結婚をするのだから慣れたほうがいい。というのがジェラルドの主張で、えぇ…とは思うものの、どうしても嫌なわけではない。それに…、ダンスを披露した後、女子達から言われたのだが…、どうやら大変、スタイルが良いらしい。

 身体を動かすことが好きなので、引き締まってはいる。そして胸も人並みに育った。

 健全な男子が『自分のもの』を目の前にして我慢できるわけがない。

 ケイトの数少ない美点なので、すこしくらいは触らせてあげようと…。

「ケイトは本当に素直で、私にあまいね」

 言われて、首を傾げる。

 素直…なのか?単に逆らうのが面倒なだけで…。

「ご褒美に、結婚したら一カ月間くらいは希望の仕事をさせてあげるからね。あ、一カ月が三カ月に延びたら…、ごめんね」

 希望の仕事?

「覚えてないの?自分で言ったことだよ。寝ているだけの、簡単なお仕事」

 ………それ、仕事っていうか…、仕事でいいのか?

 混乱する私を見て、ジェラルドはいつものように楽しそうに笑っていた。

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