表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神をさがして―家に帰るため、わたし冒険者になります!―  作者: 仁 尚
第一章 異世界に来ちゃいました!
14/16

(1-14)

今回は、メルト視点でお送りします、

―メルト視点―


 セアちゃんたちが屋敷に入っていくのを見届けると、私は胸に溜まった重苦しい空気を吐き出した。


「まさか、あそこまで凄いとは思わなかったわ……」


 先ほどの光景を思い出しながら、私はただ呆れるしかなかった。


 魔術を覚えて一週間ほどの人間が、未熟者とは言え原初の種族を一撃で屠る力を使うなんて、はっきり言って異常である。


 もちろん、セアちゃんがとんでもない存在であることは、あの子が現れた時(・・・・)から分かっていたし、魔力純度を考えれば、魔術の威力が跳ね上がるのもうなずける。


 だからこそ、力を行使するのにセアちゃんの精神の未熟さが浮き彫りになったんだけど、そこはこれからの経験でいくらでも鍛えることが出来るはずだ。


「それに引き換え、こっちは……」


 別の意味で呆れながら、私は未だに気絶する甥っ子へと目を向ける。


 セアちゃんへの言動で、アズラクがちゃんと儀式(・・)を経ずに里を出てきているのは明白。


 理由は何となく分かっているけど、本人の口から聞こうと私は拳を握ると、アズラクの顔まで軽く跳躍し、顔面に拳を叩きこんだ。


『がぁ?!……な、なんだ!?って、痛っ!』


 バキッ!と派手な音が辺りに響き渡ると同時に、情けない悲鳴を上げてアズラクが目を覚ますと、私が殴った場所を抑えて痛がり出した。


 全く、軽く撫でた(・・・・・)程度で痛がるなんて……


 益々甥っ子に失望しながら、私はため息交じりに声をかけた。


「目が覚めたようね」

『!お、伯母上……僕は…?』

「貴方は負けたのよ、セアちゃんの攻撃を相殺しようとしてね。まさか、覚えてないとか言わないわよね?」


 ここですっ呆けるようなら、さっきの拳以上の威力を叩きこむつもりだったけど、私の言葉を聞いてアズラクは目に見えて項垂れる。


「ちゃんと覚えているようね……私との約束も、覚えているわよね?」

『……僕が負けた場合、伯母上の言うことを聞くこと……』 

「それもちゃんと覚えていたわね。まぁ、何をさせるかいう前に一つ聞きたいんだけど、貴方、【士成の儀】…受けずに里を出て来たのでしょう?」

『っ!?』


 手っ取り早く核心を問いただすと、アズラクは大きく息を飲んで私を見つめ、すぐに目をそらした。


 やっぱりね……


 甥っ子の反応を見て、私自身の見立てが正しかったことが分かり溜息が漏れ出た。


『で、ですが!今回は、族長の特使ということで士成の儀は”特例”で免除すると、父上が』

「……は?」


 アズラクの弁明に、私は目の前に火花が散るほど怒りを覚えた。


 【士成の儀】とは、長きに亘って行われているドラゴン族において一人前の戦士であることを証明する儀式の事で、この儀式をクリアできなければ里から出ることは許されないことになっている。


 何故、儀式に受からなければ里から出られないかと言われれば、儀式で試される内容を知れば一目瞭然である。


 儀式では、戦士としての戦闘能力や心構えを試されるだけでなく、立ち振る舞いや他の種族に対する礼儀作法など多岐に渡って試される。


 里の外へ出る以上、他の種族との接触が考えられ、その時に礼儀を失すれば、他の種族に嘗められてドラゴン族の名に泥を塗りかねないのだ。


 つまり儀式には、礼儀を知らぬ阿呆や物知らぬ未熟者が、外に出て恥を晒すのを防ぐ役割もあるということだ。


 そんな重要な儀式に特例など在り得るはずもなく、ハサンの取った行動は長きに亘るドラゴン族の歴史に泥を塗る行為だった。


 どうせ、息子に恥をかかせてやろうとか、そんな軽い気持ちだったんでしょうけど……それから、他の奴らも何考えてるのかしら?


 名前も呼びたくない大馬鹿者の軽率な考えとそれを諌めない周りの者たちに怒りを覚えながら、私はアズラクに士成の儀がどれ程重要なのか懇切丁寧に一から説明してあげると、顔面蒼白でその場にひれ伏してしまった。


 ……まさかと思うけど、士成の儀がドラゴン族にとってどれだけ意味深い事か、教えてもらってないとか無いわよねぇ?


 心配になって聞いてみると、案の定アズラクの周りにいた大人たちから、士成の儀の重要性を教えては貰っていなかったらしい―ただ何となく、大人になったら受ける儀式程度の感覚だったそうだ―。


 さらに、族長の息子ということで一部の者を贔屓していると言われないために、という理由で誰にも師事させてもらえず、今まで戦い方など独学で学んでいたとアズラクが吐露した。


 まさか、そこまで息子を蔑ろにしていたなんて……


 甥っ子の過ごしてきた環境の劣悪さを知って、私はアズラクも馬鹿の被害者なのだと分かり、そして自分の思い付き(・・・・)がこの子を救うことになると確信し、笑みを浮かべた。


「さて、それじゃ…今後のあなたのことについて、話しましょうか?」


 私の言葉に、アズラクが目に見えて身体を硬直させる。


 まぁ、私に何をさせられるのか戦々恐々しているんでしょうけど……


 甥っ子の反応に少し傷つきながらも、私はアズラクに指をさして宣言した。


「貴方には、里へは戻らずにセアちゃんと一緒に旅に出てもらうわ」

『……は?』


 意味が解らないという感じにポカンと口を開けて予想通りの反応を見せるアズラクに、私は説明を続けた。


「あの子、ちょっと複雑な立場でね。とある理由で女神さまに会わないといけなくて、これから西の大陸へ旅に出るの。だけど、女の子の一人旅って色々と危険だから、貴方にはその危険からセアちゃんを護るための護衛を任せたいのよ。貴方にとっても悪くない話でしょ?手ぶらで里に戻っても実の父親に殺されるだけなんだし、いい機会だから外の世界を見て回って見聞を広めなさいな」


 と、私が説明してあげたにも拘らず、アズラクの表情は困惑したまま固まっている。


 何故かしら?…やっぱり、里を…父親を裏切る真似は出来ないのかしらね……


『……あの、伯母上。セアとは、さっきの人間の事ですよね?こう言っては何ですが、あれだけの力を持った者に護衛が必要なのでしょうか?』


 アズラクの言葉に、今度は私がポカンと口を開けてしまった。


「あ、貴方…里に戻らないってところに引っ掛からなかったの?」

『え?……正直、父上を裏切るのは気が引けますが、僕もドラゴン族の男。勝負に負けた以上、伯母上の言うことに従います。ですが、あの人間の護衛をする理由というのが、どうにも分からなくて』


 頑固かと思えば、潔いというか素直というか……まぁ、変に意固地になられるよりマシか……


 甥っ子の聞き分けの良さに呆れながら、私は気を取り直して一から説明を始めた。


「確かに、セアちゃんは強大な力…魔力を持っているわ。それこそ、私たち原初の種族を超えるほどのね……でもね、だからと言って力を持つ者が必ずしも万能と言うわけじゃないわ。セアちゃんは、力以外は他の人間と変わらない…ううん、精神面で言えば危険に対する意識が、他に人間より劣っているわね。そんな彼女が無事に旅が出来るとは私には到底思えない……そこで、アズラク。貴方をセアちゃんの盾が…じゃなくて護衛にしようと考えたのよ。分かった?」


 今度の説明で理解できたのか、アズラクは思案顔で考え始める。


 ふ〜危ない危ない。危うく本音が出るところだった…まぁ、アズラク自身、気が付いてないみたいだけど……


 考え込むアズラクに、「負けたあんたが悩む権利があると思うの?」と言ってもいいんだけど、セアちゃんの旅がどれぐらい掛かるか分からない以上、彼女との良好な関係を築く土台として、この子にも納得して度に同行してもらう必要がある。


 どれ、ちょっとダメ押ししてみようかしら?


「もちろん、セアちゃんの護衛として中途半端じゃ困るから、私直々に貴方を鍛えてあげるわ……どう?元族長候補筆頭に教えを受けられるんだから、悪くない話でしょ?」

『っ……も、元より、僕に拒否する権利はありませんから、伯母上の言葉に従います』


 ダメ押しが聞いたのか、アズラクは了承して頷いたけど、私の視線は彼の尻尾へと注がれていた。


 あ〜あ、嬉しさで尻尾が揺れてるわ……これは、結構厳しく鍛えないとダメかしらねぇ……


 精神的に未熟さを残すアズラクの教育方針を考えながら、私は屋敷へと踵を返した。


「さぁ、話も纏まったことだし、セアちゃんたちにも話さないと……アズラク!貴方は仮の姿に戻りなさい!そんな巨体、私の屋敷には入らないのだから」

『は、はい!』


 そのままの姿でついて来ようとしたアズラクに人間の姿になるよう言うと、慌てて仮の姿である人間の姿へと変わった。


 やっぱり、我流のせいで無駄な魔力を消費してるわねぇ……


 肩越しに仮の姿へ戻るアズラクを見ながら、基礎の基礎から叩き込まないといけないことに短く息を吐いた。


 …まぁ、教えるって約束した手前、投げ出す気はないけど、圧倒的に時間がなぁ……ちょっと強引な手を使うしかないかしらねぇ


 そんなことを考えながら、私はあることを思い出して、アズラクの方へと振り向いた。


「あ、そうそう。セアちゃんに会ったらお礼を言っておきなさい。消し炭みたいにボロボロになって使い物にならなくなってた両手を完璧に治してくれたのは、彼女だからね」

「え?」


 私の言葉に、アズラクが驚いて自らの両手を凝視する。


「これは…伯母上が治してくださったのではないのですか?!」

「そんな労力を割く義理なんて無いわよ。むしろ、己の未熟さを理解させるためにそのままにしておくつもりだったくらいよ…あぁ、先に言っておくけど、胸の傷は敢えて残したのはそういう理由だからね?その傷もあの子は治そうとしていたわよ?……本当に優しい子よねぇ、自分を蔑んだ相手の怪我を治してあげるなんて…聞いた話じゃ、回復魔術は攻撃魔術と比べて魔力の消費が大きいそうよ?にも拘らず、綺麗に治すまで何度も魔術を使っていたから、かなりキツかったんじゃないかしらねぇ」


 と、畳みかけるように説明してあげると、アズラクは息を飲んでもう一度完治した両手を見つめた。


 うふふ、思った以上に効果覿面ねぇ……なんて余裕を見せているけど実際の所、私には本当の事が分かっていなかったりする。


 私の見た限りじゃ、あれだけの回復魔術を使えば魔力を消費してしまい人間にとっては相当な負担となったはずだけど、あの子はケロッとした顔をしていたから、正直私も驚いた。


 さらに、セアちゃんがアズラクの怪我を治した理由も分からない。


 あの子と出会ってからこっち、気持ちや考えが手に取るように分かったのだけれど、あの一瞬だけセアちゃんの気持ちが読み取れなかった。


 だから、セアちゃんが口にしたような思惑があったのかもしれないし、はたまた別の想いがあったのかもしれない……とは言え、どんな理由があろうともセアちゃんがアズラクの怪我を治したという事実に間違いはない。


 多少(・・)脚色をしているけど、これでアズラクがセアちゃんに対して恩義なんかを感じてくれれば、重畳ね……


 我ながら博打打みたいな考えだけど、こればかりは目が出てみないと分からない……まぁ、負ける気は全然しないけど


 そんなことを考えながら、私は再び館へと歩き出した。


 


 


 


 


次話更新は、六月三日午後十一時です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ