第64話 珍獣? その17
俺はムチャをつれて(=実際は首に巻きつけてだが)商業地区のほうに向かった。
目的の店は商業地区にある。
大通り沿いのいつも酒を飲みに行く店からかなり奥に入った場所である。
まあ、この世界は奴隷というものが存在する。
人身売買も一種の商売で、この世界では人も商品となりうるのだ。
人の常識や倫理も、時代と環境によって大きく変化することを如実に表している。
諸侯同士の戦が日常茶飯事に起きるため、戦利品の1つとして奴隷は絶えず日々生まれる。
そして、男の多くは過酷な環境の中、一番下の労働力として酷使されているのが実情である。
更に、女の多くは夜の街で買われて、歓楽街で働かされることになる。
そんな人が人を売買するという殺伐としたことが行われているのがココである。
華やかな歓楽街の裏手では日々人が売られている。
そんな別の一面を持つのがココである。
昼間の歓楽街は非常に静かである。
夜の様相とはガラッと変わって、現在は寝静まったかのようにひっそりとしている。
俺はいつもの飲み屋の店の横を通り過ぎ、裏手からどんどん奥の入り組んだ区画に入っていく。
大通り沿いの店の小奇麗さとは対照的に、少しダークな雰囲気がしてくる。
小さな入り口の店があちこちあるが、看板は掲げておらず、中は薄暗く外からは中の様子がうかがい知れない。
エルバンの話では歓楽街裏手にある、ここら一体の店はすべて奴隷を扱う店のはずだ。
時折、檻のついた荷馬車が横を通り過ぎていく。
その中には、手枷・足枷のついたいかにも奴隷らしき人がうなだれた様子で乗っている。
そして、通りを行き交う人には、なにか少し張り詰めたような緊張がずーっと続いている。
更に、全体的に人通りは少ないが、なぜか強い視線を感じる。
そんな雰囲気のする細い通りを歩いていくと、目的の店にたどり着いた。
地図の場所からココで間違いないはずだが、この店も看板などが一切ないので本当に教えてもらった店なのかわからない。
外から中をみても、薄暗くて何も判らない。
開いている入り口からまるでもわもわっと黒い霧のようなものが漏れ出ているようなイメージがし、怪しい雰囲気が漂っている。
「ええぃ、男は度胸!」
俺は意を決して薄暗い中に入っていった。
中に入ると、外の明るさとの違いにより目が慣れていないせいか、真っ暗でよく前が見えない。
ただ、外に比べて湿度が高く、強いお香の匂いが部屋中に立ち込めている。
しばらくすると、暗闇に徐々に目が慣れてきて中を見回すと、うっすら紫色のあわい光があちこち飛んでいる。
そう! よく判らないものが、ふわふわと飛んでいるのだ!
なんだろう? と思いその小さな淡い光を触ろうとしたら、
「汚い手でさわんじゃないよ!」
キッツィしわがれた老婆の声が聞こえた。
俺はギョッとして声の方を見る。
まだ目が慣れていないため、声がした方向を目を細めて凝視すると奥にその声の主がいた。
「なんか用かい? ひっひっひぃ」
そこには高級そうな濃い紫色の厚手のローブを、頭からすっぽり被った人がいた。
なんとなくデジャブ(?)を感じながら、俺はその人の方へ近づいていく。
「・・・あの~、ココで魔物を扱っていると聞いてやってきたんだけど・・・」
俺は恐る恐るその声の主に伺いを立てる。
次の瞬間、ヒュッと音がしたかと思えば、細い棒の先端が目の前にあった。
俺は一瞬たじろぎ、「うっ」と声上げて驚く。
首に巻きついていたムチャは、警戒して「シヤャァァァァ」と威嚇の声を上げていた。
「オイコラ、なにすんだ!」
あまりのことに、ちょっと抗議の声を上げる。
「・・・そいつを売りにきたのか?」
その老婆(?)は細い棒の先端をムチャに向けて、クィクィと小さく動かし端的に聞いてきた。
「ち、違うよ!」
俺はあごが引けて、へっぴり腰の情けない状態で答える。
「なんだ残念・・・」
そう言うと、老婆(?)は被っていたローブをはずす。
「あれ? レリーズさん?」
驚くことに、そこには魔法屋のレリーズ婆さんがいた。
「ん!? なんだ、レリーズを知っているのか?」
渋い顔をしてその婆さんは俺に聞いてきた。
「・・・ええ、まぁね」
そう言うと俺は腰に下げた魔法の杖を取り出す。
「これを売ってもらったんで」
見上げる格好でその婆さんは短い魔法の杖をマジマジと眺める。
「ほぉ~、お前さんか! あの売れないワンドを買ったアホな坊主は」
「は? アホな坊主」
その瞬間、婆さんは手に口を当てシマッタという顔をした。
「ん?、そうじゃ、レリーズはわしの双子の妹じゃ」
婆さんはナナメ上を見て、急に話を変えようとした。
「いやいやいや、双子はどうでもいいよ。アホな坊主ってくだりが聞きたい」
俺は眉間にしわをよせて、距離を縮める。
ムチャも俺の顔の横で、目を閉じ腕を組んでうんうんと大きくうなずいている。
「・・・いや、わしゃそんなことは言っておらん」
しばらくの沈黙の後で一言そう言うと、婆さんは急に横を向いて白々しく口笛を吹き始めた。
明らかに動揺した様子で、さっきまでの不気味で怪しい雰囲気がマルッとぶち壊しだ。
俺は「はぁ~」と大きくため息をついて、これ以上聞いても俺にとって悪い事しか出てこなさそうなので、追及をやめて本題に戻ることにした。




