第44話 姫さま考える その3
扉の前に立っていたぬいぐるみのようなこぐまは、テクテクテクと歩いて近づいてきた。
近づくとよくわかるが、背の高さはシャルロッテの腰くらいしかない。
テーブルの前に来ると、ちょこんとお辞儀をして、
「はじめまして、パムと申しマフ。これからよろしくおねがいしマフ。」
(いやぁー、ちょーかわいいですわ!!なんですかこの生き物!?)
「・・・ええ、よろしくね。」
シャルロッテは動揺を悟られないように、心を落ち着かせて返答する。
「バスター様、これはどういうことで?」
「ええ、この者は熊族の獣人でして、この見た目を活かすようにという王宮からの指示です。最近パレードや晩餐会の集客率が減っておりまして、これはちょっとしたテコ入れのようなものです。」
「そうなんですの?」
「はい、まぁ姫さまの視察も始めてかれこれ6年目になります。流石に国民もこのイベントに慣れてきたのでしょう。いろいろな面において、いまいち集まりが悪いのです。」
「はぁ~、そうですか。」
(だから、私はそろそろ用済みでお見合いというわけですか・・・。)
なぜ急にシャルロッテのお見合いの話が出てきたのか合点がいった。
そろそろ、この視察と称したイベントも見直すべき時期が来たということのようだ。
「それで、今後どうしたらよろしいのでしょうか?」
「ええ、この者は最低限の宮中でのマナーを心得ておりますし、執事としての簡単な身の回りの世話の仕事も出来るということなので、シャルロッテ様と常に行動を共にしてもらえれば結構です。まだなにぶん子供なので、いろいろ足りない部分があるでしょうが、それは我慢してください。」
「わかりました。」
(まぁ、この愛くるしいかわいさがあれば、多少の好感度UPにつながりますわね。)
シャルロッテは内心でそのように考え、了解したことをバスターに告げる。
「では、予定通り、明日の昼から王宮を出発し、それから3日後ケルム到着ということになりますのでよろしくお願います。」
「わかりました。」
そういうと、バスターはパムを残して部屋を去った。
パムはテーブルの前でちょこんと立って何かを待っている様子だ。
「パム、これからよろしくね。」
「はい、どうぞよろしくおねがいしマフ。」
「パムは今何歳なの?」
「今年で10歳になりマフ。」
「へぇ~、そうなの。生まれは?」
「生まれは、バステン山脈の麓のギアンという小さい村マフ。」
「そうなの。結構遠いところからきたのね。」
シャルロッテはパムとちょっとした会話をしていたが、どうしても我慢できない様子でお願いをする。
「・・・あのね。どうしても嫌だったら言ってほしいんだけど、お願いがあるの。」
「はい、なんでマフか?」
シャルロッテは静かにパムの両脇に手を入れて持上げ膝の上に乗せる。
パムは見た目よりかなり軽く、シャルロッテでも持上げることが出来た。
それから数時間、シャルロッテはパムの頭をなでたり、肉球をムニムニと触り、最後には我慢できず思いっきり抱きしめていた。
パムの毛に顔をうずめると、お日様のいい香りがした。
なぜかパムは、もうすでにその行為に慣れている様子で平然としていた。
◇◆◇◆◇
3日後に予定通り、ケルムの街に到着した。
道中にホーンベアやポイズンウルフなど数種類の魔物と遭遇したが、警備の騎士団にすべて蹴散らされて特に進行の障害にはならなかった。
ケルムの街の入り口に到着したところで、シャルロッテとパムはオープンタイプの馬車に乗りかえる。
これから、ケルムの街の大通りを使ったパレードが行われる。
「パム、いいですか。このように小さく手を振って愛想よくするのですよ。」
「はい、わかりましたマフ。」
シャルロッテはパムにパレードの際のいくつかの注意事項について話し終えた後、すぐに街の正門からパレードが開始された。
大通りではかなりの群集が王家の旗を振りながら、シャルロッテ一行を大歓声で待っていた。
「シャルロッテ様~。」
シャルロッテは群集から名前を呼ばれたらその方向を向いて、にっこり笑い小さく手を振る。
馬車はそのままゆっくり進行し、大通りを抜けていく。
シャルロッテ達が大通りの中ごろに来たときに、事件が起きた。
女性の黄色い歓声が多い中、異質な野太い男の大声が発せられた。
「腐った王室など滅んでしまえー。」
馬車のナナメ前の群集の中から大きな声が聞こえたかと思えば、目の前に何か投げ入れられた。
パンパンパン。
馬が大きな音に驚いて仰け反り、あわてて御者が馬をなだめようとする。
そして、周囲にいた者達が一斉に大きな音のするほうに注目する。
ゆっくり進行してた馬車の動きが一瞬止まった。
その瞬間、
「あ、あぶないでマフ!!」
パムがシャルロッテの横から大きな声で叫んだかと思うと、シャルロッテに覆いかぶさるような体勢になった。
ドシュ、ドシュ。
パムの小さな背中に2本の矢が突き刺さる。
「いっ、いやー!!!」
シャルロッテは周囲を顧みず大声で叫んでいた。
覆いかぶさった状態のパムはシャルロッテの顔をみて苦悶の表情で言う。
「だ、だいじょうぶ・・・でマフ・・・か?」
その表情を見てシャルロッテは正気に戻った。
「・・・えっ、あ、ありがとう。た、たすかりました。」
その後、シャルロッテはスッと立ち上がり、周囲に叫ぶ。
「衛兵!馬車の周りをかこみなさい!そして、周囲の安全を確保しなさい!」
大声で叫び、周りの衛兵がその声を聞いて我に返り、一斉に動き出す。
10名の騎士が馬上で大きな盾を持上げ、シャルロッテの乗っている馬車の周りを囲む。
シャルロッテは指示を終えるとまた座り、パムを馬車の長いすにうつぶせにする。
そして、2本の矢を傷口が広がらないようにゆっくり抜いていく。
「ぐっ!」
パムは我慢強く、大きな声を上げずにそれに耐える。
傷口から血が噴き出てくる。
シャルロッテは自分の衣服の腕の部分を引きちぎってパムの傷口に強く押し当て、圧迫しながら血止めを行い、すぐに回復魔法の詠唱を始める。
「ヒール、ヒール、ヒール」
三度回復魔法を唱えたところで、傷口は完全にふさがり、同時にパムは意識を失った。
シャルロッテは矢を取り上げ、鏃を見てにおいを嗅ぐが血のにおいしかしない。
しかし、念のためキュアポイズンの魔法をかけておく。
シャルロッテがパムの手当てをしている間に御者が馬をなだめ終えていて、一行は足早にその場から移動し始めた。




